2003年10月31日
1人の女性が「軍人ロボット」変えた
「ティアーズ・オブ・ザ・サン」(米)
1人の女性の存在で男の表情はこんなにも変わるものか。ラストシーン、ブルース・ウィリス(48)演じるウォーターズ大尉が女医リーナ・ケンドリックス(モニカ・ベルッチ)に抱きしめられる。リーナの胸に顔をうずめたウォーターズは、母親に抱かれた子供のようだった。リーナに頭をなでられると「僕、頑張ったんだよ」とでも言っているような安心しきった表情をのぞかせた。
ウォーターズは任務成功率100%を誇るエリートで「軍隊こそが人生のすべて」と言い切る男だった。冒頭、軍の上層部からの命令に「こんな簡単な命令でいいのか」と言わんばかりの薄笑いを浮かべる。感情を面に出さず、命令を完ぺきに実行する「軍人ロボット」だった。
ところが、リーナとの出会いから徐々に表情が変化していく。「難民を見捨てられない」と涙ながらに懇願、時にはウォーターズにビンタを見舞うリーナのむき出しの感情に触れ、人間らしさを取り戻していく。
この映画は当初「ダイ・ハード4」として企画が進んでいた。タイトルが変わった理由は明らかにされてはいないが、アクションよりも、人間ドラマを前面に押し出した結果だろう。ウォーターズ、リーナら登場人物の背景をもっと深く描けば、ドラマにより厚みが出たのでは、と惜しまれる。
【大越慈】
2003年10月24日
6年待たせた超B級映画
「キル・ビル」(米)
このケッサクな無国籍活劇を地球上で最も楽しめるのは、我々日本人だろう。世界中の映画ファンを6年も待たせたクエンティン・タランティーノ監督の新作だ。主な舞台は日本。隠れた主役は日本刀。キメぜりふは日本語だ。それに、挿入歌を歌うのは梶芽衣子アネェだぜ。
例えばこんなシーンがある。
「おきなわ」とプリントされた怪しげなTシャツを着たスラリ金髪殺し屋ユマ・サーマン(「パルプ・フィクション」でトラボルタとダンスしていた麻薬女)が、これまた怪しげなおすし屋さんののれんを「どうも~」と言いながらくぐると、カウンターの向こうで千葉真一がニコニコしている。まずそうな赤身を握る千葉。実は彼こそが「影の軍団」の服部半蔵、伝説の刀鍛冶だった…。このシチュエーションだけで、拙者、笑いが止まりませぬ。
例えばこんなシーンもある。
トーキョーの闇組織のボスになったオリエンタル美女ルーシー・リュー(「チャーリーズエンジェル」で一番控えめだった人ですね)が日本の親分衆を集め襲名披露。その中に1人だけ異議を唱える親分がいた。そこでリュー、日本語で言う。「ハラニイチモツオアリノヨウデスネ」。彼女は完ぺきな日本語と思っているが、イントネーションが変だ。カタコトだ。ハッキリ言って爆笑だ。逆に、それがいい。気迫がこもってるから感情がビシビシ。日本人も見習わなくてはなるまい。英語がヘタクソでも気迫だけで世界に飛び出せるんだぞ。
もちろん、この作品の正しい見方は他にある。首が手が足が目玉が血が飛ぶ。スタイリッシュなセットにオタク心をくすぐるカメラワーク。お得意の時間軸が交錯する構成。心躍るまっとうな超B級映画だ。惜しむらくは完結しないこと。実は今回は前編。後編は来年公開予定とのこと。ま、6年も待たされたのだから、たった1年で次作が見られると感謝しなきゃね。
【高田博之】
2003年10月17日
夢の対決、どっちが勝つ!?
「フレディvsジェイソン」(米)
眠る者を悪夢へ導き、夢の中で殺りくを繰り返した惨劇から約10年。ホラー界から引退したと思われていたフレディに、新たな一戦が用意された。ジェイソンとの2大殺人鬼対決だ。映画の中で2人は2度対決する。
<第1ラウンド>フレディのホーム、夢の中だ。「Welcome to my nightmare!(悪夢へようこそ!)」とフレディはジェイソンに精神安定剤を注射し、悪夢の中に引きずり込む。フレディはナイフ爪で攻撃し、ジェイソンもなたで反撃して一歩も引かない。しかし、ジェイソンはタンクから流れ出した苦手な水を見ると、急に攻撃をやめてしまう。このラウンドは地の利に勝るフレディが取った。
<第2ラウンド>現実の世界。ジェイソンのホーム、クリスタルレイクの燃える小屋の中で2人が相まみえる。火が苦手なフレディの力が一瞬弱まったところで、ジェイソンの逆襲が始まる。なたで刺し、怪力でフレディを投げ飛ばす。この後、対決は意外なクライマックスを迎える。
ファンが待ち望んだ夢の対決だ。二転三転する脚本は文句なく面白い。ただし、人間の血しぶきが飛ぶシーンなどは減り、これまでの作品に比べると「怖さ」がやや薄まった印象も受ける。ホラー嫌い、スプラッター嫌いでも最後まで楽しめるが、一方でマニアからは「物足りない」という声が出るかもしれない。
【近藤由美子】
2003年10月13日
スタローンの役“奪った”リュー
「バリスティック」(米)
まさに最強の女だ。ルーシー・リュー(36)演じる元連邦捜査局(FBI)エージェント、シーバーがあらゆる格闘技と大量の弾薬を駆使し、屈強な男たちを次から次へとなぎ倒していく。「チャーリーズエンジェル」シリーズではキャメロン・ディアス、ドリュー・バリモアとともに「最強のエンジェル」として活躍するが、今回はたった1人での孤独な闘いに挑んだ。家族の復しゅうに燃える冷酷で非情な「殺人マシン」を見事に演じきっている。
ルーシーが演じた役柄は当初、男性として描かれ、候補にはシルベスター・スタローンの名前が挙がっていたという。それほど危険な役をルーシーはほとんどスタントなしでこなしている。表情ひとつ変えずにさっそうと男たちに立ち向かう。銃を構え、標的を狙う眼光は、見ていて鳥肌が立つほど鋭い。
派手なアクションの半面、劇中で子供を思いながら折り鶴を折る指先に女性らしさがチラリとのぞいた。「チャーリーズエンジェル」ではディアスらの陰に隠れたイメージだったが、この作品で女性アクションスターとして完全に一本立ちした。
【大越慈】
2003年10月10日
2人の潜入者、運命が交錯する
「インファナル・アフェア」(香港)
トニー・レオン(41)とアンディ・ラウ(41)。香港映画界のスター2人が織りなす心理劇だ。香港マフィアの黒社会に潜入した捜査官ヤン(レオン)と、警察組織に入り込み機密情報を流すラウ(ラウ)。10年間も敵組織に「イヌ」として潜入し続ける2人の男の苦悩と心理状態が描かれている。
ラストでは2人がそれぞれお互いの存在を知り、最初で最後の対決をする。早く警察に戻りたいヤンと警察の地位にしがみつきたいラウ。薄汚れたどんよりした空の下、周りに何もない静かなビルの屋上。派手なガンアクションもなく、声を荒らげることもない。交わす言葉こそ少ないが、彼らは心の叫びがスクリーンを通じて伝わってくる。どんな銃撃戦よりも迫力を感じるシーンだ。
同じ悩み、同じ葛藤がありながら、ボスに対する忠誠心、最愛の彼女に対する表現方法などまるっきり対照的な2人。「静」のレオンと「動」のラウという彼らの演技を見比べるのもおもしろい。1人だけのエピソードでも作品として十分成り立つような内容だが、2人同時にストーリーが展開していく。とことん練り上げられた脚本。こんな香港映画もあるんだと認識を新たにした。
【大越慈】
2003年10月03日
今回のキーワードは「テロ」
「陰陽師2」(日)
世界にも類を見ない長寿シリーズ「男はつらいよ」でおなじみの山田洋次監督に、観客に支持され続けた理由を聞いたことがある。いろんな要因の中の1つとして「一見マンネリだけど、実は時代性を反映した描写やエピソードをきちんと入れているんですよ」と話してくれた。
そこで「陰陽師2」である。2年前に大ヒットした作品の続編で、製作側は今後もシリーズ化を狙っている。1000年前の平安京を舞台にした話だけに、今という時代性の反映は難しいように思えるが、前作も新作も、現代を表すキーワードが見え隠れしている。前作は「ストーカー」。そして今回は、ずばり「テロ」である。
前作に続き、都の起こった難事に、占星術と超能力を併せ持ったスーパーヒーロー、安倍晴明が挑んでいくという基本線は変わらないが、今度の相手は、夜ごと殺りくを繰り返す鬼である。事件の内幕は、圧倒的な力を持つ朝廷に国を滅ぼされた一族の長が祖国再生のため、深夜の平安京で“テロ”を繰り返していたというもの。映画後半で、テロ行為に出た側の心情も描かれており、単純な善悪の対決構図になっていない。これはまさに、今の世界情勢を反映しているようにも感じた。
分かりやすい娯楽作品だけに、時代性をきちんと反映させた脚本の妙に、シリーズ化への意欲を感じた。スパイの戦いを通して現代を描く「007」の時代性にも負けていない。
【松田秀彦】