2007年05月29日

「ハリウッドをだますなら今だなあ」

 昨年の東京国際映画祭で最優秀作品賞など史上初の4冠に輝いた「雪に願うこと」が、「What the Snow Brings」のタイトルで6月1日からビバリーヒルズのLaemmle's Music Hallで公開されることが決まりました。

 「リング」や「呪怨」などリメイク作品が次々と公開され、邦画がハリウッドでも脚光を浴びるようになってきましたが、まだまだ邦画=ホラーorアニメというイメージが強いようです。「雪に願うこと」のような家族のきずなを描いた人間ドラマがハリウッドで公開されることで、ホラーやアニメ以外の邦画にも注目が集まり、より良質な日本映画をハリウッドでも楽しめる時代が到来することに期待したいものです。

 このほど、プロモーションのためにロサンゼルスを訪れていた根岸吉太郎監督にインタビューをする機会に恵まれ、監督から見たハリウッド、ばんえい競馬に対する思いや自身が思い描く兄弟愛などについて熱く語ってくれました。

 同作は、北海道・帯広のばんえい競馬場を舞台に東京で起業するも全てを失って田舎に戻る弟(伊勢谷友介)とばんえい競馬の調教師をしながら老いた母親の面倒を見ている兄(佐藤浩市)という対照的な兄弟が、厩舎で寝食と労働を共にしながら、互いに過去を清算して再びきずなを取り戻し、未来へ向かって歩き出すという物語。脇を固める俳優陣も山崎勉や小泉今日子、吹石一恵、津川雅彦ら個性豊かな実力派が勢ぞろい。体重が1トンもある大きなばん馬が数百キロもあるソリをひきながら障害を越える北海道の文化遺産レース「ばんえい競馬」の迫力に迫りながら、ぶつかり合いながらも再び分かり合う兄弟愛が丹念に描かれています。

 「原作が気に入ったから」と製作理由について語る根岸監督にとって、男と男がぶつかり合う兄弟の物語はとても魅力的で、最近映画で描かれていないものだと感じたという。「2人がぶつかり合う時に持つ感情の特殊性、ずっと会っていなくても相手が窮地に陥ったときのある種のシンパシーというか、そいつをどうにかしてやりたいという気持ちが出てくる特殊性」にひかれたという。

 馬好きで知られる監督にとって、もう一つの理由は「ばん馬」の存在だった。「レース自体が特殊なもので、そのレースを描くことが映画的に面白いと思いましたね。あの大きな1トンもある馬を正面から、なおかつ近くから撮ったときに人に与えるインパクトは凄いじゃないかと」。

 撮影時期は経営難からばんえい競馬の運営にかげりが差し込み、再生に向けて新たな道を模索している時期と重なり、奇しくも映画が終わった後でばんえい競馬の廃止問題が表面化。一時は存続が危ぶまれたものの、帯広市での単独開催が決まりました。「その過程で、何か支援できることはないかと思いまして、色々な形でコメントを発したりと協力できることはしてきました。ある意味でこの映画があったということは、若干の存続のための力になれたと思います。(今後も)残ってくれると良いですね。そこに暮らしている何百頭もの馬がいて、何百人もの厩務員と調教師と騎手とその家族がいますからね」。

 地元ではこの作品に対する期待感は大きかったはず。「確かにこの映画を作る期待感はあったと思いますよ」と根岸監督。しかし、単なる期待感だけではなく、撮影中は何かを成し遂げようとする仕事人として互いに共感し、共に同じ目標に向かって自然と一緒に映画作りをしていたという。「1つの映画を作るために力仕事をしている人と、馬を勝たせたいと思って力仕事をしている人は共通するんですよ。単純な作業に一生懸命にならないといけないからね」。

 そう語る根岸監督は帯広の観光大使にも任命され、4月27日に帯広競馬場で始まった新生ばんえい競馬では、根岸監督と同作の原作者、鳴海章氏が協賛し、「頼むぞ!新ばん馬 根岸・鳴海杯」というユニークな名称で実施されました。「気分は大使ですね(笑)」。

 ロサンゼルスに滞在して感じたハリウッドの印象については、「ちょろいなと思った」と率直な言葉が飛び出した。「みんなが映画を作りたがって、映画産業ということの頭がうごめいていると感じた。これはだませるなと」と、ハリウッドを痛快に斬る根岸監督。

 昨今のジャパニーズホラーブームに乗ってハリウッドに進出する監督も増えている現状については、「敷居がなくなりましたよね。昔はどうやってそこに行ったら良いのか、分からない。野茂が初めて行って、でもあれは野茂だから出来ると思っていた。でも、新庄が行ったでしょ。新庄みたいなのが行って、4番なんか打ってしまうと、日本の野球選手は皆“なんだオレだって行けるじゃないか”とその瞬間思ったわけよ。日本映画は今そういう状態」とメジャーリーグに例えてコメント。

 「ハリウッドの人たちも第2の新庄がいないかって気分になっているよね。高いお金出して買ってくれないかな。だますなら今だなあ」。そう語る根岸監督がハリウッドで映画を撮るなら、技術的なことよりも日本とアメリカという微妙な関係を人も国も含めてエンターテインメントとして描いてみたいという。

 「ホラーはもう終わりだよね。アメリカ人もジャパニーズホラーにもう飽きちゃった。でもそういうものをきっかけに、他にも色々な日本映画があるということに対して興味を持っているタイミングだからこそ、新しいオリエンタル志向に対して、上手く琴線に触れればこういう作品を見るきっかけになると思う。日本映画には幅がある。もう一方の幅をぜひ見て欲しい」。

 渡辺謙主演の「明日の記憶」も6月8日にロサンゼルスで公開されることが決まっており、今夏のロサンゼルスは邦画ブームに沸きそうです。【千歳香奈子】

(このコラムの更新は毎週火曜日です)

May 29, 2007 10:37 AM

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