2008年02月26日

華やかさに欠けたアカデミー賞、サプライズもなし

 第80回アカデミー賞授賞式が24日、ハリウッドのコダック・シアターで行われ、下馬評通り「ノーカントリー」が作品賞、監督賞、脚色賞、助演男優賞の最多4冠に輝きました。今年は長引いた米脚本家組合(WGA)のストライキの影響で例年よりも寂しい賞シーズンとなっただけでなく、小規模作品のノミネートが多かったことで全体的に華やかさに欠けるアカデミー賞となりました。

 カザフスタン映画「モンゴル」で外国語作品賞にノミネートされていた浅野忠信は、日本人関連作として32年ぶりとなる受賞が期待されていましたが、残念ながら受賞には至りませんでした。同賞はオーストラリアから出品された「ヒトラーの贋札」が受賞。そして2年連続でメーキャップ賞にノミネートされていた辻一弘さんも受賞を逃し、日本人の受賞は今年も実現しませんでした。

 今年のアカデミー賞の最大の特徴は、バイオレンスでヘビーな内容の作品が多かったこと。司会のジョン・スチュワートも冒頭で「今年のノミネート作品はとても暗いね。10代の妊婦に感謝!」と10代で妊娠する女子高生を描いた「Juno/ジュノ」を引き合いに絶妙なトークで会場を沸せていました。作品賞にノミネートされていた5作品は、受賞作「ノーカントリー」をはじめ、大作は皆無。どれもが一般受けする内容ではないことから、開催前から今年は視聴率の低迷も避けられないと予想されていました。

 今年のアカデミー賞はABCテレビが独占生中継していますが、過去の視聴率を振り返ると、大作がノミネートされた年ほど高視聴率をたたき出していることがわかっています。「タイタニック」が圧勝した99年は、過去30年で最高となる視聴率をたたき出し、近年では「ロード・オブ・ザ・リング・リング」が過去5年で最高の視聴率となっていました。そのため、今年は期待するほどの視聴率が集められないのではないか、と誰もが予想しています。

 主演男優賞は、予想通り「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」のダニエル・デイ=ルイス。主演女優賞は「エディット・ピアフ~愛の賛歌~」のマリオン・コティヤールがフランス人女優としては49年ぶりとなる受賞を果たしました。助演男優賞は予想通り、「ノーカントリー」のバルデン・バルデム、助演女優賞は大方の予想を裏切り、「フィクサー」のティルダ・スウィントンが受賞しました。

 しかし、特に大きなサプライズもハプニングもなく、第78回以来2度目の司会となったジョンもそつのない軽快なトークで切り盛り。しかし内容的には、世論を反映するかのような、近年まれに見る地味なアカデミー賞となりました。業界的にも、アカデミー賞のアフターパーティーとして最大の規模を誇ったヴァニ
ティ・フェア誌のアフター・パーティーが中止となるなど、お祭りムードを自粛する傾向が強く、かなり地味な一夜になったことは否めません。

 そんな中でレッドカーペットでひときわ目立っていたのが、出産ラッシュを迎えているハリウッド女優たち。司会のジョンが、妊娠中の女優をネタにトークを繰り広げていましたが、今年は二コール・キッドマン、ジェシカ・アルバ、ケイト・ブランシェット、アンジェリーナ・ジョリー、ハル・ベリーと、妊婦がとても多かったのです。数日後には彼女たちのファッションがタブロイド誌を飾ることでしょう。

 米社会の闇を描いた作品が多かった2008年のアカデミー賞ですが、来年はどんな作品、俳優、監督が栄光を手にするのでしょう。来年は華やかなアカデミー賞となることを期待しましょう!

  (このコラムの更新は毎週火曜日です)

February 26, 2008 11:39 AM | トラックバック (1)

2008年02月19日

今年のアカデミー賞、予想しちゃいます!

 今年もアカデミー賞の季節がやってきました。24日にハリウッドのコダック・シアターで行われる授賞式を前に、今年のアカデミー賞の行方を予想してみました。

 昨年11月から続いた米脚本家組合(WGA)のストの影響で、今年は前哨戦といわれるゴールデン・グローブ賞授賞式が中止となり、アカデミー賞も一時は開催が危ぶまれていました。そんな暗いハリウッドの現状を反映するかのように、80回を迎えた今年のアカデミー賞は、米社会の闇を描いた作品が目立っています。血が吹き飛んだり、銃が乱射されるなど暴力的な表現が多いことが最大の特徴で、保守的なアカデミー会員たちにこの残虐性がどこまで受け入れられるかが注目されています。

 作品賞は、最多8部門にノミネートされている「ノーカントリー」と「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」の一騎打ちとなるでしょう。テキサスを舞台に米国社会の暴力性に迫る「ノーカントリー」はコーエン兄弟がメガホンを取り、コイントスで殺人を決める冷酷な殺し屋と昔かたぎの保安官を対比させながら、独特の世界感で人間の闇を描いています。カリフォルニアの石油王にのし上がった男性の半生を描いた「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」は、ダニエル・デイ=ルイス演じる主人公の偏執的なまでに成功にこだわる姿が印象的です。対抗馬は、もみ消し屋をしていた主人公(ジョージ・クルーニー)が、大企業の陰謀を知り、告発を決意する社会派ドラマ「フィクサー」。また、高校生の妊娠を描き、小品ながらノミネートされた「JUNO ジュノ」も、台風の目となるかもしれません。

 主演男優賞部門も、残虐なキャラクターが目立っています。「スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師」は、ノミネートされたジョニー・デップが演じる理髪師が、家族を奪われた復讐から剃刀で客の首を次々とかき切る残虐シーンが話題となりました。また、ビゴ・モーテンセンがノミネートされた「イースタン・プロミセズ」も、サウナで全裸で刺客との立ち回りを演じるなど、過激な暴力描写が多く登場します。

 本命は「ゼア・ウィル・-」のダニエル・デイ=ルイスでしょう。しかし、ノミネート8度目でゴールデン・グローブ賞を初受賞したジョニデも有力候補です。しかし、ダニエルも同じくゴールデン・グローブ賞ドラマ部門で主演男優賞を受賞しており、ドラマ部門受賞者がアカデミー賞も受賞するケースが多いことから、ダニエルが1歩リードというところでしょうか。また、「告発のとき」で予想外のサプライズ・ノミネートを果たしたトミー・リー・ジョーンズの健闘も期待大です。

 助演男優賞は、「ノーカントリー」で不気味な殺人鬼を「怪演」したハビエル・バルデムが最有力。対抗馬は、ナショナル・ボード・オブ・レビュー、全米映画批評家協会賞を受賞している「ジェシー・ジェームズの暗殺」のケイシー・アフレックでしょう。兄ベン・アフレックの初監督作品にも主演し、高い評価を受けていただけに、サプライズ受賞もあるかもしれません。

 主演女優賞は、混戦が予想されます。俳優組合賞、ゴールデン・グローブ賞など重要な賞を総なめしている「アウェイ・フロム・ハー 君を想う」のジュリー・クリスティが1歩リードかと思われていますが、「エディット・ピアフ~愛の賛歌~」でマリオン・コティヤールが演じたエディット・ピアフの鬼気迫る演技はオスカー好み。ゴールデン・グローブ賞も受賞しており、オスカー受賞の可能性も十分です。また、「JUNO ジュノ」で16歳で妊娠する高校生をさわやかに演じたエレン・ペイジも受賞の可能性があるでしょう。

 助演女優賞部門は、「アイアム・ノット・ゼア」でボブ・ディランを演じたケイト・ブランシェットが1歩リード。ゴールデン・グローブ賞、全米映画批評家協会賞などを受賞しており、主演女優賞とのダブル受賞にも期待がもたれています。

 監督賞は「ノーカントリー」で、「ファーゴ」以来2度目のノミネートを果たしたジョエル&イーサン・コーエン監督が優勢でしょう。ただ、暴力描写が票割れを招く恐れもあります。対抗馬は、「ゼア・ウィル・-」のポール・トーマス・アンダーソン監督です。

 日本人絡みでは、外国語作品賞にノミネートされた浅野忠信主演のカザフスタン、ロシア、ドイツの合作映画「モンゴル」と、エディ・マーフィ主演の「マッド・ファット・ワイフ」で特殊メイク賞にノミネートされたメイクアップ・アーティストの辻一弘さんの受賞も期待したいところです。

 質と共に興行成績も大きな判断基準となるアカデミー賞。まだまだ保守的な一面もあり、正統派な作品が好まれる傾向が強いために、最後の最後でドンデン返しがあるかもしれません。

  (このコラムの更新は毎週火曜日です)

February 19, 2008 10:55 AM | トラックバック (1)

2008年02月12日

WGAストは終わりそうだが…残った大きな傷跡

 昨年11月から始まり3カ月を超えた米脚本家組合(WGA)のストライキが、ようやく終結の時を迎えることになりそうです。インターネット配信や他の新しいメディア、DVDの売り上げによってもたらされる収益の配当金を巡って始まったストライキは、過去20年間で初めての大規模なものとなりました。その影響は計り知れず、テレビ、映画業界を巻き込んで多大な損失を生んだ3カ月となりました。映画やテレビが製作されるロサンゼルスが被った経済損失は、ロサンゼルス・タイムズ紙によると、3億8000万ドルから15億ドルにのぼると算出されています。

 テレビ業界では、「24」や「HEROES」など人気ドラマが次々と製作中止に追い込まれ、スト開始直後から深夜の人気トーク番組は再放送に切り替わる事態に陥りました。映画の宣伝をかねて出演予定だったスターのスケジュールは白紙となり、映画の宣伝にも多大な影響が出ました。痺れを切らせたNBCテレビの人気トーク番組「ザ・トゥナイト・ショー」が脚本家なしで放送を始めると、司会者のジェイ・レノに脚本家たちから避難の声が集中しました。お茶の間には台本のいらないリアリティ番組やドラマの再放送があふれ、広告収入の激減などテレビ各局も大きな損害を被りました。

 テレビに比べて影響が少なかったと言われる映画界ですが、脚本の手直しが出来ないために撮影が中止される作品が続出しました。トム・ハンクス主演の「天使と悪魔」やジョニー・デップ主演の「Shantaram」など大作がその影響を受けて、製作が延期。その結果、大物スターのスケジュールが空白となる異常事態に。また、脚本の書き直しができないことでブラッド・ピットが「ステイト・オブ・プレイ」から降板するアクシデントにも見舞われました。

 しかし、ジョージ・クルーニーら大物スターが次々とWGA支持を表明。その結果、スターの多くがWGA会員がピケを張る授賞式に出席することができず、各種授賞式が中止になる最悪の年となりました。特にアカデミー賞の前哨戦として知られるゴールデン・グローブ賞授賞式の中止は、業界全体に大きな影響を及ぼしたことは言うまでもありません。一時はグラミー賞授賞式の中止も噂されたほど、今年の授賞式シーズンは最後の最後まで何が起こるかわからない波乱万丈なものとなりました。ゴールデン・グローブ賞授賞式の独占放映権を持つNBCテレビは、2000万ドルと言われる広告収入を失い、授賞式主催者も500万ドルの放映権を失う結果に。さらにこれら賞レースに関わる作品の興行にも大きくな影響が出たことは言うまでもありません。

 各授賞式が中止になっていることで、例年のようなアフターパーティーが開催されず、イベント会社や会場となるレストランなどにも多大な損失が生まれました。毎年多くのスターを集めることで知られるアカデミー賞のアフターパーティーとしては最大のヴァニティ・フェアが主催するパーティーも早々に中止が発表されました。こうした損失だけでも、250万ドルはくだらないと試算されています。

 解決の糸口が見つからないストライキに苛立つスタジオは、社員やプロデューサーらを解雇する苦肉の策に出て、映画関連の仕事をする人々の生活が窮地に追い込まれたことも忘れてはいけません。1月初めにワーナー・ブラザースが1000人の社員を一時解雇することを発表。ABCスタジオがお抱えの脚本家やプロデューサーを解雇したのを筆頭に、各スタジオも契約するプロデューサーを放出。被害を被ったのはスタジオで働く人々だけではありません。ロサンゼルスには小道具や衣装を貸し出す会社や撮影時の食事を提供するケータリングなど間接的に映画製作に関わる職に就いている人が大勢います。当然ながら、テレビや映画の製作が中止になると彼らの職も失われることになり、結果的に彼らが普段利用しているレストランも閑古鳥が鳴いて休店開業状態に陥いるなど、ロサンゼルス全体がストライキの影響を受けたといえるでしょう。

 ハリウッド全体が大きな痛手を負ったストライキですが、非常に意義のあるものだったと言う意見が多く聞こえています。果たしてこのストライキは、メディア構造の変革に繋がったのでしょうか。ハリウッドが再び、活気付く日は、もうすぐそこです。

(このコラムの更新は毎週火曜日です)

February 12, 2008 01:04 PM | トラックバック (0)

2008年02月05日

ヒース・レジャーの死巡り問われるメディアの質

 先月22日にニューヨークの自宅で遺体で発見されたヒース・レジャーの薬物使用が疑われる映像をめぐり、ハリウッドが大騒ぎとなっています。

 ヒースの死因は現在も特定されておらず、さまざまな憶測が取りざたされる中、自ら薬物を使用していることを語る衝撃の映像が存在したことが発覚。CBCテレビの芸能番組が、その映像を独占入手し、「エンターテイメント・トゥナイト」と「インサイダー」で放映すると予告したことで、ハリウッドに大きな衝撃が走ったのです。

 2年前に撮影された問題の映像は、ハリウッドセレブ御用達のシャトーマーモント・ホテルの一室で行われたパーティーの様子を撮影したもの。映像には人物を特定できない男性が、コカインを吸引する様子などが映っており、薬物が並んだテーブルをヒースら数人が囲んでいる様子などもとらえられています。別室に当時恋人だったミッシェル・ウィリアムズと生後3カ月の長女マチルダちゃんが宿泊していたことも映像からはうかがえ、「こんなことをしたら(ミッシェルに)ひどく怒られちゃう」と話し、「1日にマリファナを5本吸っている」とも語っています。

 1月30日に翌日放送と予告編が流されると、CBSテレビには抗議が殺到。ヒースの広報事務所ID PRは、すぐに「恥ずべき最低な金もうけ」とコメントを発表し、無神経なストーリーをでっち上げるために大金を投じたと、映像を購入した番組に抗議しました。「ブロークバック・マウンテン」で共演したジェイク・ギレンホールをはじめ、ナタリー・ポートマンやロビン・ウィリアムズ、サラ・ジェシカ・パーカーらハリウッドスターも同様に、映像公開に抗議をしたといわれ、すぐにCBSが「家族を尊重して放送を中止にします」と声明を発表する騒動となりました。

 問題の映像はお蔵入りしましたが、米メディアではヒースの薬物使用疑惑を報じています。USウィークリー誌は、コカイン、ヘロインなどさまざまな薬物とアルコールの中毒であったと報じています。06年にアカデミー賞にノミネートされた直後に、ミッシェルはリハビリ施設への入所を勧め、マリブにある高級リハビリ施設まで連れて行ったものの、ヒースは入所を拒み、それ以来2人の間で口論が絶えなくなったと伝えています。2人の破局の原因も、ヒースの薬物中毒にあったといわれており、破局後は寂しさを紛らわすためにさらに薬物に手を出すようになったともいわれています。

 しかし、初期の司法解剖では違法薬物は一切検出されておらず、死因をめぐっては、睡眠薬など処方薬を誤って大量に摂取したことが原因との見方が強まっています。

 今回の騒動の背景には、パリス・ヒルトンの収監やブリトニー・スピアーズの奇行がトップニュースとして扱われる昨今のメディアのあり方があります。イラク戦争やさまざまな世界情勢など報道するべきニュースがたくさんある中で、多くのメディアがハリウッドセレブのスキャンダルをトップニュースで報じることに疑問を投げかける声も数多く聞こえています。今回の1件もそんなセンセーショナリズムを追求しすぎるメディアへの反発と取ることもできるでしょう。

 若すぎるヒースの死は多くのハリウッド関係者にも大きな衝撃を与えています。2日にロサンゼルスで行われたヒースをしのぶ会には、トム・クルーズとケイティ・ホームズ夫妻やシエナ・ミラー、シャニン・ソサモンら多くの俳優仲間、監督らが参列。もちろんミッシェルの姿もありました。ミッシェルは「どうか静かに彼の死を悼む時間をください。私の心は張り裂けそうです」とプライバシーの尊重を求めるコメントを発表しています。

 亡くなった人の薬物使用疑惑を興味本位に今更暴くことに何の意味があるのでしょうか。大切な人を失った遺族やファンの気持ちを察すると、このような映像に莫大(ばくだい)な金額を支払い、放映することに意義は感じられません。

(このコラムの更新は毎週火曜日です)

February 5, 2008 09:26 AM | トラックバック (0)