2003年12月19日

アンジェリーナの熱演に注目

「すべては愛のために」(米)

 冒頭、主人公サラ(アンジェリーナ・ジョリー)が弾くピアノ曲の美しい調べが印象的だ。シューマンの名作「トロイメライ」。ドイツ語で「夢想」という意味だ。どこか断定的だが切なさを感じさせる調べは、力強く生き抜き、はかない夢のように散っていったサラの人生を暗示しているようでもある。

 映画はサラという女性の信念の物語だ。裕福な暮らしや夫と子との幸せな日々から救援活動に身を投じ、単身エチオピアに向かう。遠く離れていても、愛と信念を分かち合う「運命の人」青年医師ニック(クライブ・オーウェン)を思い、そのためなら危険な行動もいとわない。「サラとニックはいわゆる不倫じゃないか。しかもニックを好きなら家族となぜ別れないの」なんて言わせない、圧倒的な力強さと純粋さを持ち合わせている。

 舞台となるのはロンドン、エチオピア、カンボジア、チェチェン。それらの地でサラは、戦争と難民の悲劇を垣間見る。たとえセットと分かっていても、貧困と飢餓に苦しむエチオピアの難民キャンプなどの惨状を目にするのは、いたたまれなかった。

 アンジェリーナは熱演。「すべては愛のために」という、ともすれば大げさで安っぽいタイトルのせいで損しているような気がするのは私だけでしょうか。

 【近藤由美子】

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2003年12月12日

ドラマの「延長戦」でパワーアップ

「木更津キャッツアイ 日本シリーズ」(日)

 余命半年と医者から宣告されたら、あなたならどうしますか? 「遊び暮らす」「全財産をギャンブルにつぎ込む」など、今までの日常生活ではできなかったことをやろうとする人が多いのではないだろうか。

 「木更津キャッツアイ 日本シリーズ」の主人公ぶっさんは違う。残された人生を普通に楽しもうとする。ぶっさん自身も友人も親も、ぶっさんの死を当たり前のものとして、淡々と日常を過ごしている。全然、湿っぽくない。病院でベッドを囲むシーンよりも、仲間とバカ騒ぎして普通に日常を楽しむ姿の方が、逆に切なく映る。

 ドラマのラストよりさらに半年生き延びた設定のせいか、ぶっさんがよりパワーアップしたように見える。ビールと野球に明け暮れる日々は相変わらず。だがロックフェスティバルへの参加を決め、新しい恋にも目覚めて「結婚したい」と言い出す。

 キャッツのメンバーがいきなり木更津から国外の無人島に流れ着くという設定は無理があり過ぎる。だがそんなあり得ないことだらけのクドカン(脚本家・宮藤官九郎氏)のストーリー展開にやっぱり引き込まれてしまう。阿部サダヲや古田新太ら脇を固めるクドカン作品常連俳優が相変わらずいい味を出している(個人的には渡辺いっけいが水兵の格好をしてカタコト? の英語で毎日グチるところが好き)。キャッツマニアにはドラマの「延長戦」として楽しめるはずだ。

 【近藤由美子】

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2003年12月05日

トム・クルーズに大和魂教えてもらった

「ラストサムライ」(米)

 33歳で暗殺された坂本龍馬、35歳で処刑された新選組の近藤勇…。彼らが今も日本人の心をガッチリつかんでいるのは、一点の曇りもない生きざまと、その散り方に多くの人が理想を託すからだろう。そんな日本人の美学にぴったり寄り添った歴史ロマンが「ラストサムライ」だ。

 とはいえ、一直線なニッポン賛美に、見ていて気恥ずかしくなってしまう。同じ「日本」を扱った映画「キル・ビル」の場合、無類の日本びいきで知られるタランティーノ監督は、日本人のメンタリティーを熟知した上であえて欧米人の日本人観に合う荒唐無稽(むけい)なエンターテインメントに仕上げて賛否両論を巻き起こした。一方「ラストサムライ」のズウィック監督は「日本人とは何ぞや」というテーマに学者感覚でアプローチ。武士道の精神を記した古典「葉隠」を読み込み、渡辺謙や真田広之にも意見を求めながら「大和魂」を忠実に再現した。その結果、あまりにも神々しくて、うれしい半面、申し訳ないような居心地の悪さも感じるのだ。

 人間関係の設定やラブシーンに突っ込みどころ満載だが、物語のスケールや登場人物の躍動感は圧巻だ。オールグレン大尉役のトム・クルーズの立ち回りも見事で、甲冑(かっちゅう)姿もよく似合う。「サムライ・スピリッツにほれ込んだ」という言葉通り、徹底的に役に取り組んだ誠実さが伝わってくる。サムライ集団を率いる勝元役の渡辺謙もトムに負けない存在感があり、見せ場のうまさに泣くのも忘れて見入ってしまった。

 武運尽きるまで戦った勝元とオールグレン大尉のクライマックスは、日本人の美学の集大成。アメリカ人がここまで正確に日本人の心を理解し「滅ぶ者」たちに心を寄せることに驚かされる。同時に、トム・クルーズに大和魂を教えてもらい、励まされている現実に、複雑な心境でもある。

 【梅田恵子】

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