2005年11月15日

50セント作品の真のメッセージとは…

 一般家庭の2軒に1軒は銃を所持していると言われ、3億丁とも言われる銃が出回っているアメリカ。そんな「銃社会」アメリカを象徴するような映画が、物議を醸している。

 問題となっているのは、ニューヨークのストリートでギャングとして暮らしてきた50セントが、ラッパーとして成功するまでを描いた自伝的映画「Get Rich or Die Tryin」。全編に渡ってバイオレンス(暴力)シーンが幾度となく繰り返されているだけでなく、何者かに襲撃されて9発の弾丸を身体に受けながらも奇跡的に生還した彼自身の生い立ちに触れている点も、非難の的となっているのだ。

 物語もさることながら、銃弾の痕が残る背中をカメラに向け、キリストの磔を連想させるポーズで右手にマイク、左手に銃を持つ50セントのポスターにも抗議が殺到。ロサンゼルス郡議員や民間団体から「ギャングや銃を賛美している」と抗議を受けた配給元のパラマウント・ピクチャーズは、ロサンゼルス市内の一部地域でポスターを撤去することを決め、新聞広告の写真からは左手に持つ銃が消えた。

 抗議をしているのは、常日頃から「銃反対」を唱えている人々だけではない。住民の大半が黒人で、連日のように銃に関連した犯罪が起きているロサンゼルス南部のサウス・セントラルでも住民による抗議デモが起きるなど、黒人社会からもボイコットする動きが出ている。

 先日、ロサンゼルスで行われた試写会でも、不思議な光景を目の当たりに。黒人が主役の映画の場合、観客の過半数が黒人であることがほとんど。今や俳優としても人気のアイスキューブの作品などは、観客の8割が黒人ということも珍しくない。しかし、この日の試写会では黒人の姿はまばら。50セントの人気から考えると、本来ならありえない話だが、米メディアの多くも同作品に対して批判的な報道をしているだけに、こんな所でも黒人のボイコット運動の余波を感じた。

 顔面を銃で撃たれ、いまだに左頬に銃が貫通した傷が残っている50セントだが、その出来事を再現するような場面もあり、思わず目を背けたくなるシーンが多い。もちろんハリウッドには他にもバイオレンスな作品は数多くあるが、ゲームやアメコミを題材にしたバーチャル的なバイオレンス作品と比べると、リアルで生々しさがある分だけ、その暴力性だけが強調されてしまっているように感じる。さらに銃そのものが彼らの社会においての「強さ」を象徴しており、それを使っていとも簡単に人を殺していくシーンは銃を肯定しているかのようにも受け取れる。

 若者に絶大な人気のあるラッパーの自伝映画だけに、彼の生き方や身体に刻まれた銃痕さえも「クール(かっこいい)」と受け止める若者が増え、銃そのものが賛美されることによる社会への影響が懸念されるのも当然のこと。50セント本人はそんな批判も意に介せず、「宣伝に使う予定のなかったメディアで取り上げてくれて、良い宣伝になっている」とコメントしているが、同作品を上映中の映画館で発砲事件が起き、懸念が現実のものとなっている。

 50セントの過去に憧れ、銃を賛美するのではなく、この作品の持つ真のメッセージに耳を傾け、銃社会に警鐘を鳴らすことを忘れないで欲しい。

November 15, 2005 01:18 PM

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://blog.nikkansports.com/mt/mt-tb.cgi/3633