2006年09月26日

日本でのハリウッド映画の低迷と邦画の好調

 邦画ブームに沸く日本で「21年ぶりにが洋画を上回る見通し」という記事を目にしました。確かにこの数年、日本では「ハウルの動く城」や「踊る大捜査線 THE MOVIE2 レインボーブリッジを封鎖せよ!」など興行100億円を超える作品が次々と現れ、邦画ブームを牽引。今や完全にハリウッド映画は邦画に押されているのが現状と言えるでしょう。

 ハリウッド映画と言えば、これまでは日本は本国アメリカに次ぐ消費国であり、ある意味良いお得意様でした。ハリウッド業界人も「日本人はハリウッド映画が好きだ」と思っていますし、「日本で売れてなんぼ」とそろばん勘定を弾いている節もあります。世界各国のマスコミが集まるジャンケットと呼ばれる映画取材の時、インターナショナル(本国米国以外のマスコミ)の過半数近くが日本人ライター軍団だったり、日本人マスコミ限定の取材日があったりと、各映画会社とも日本のPRにかなり力を入れているんだと改めて感じる場面をこれまで何度か経験してきました。

 ハリウッドも近年は邦画のリメークが相次ぎ、こちらで公開される邦画も年々増えています。それでも邦画はまだまだマイノリティー。一般に邦画が受け入れられる土壌はまだそろってはいません。そんな中、今日のロサンゼルス・タイムズ紙に日本におけるハリウッド映画の低迷と邦画の好調ぶりを伝える特集記事が掲載されていました。とても興味深い記事で、ますますハリウッドにおける邦画の注目度が上がっていることを感じさせるものでした。

 “Old Hollywood, new Japan”と題された記事は、アニメや人気テレビドラマの映画化などが邦画ブームの引き金になっていると、フジテレビのプロデューサー、亀山千広氏のインタビューと共に紹介しています。

 この記事によると、昨年日本では92年以来過去最高となる356本もの邦画が制作されたという。昨年は全興行収入に占める邦画のシェアが8年ぶりに40%を突破したという記事を今年の初めころに読んだ記憶があり、なるほどと改めて制作されている邦画の多さに驚かされました。当然ながらハリウッド映画は日本で軒並み苦戦を強いられています。昨年の目立ったハリウッド映画と言えば「ハリー・ポッターと炎のゴブレット」の115億円くらい。今夏も「日本沈没」や「LIMIT OF LOVE 海猿」、アニメ「ゲド戦記」など、邦画の大作が目白押しで好調であると伝えています。そんな中でもジョニー・デップは別格であり、ジョニデ作品はコンスタントにヒットをしていることや、「ダヴィンチ・コード」など一部の大作は日本でもヒットしてる現状などを細かに報じています。

 確かに最近のハリウッド映画はシリーズ化やリメーク、ワンパターンな展開、内容のないド派手なCGやアクションだけが見どころと言ったものが多く、エンターテインメントとして純粋に楽しめる作品や心を奪われるような素晴らしい作品は少なくなっているような気がします。それに比べ、邦画は面白いと感じるものが増えているのは事実。ハリウッド映画のマンネリ化は本国でも以前から指摘されています。面白い脚本が少なく、過去の作品や外国作品のリメークに頼り、1度ヒットするとすぐに続編を作る。オリジナリティーにかけること主な要因です。

 「日本人は笑ったり、泣いたりする映画を求めている。身近なキャラクターを求めている。日本人のシュワルツェネッガーはいらない」と、インタビューの中で亀山氏は語っています。確かにそうかもしれません。現実離れしすぎたハリウッド映画よりも、身近な話題を描いた邦画の方が共感できる。邦画にあってハリウッド映画にないものは、そういう心の部分なのかもしれないと改めて思いました。派手な爆破シーンや人がたくさん死ぬことはないけれど、見終わった後で心が暖かくなったり楽しい気分になる。邦画にはそんな要素があります。また若者を意識した作品も多く作られるようになり、シネコンの発展と共に新たなエンターテインメントとして邦画が受け入れられるようになってきたこともあるでしょう。

 もちろんハリウッド映画にもコメディーはあるが、文化の違いで日本人とは笑いのツボがあわないことも多いので、ヒットはあまり望めません。かつては人気スターが出演していただけでよかった時代もありましたが、メディアが多様化する中それだけでは大ヒットさせることは難しくなっています。

 日本だけでなく、本国でも興行収入は年々減少傾向にあります。高騰する制作費、海賊版などの問題を理由にあげる人も多いですが、根本的なネタ不足は深刻。これから年末にかけて、来年のアカデミー賞を狙う作品の公開が控えています。ここで巻き返しを図ることができるのか注目です。

(このコラムの更新は毎週火曜日です)

September 26, 2006 09:49 AM | トラックバック (3)

2006年09月19日

ブッシュ大統領暗殺を描く、過激なストーリー

 米同時多発テロから5年。今年はテロを題材にした作品が次々と公開されて話題となりましたが、今度はブッシュ米大統領が暗殺されるというショッキングなテーマの作品が登場し、大きな物議を醸しています。

 制作したのは英国人のテレビディレクター、ガブリエル・レインジ氏。「デス・オブ・ア・プレジデント(大統領の死)」と題された同作品は、10日にトロント国際映画祭で世界初お披露目されるやお隣米国のメディアは「ふざけている」と大ブーイング。上映後の観客の反応も賛否両論だったようです。というのも、本物のブッシュ大統領のニュース映像を使い、暗殺シーンはCGで大統領の顔を合成し、ドキュメンタリータッチで描いているのです。反ブッシュ政権を描いたマイケル・ムーア監督のドキュメンタリー「華氏911」よりも過激なそのストーリーとは…。

 07年シカゴで経済団体の前でスピーチを終えた大統領が、ホテルを出ると外ではイラク戦争反対の抗議の真っただ中。そのさなか車に乗り込もうとしたところ、何物かに銃で撃たれて暗殺される。政府はあるシリア出身の男性に焦点を合わせて捜査を始める-。

 もちろん、全て架空の物語でフィクションなのですが、実際に鑑賞した人によると「かなりリアル」だったということで、「現役の大統領とおぼしき人物を暗殺する行為は不謹慎だ」などと非難を浴びることになったのです。

 10月に英国のテレビ、チャンネル4にて放映されることが決まっていますが、もちろんテーマがテーマだけに米国での上映は決まっていませんでした。しかし、トロント国際映画祭での反響が覚めやらないうちにニューマーケット・フィルムが米国での配給権を購入。数カ月以内に全米公開に踏み切ることを発表したのです。ニューマーケット・フィルムは、あのメル・ギブソン監督のキリストの最期を描いた「パッション」を配給したことでも知られています。

 演説シーンは今年初めに実際に行われた本物のシーンが挿入されており、大統領は架空の人物ではなくCG合成でブッシュ本人の顔。まさに、米国の横暴ぶりを批判する反ブッシュ映画と言っても過言ではありません。しかし、レンジ氏は「これはブッシュ大統領を攻撃するものではなく、現在想像し得るアメリカの将来像を描いたドキュメンタリーふうのフィクション。架空の大統領では観客の反応はまったく違うものになっていたと思うよ」と説明しています。

 まだ実際にこの作品を見たわけではないので論議はできませんが、長引くイラク戦争、依然としてテロの危機に日々さらされている米国では、実際に起きても何の不思議もない事件。それを実際に映像として見せられた時に、どう感じるのかは人それぞれ違ってくるように思います。また、9・11テロを経験し、ニュースから幾度となく流れたあのショッキングな映像を脳裏に記憶している私たちにとっては、これくらいのインパクトがないともう驚かなくなっていることも事実なのかもしれません。

 レンジ氏の自宅には暗殺を予告する脅迫電話が後を絶たないと言います。今後、アメリカでどのようにPR活動をするのか、またメディアがこの作品をどのように扱うのか、また見た人々の感想なども気になるところ。エンターテイメント作品として革新的で新鮮な作品に仕上がっていることを期待したいものです。

(このコラムの更新は毎週火曜日です)

September 19, 2006 02:25 PM | トラックバック (3)

2006年09月12日

オスカー前哨戦? トロント映画祭開催

 日本ではあまりメジャーではありませんが、英語圏では最大の映画祭「トロント国際映画祭」が7日から開催されています。3863本の応募作品から選ばれた世界61カ国の352作品が公開され、うち256本は長編という充実ぶり。10月から本格化するオスカーレースを前に、初お披露目される注目作品も多数あり、ハリウッドのトップスターたちも大挙してトロント入りしています。

 大手スタジオのメジャー作品だけでなく、インディペンデント作品も数多く出品され、近年はアカデミー賞を左右する賞とまで言われるほど。「カンヌ映画祭よりもハイプロファイルな作品が集まる」とバラエティー紙でも評され、ここで評判のよかった作品はオスカーレースの筆頭候補にあがる傾向が強くなっています。

 今年のアカデミー賞で監督賞を受賞した「ブロークバック・マウンテン」も、昨年のトロント映画祭で上映され、メディアの絶賛を受けた作品です。

 そんな今年のトロント映画祭でひときわ注目を集めているのが、マイケル・ムーア監督の新作「シッコ(原題)」(07年公開予定)と、ブッシュ米大統領暗殺を描いた「デス・オブ・ア・プレジデント(原題)」。

 反ブッシュ政権映画「華氏911」以来2年ぶりとなるムーア監督の新作は、米国の医療問題に鋭くメスを入れた作品。ダイジェスト版が初お披露目され、「シッコ」コールと拍手喝采を浴びました。来年の公開に向けて好感触を得たムーア監督は上機嫌だったと言います。英国のチャンネル4で10月に放映されることが決まっている「デス・オブ-」は、それに先立ちトロントで世界初公開となったもの。過去の資料映像とCGをミックスし、リアルなドキュメンタリータッチで描かれた作品は、フィクションながらかなりの衝撃。もちろんCGで作った大統領暗殺シーンも登場するというだけあり、公開前から「無責任」との批判の声も上がっていました。

 他にもブラッド・ピット主演の「バベル」や、ピューリッツア賞小説を映画化したショーン・ペン主演の「オール・ザ・キングス・マン」など、来年のアカデミー賞の筆頭候補作品も次々に披露目されています。

 この映画祭の人気の秘訣は、何と言っても審査員が各部門の賞を選ぶのではなく、映画祭を訪れた観客が賞を選出するという点。最高賞は「ピープルズ・チョイス・アワード」と呼ばれ、観客にもっとも人気のあった作品が選ばれるのです。観客の志向がダイレクトに反映される分だけ、関係者にとっては最高のリサーチの場となる。ここで手応えを得れば、その後のアカデミー賞レースに向けたキャンペーンもやりやすくなるわけです。

 16日に閉幕する今年の映画際で、どの作品が最高賞を受賞するのでしょうか。トロント国際映画祭が終われば、ハリウッドは一気にオスカーレースに突入です。

(このコラムの更新は毎週火曜日です)

September 12, 2006 12:29 PM | トラックバック (1)

2006年09月05日

ハリウッドで公開された拉致事件

 北朝鮮による横田めぐみさん拉致事件を描いたドキュメンタリー映画「アブダクション(拉致) 横田めぐみストーリー(邦題:めぐみ-引き裂かれた家族の30年)」が先日、ハリウッドの劇場で公開されました。

 「Docu Week」と題されたインターナショナル・ドキュメンタリー協会(IDA)主催のイベントでの1週間限定公開でしたが、全米の一般公開は初。10回目を迎える今年は16本が公開され、その中の1本が、カナダ人のクリス・シェリンダ氏と妻のパティ・キムさんが監督・制作した「アブダクション」でした。今年1月にユタ州パークシティーで開催されたスラムダンス映画祭で観客賞を受賞。その後も全米、カナダ、オーストラリアなどで数々の賞を受賞しているだけに、この全米公開で来年3月のアカデミー賞長編ドキュメンタリー部門ノミネートにも大きな期待が持たれています。

 アメリカでは「拉致問題」は、ほとんど報道されていません。アメリカ人のジェンキンス氏の問題ですら、あまりメディアには登場しなかったと記憶しています。当然ながら、劇場は日本人や日系人で埋め尽くされていると想像していたのですが、アメリカ人の観客も多数いて驚かされました。この映画を見て始めて拉致問題を知った人も多く、「ミステリアス」や「アンビリーバブル」と評し、13歳の少女を突然失った家族の苦悩や戦いに涙を流す人も大勢いました。

 上映後に、シェリンダ氏とキムさんに話しを聞く機会に恵まれました。「02年にワシントン・ポスト紙に掲載された小泉首相の訪朝記事で初めて拉致問題を知りました。拉致事件そのものもショックでしたが、被害者の中に13歳の少女がいたことは、とても驚きでした」と、キムさん。それが動機となり、この作品を制作することになったのだという。

 約2年に渡って横田夫妻に密着取材し、インタビューも行っています。拉致事件そのものを描くと言うよりも、愛する娘が突然いなくなった夫妻の30年間の苦悩と戦いを綿密な取材と過去のニュース映像を交えてたどった作品に仕上がっています。そこにはテレビやニュースだけでは分からなかった横田夫妻の日常生活があり、胸が締め付けられる思いでした。めぐみさん失踪1年半後に夫妻がテレビで「1日も早く連絡をして下さい」と訴える「小川宏ショー」の映像など、歴史に埋もれてしまっていた貴重な映像を使うことで、より拉致問題の深刻さを訴えています。

 あるアメリカ人男性が、上映後にキムさんに「彼女を助けるために僕に何ができますか?」と、質問していました。この作品で横田めぐみさんの拉致事件を始めて知ったという彼は、見終わった後に居てもたってもいられなくなったそうです。

 「今すぐに彼女を助け出すことはできないかもしれない。でも、この映画を見た一人ひとりが、拉致問題を広げて世論を動かしていくことはできる。今すぐにホワイトハウスに手紙を書いても無視されるかもしれない。でも、拉致問題を知る人が増え、多くの人が関心を持つことで政治を動かすことができるかもしれません。この映画のことを、5人の友達に伝えてください。そして彼らがまた別の友達に伝える。そうやって、少しずつ拉致問題の認識が広がることが、彼女の救出につながると信じています」。キムさんはこう答えました。

 「この上映がきっかけでご家族や拉致問題そのものに対する人々の関心がさらに深まることを願っている」というキムさんの言葉どおり、遠い日本で起きた不可解な拉致問題がアメリカの青年の心を動かしました。そして、これがきっかけでアメリカでも拉致問題解決の運動が始まれば、解決の糸口を見つけることができるかもしれません。そんな希望を私も持ちたいと思います。

 ラストに母親の早紀江さんが、「広い草原で寝転がって、自由であることを実感させてあげたい」と語っています。自由であることが当たり前の環境に生まれ育った私たち現代人には、到底理解しえない30年間の苦悩があったことでしょう。この作品を見た後、拉致問題を単なる政治の小道具や外交手段の一つとして使うのではなく、純粋に次期総理には「横田夫妻とめぐみさんを再会させてあげて欲しい」と、心から願っている自分がいました。

 今回のハリウッドでの公開を機に是非とも、多くのアメリカ人にこの作品を通じて拉致問題を知ってもらい、めぐみさんが日本で自由を手にする日がやってくることを切に願ってやみません。

(このコラムの更新は毎週火曜日です)

September 5, 2006 01:59 PM | トラックバック (0)