2006年05月02日

9・11テロに立ち向かった乗客の勇気

 2001年9月11日-。

 この日の出来事は今でも鮮明に脳裏に焼きついています。

 午前6時少し前、東京の日刊スポーツ文化社会部からかかってきた1本の電話で目が覚めました。「ニューヨークのワールド・トレード・センターに飛行機が衝突した」。寝ぼけていた私は、とっさに言葉の意味が理解できませんでした。ワールド・トレード・センター? 飛行機? とにかくテレビを見てくれという記者の言葉に従い、テレビのスイッチをオンにしました。

 CNNには黒煙をあげて炎上するワールド・トレード・センターが映し出されていました。それでもまだ頭が覚醒していない私は、「あー、飛行機事故か…」と思っていたのです。

 東京に状況を逐一報告しなければなりません。テレビのチャンネルを変えながら、最新情報を拾っていきました。そして、あっと息をのみました。どこからか飛行機がもう1機現れ、もう1つの棟に激突したのです。映画の中でしか見たことのない出来事が、突然目の前で起き、まさしくぼう然喪失。目の前の映像を理解するまでに数分間を費やしたような気がします。

 そして、その頃には、各テレビ局は「テロだ」と報じ始めていました。それでも、これがテロなのか? 一体何が起きたのか? 誰が飛行機を操縦していたのだろう?

 謎だらけの私の目の前に、今度はペンタゴンが炎上しているというニュースが飛び込んできたのです。ここまでくれば、もう何がなんだか分からないが、大変なことが起きているということだけは理解できていました。

 ハイジャックされた飛行機は4機でした。そのうちホワイトハウスを狙っていたといわれる1機は、乗客の決死のテロリストとの格闘により、ターゲットに到達する前に墜落。この日、このユナイテッド93便で何が起こったのかを離陸から墜落までを実時間で克明に再現した「ユナイテッド93」が、ついにベールを脱ぎました。

 5周年を迎える今年、9・11を扱った作品が数本公開を控えています。その先陣を切ったのが、この作品でした。テロを再現した同作は、「時期尚早」の批判もありましたが、米メディアの多くは「今年1番の映画」「全てのアメリカ人が見るべき」など、絶賛の嵐。試写を見た私は、テロの恐怖と、助からないと悟った乗客の絶望に涙なくしては見られませんでした。エンドロールが流れたとき、劇場のあちこちですすり泣きが聞こえ、目頭を押さえている人もたくさんいました。そして、あの日の記憶が再び、鮮明に甦ってきたのです。

 「あと4機ハイジャックされた飛行機がある」「ロサンゼルスにも2機向かっている」。情報が錯乱する中で、テレビはさまざまな誤報を流した1日でもありました。そして、その混乱ぶりはこの映画を見て初めて納得したのです。管制官も米軍も、飛行機会社も、誰もが米国領土上空を飛ぶ数万機の飛行機の中でいったいどの飛行機がハイジャックされているのか、あと何機のっとられているのか、まったく把握できずにいたのです。

 ニューヨークの劇場で予告編の上映が中止されるなど、公開前から物議を醸していた同作。街頭インタビューでも、「見る」と答える人と「絶対に見たくない」と答える人と意見が真っ二つに割れていました。それでも、遺族の中には「多くの人に伝えるべきストーリー」と支持する声も上がっています。

 悲劇をネタに単なる商業目的として作られた作品とは一線を画する同作は、01年9月11日に何が起きていたのか、そして自分たちの飛行機が爆弾となってターゲットに向かっていることを知り、助からないと分かった上でテロリストに立ち向かった乗客たちの勇気は、きちんと伝えていくべきではないかと私は思います。

 あの日を境にアメリカは大きく変わってしまいました。5年の歳月を経ようとする今もなお、テロの恐怖にさらされています。テロがこの世の中からなくならない限り、アメリカのテロとの戦いは続くでしょう。戦争が決してその解決方法ではないと私は思っていますが、この作品はあの日の出来事を忘れさせてはいけないというメッセージになっていると思います。

(このコラムの更新は毎週火曜日です)

May 2, 2006 12:24 PM

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