2006年11月28日
“新ボンド”の歴史が始まった
「007」史上初の金髪ボンドとなった6代目ダニエル・クレイグの最新作「007/カジノ・ロワイヤル」が、意外にも高評価を受けています。
新ボンドに起用が決まった直後から熱狂的なボンドファンから、「華がない」「金髪ボンドはだめ」「耳が大きすぎ」「じゃがいも顔」「無名」などと大バッシングを受け、挙句の果てにはネット上で世界中のファンに新作を見ないように呼びかける「ボイコット運動」まで起こる騒ぎになってしまったクレイグ。「なぜピアース・ブロスナンが降板したのか?」と抗議が殺到し、多くのファンがブロスナンのボンド続投を訴えていました。
しかし、17日の全米公開直前から、そんな風向きも変わってきました。作品の出来栄えが良いと批評家らが絶賛し、その前評判がファンを劇場へと向かわせたたほか、英ロンドンで行われたエリザベス女王も出席したワールドプレミアがメディアで大々的に取り上げられたことなどが追い風になり、ボイコット運動の余波などまったく感じさせない大ヒットとなったのです。
奇しくも踊るペンギンがキュートなアニメ「ハッピー・フィート」には僅差で敗れたもの、公開直後の週末3日間で4710万ドルの興行収入を記録し、ブロスナンの「007/ダイ・アナザ・デイ」を抜き、ボンド映画歴代2位を記録。2週目に入っても人気に衰えはなく、全世界での興行収入は現時点で2億2440万ドルに達し、ボンド映画史上最高のヒット作となっています。
英国でシリーズ最高となる興行収入を記録し、インドでも外国映画の新記録を樹立するなど、これまでのバッシングが嘘のような好調な滑り出しを見せている新ボンド。意外なところでも、その余波が見られます。これまでボンドが飲むお酒と言えば、「ウォッカ・マティーニ」が定番でしたが、今作のボンドの決めぜりふは、“Three measures of Gordon’s, one of vodka, half a measure of KinaLillet, shake it over ice then add a thin slice of lemon peel.(ゴードン3、ウォッカ1、キナ・リレ半分に氷を入れてシェイクし、薄切りレモンの皮を添える)”。カジノでこれを飲む様は実にきまっているのですが、このせりふの影響で、キナ・リレを製造するフランスの小さな酒造が世界中から注目され、公開直後から問い合わせや注文が殺到しているのだとか。
今作は原作シリーズ第1作目であり、いかにしてボンドが007になっていくかという過程が描かれています。シニカルでオシャレなボンドになる以前のまだ垢抜けない、泥臭いボンドが主人公。そういう意味で、クレイグはとてもはまり役であったと思います。
クレイグの代表作と言えば、「レイヤー・ケーキ」や「ミュンヘン」。最近では作家トルーマン・カポーティを描いた「インファマス(悪名)」で、カポーティと同性愛に陥る死刑囚役でキスシーンまで演じたことが記憶に新しいです。一般的には無名に近いのですが、悪役から同性愛者まで幅広い演技が出来る役者であり、インディー系やヨーロピアン・アート系の作品に好んで出演するクレイグの俳優としての素質は以前からかなり高く評価されいました。そんな俳優がどんなボンドを演じるのか、興味を持って見守っていた評論家や映画ファンも多かったはずです。
制作サイドはクランクイン前からクレイグの新ボンドに自信を見せていました。実際に私が、今年3月に撮影現場を訪れ取材した際も、「クレイグは歴代ボンドの中で、もっともセクシー」(プロデューサー)「原作者のフレミングが語ってきたボンド像に一番近いボンド。危険なセクシーさと闇を持ち合わせ、鋭くそして美しい」(監督)と、いずれもクレイグの新ボンドを絶賛していました。
初の任務に就く若きボンド。洗練される前の粗削りな感じや、運命の女性に心を奪われていく様など人間ボンドをクレイグはとても魅力的に演じています。ピアースのセクシーさとは違う、ちょっと危険でワイルドな感じ。もちろんショーン・コネリーとも、ロジャー・ムーアとも違う。全く新しいボンド像を見せてくれています。「007」シリーズの新たな歴史が今、幕を開けたのです。
(このコラムの更新は毎週火曜日です)
November 28, 2006 01:13 PM
トラックバック
このエントリーのトラックバックURL:
http://blog.nikkansports.com/mt/mt-tb.cgi/7919
