2005年03月15日

兵士の目線から見たイラク

 メディアで繰り返し報道されるイラク戦争。しかし、アメリカに住んでいる私たちには、真実は何も伝わってこない。遠い中東で起きている戦争でしかなく、何万人ものイラク人や若い兵士が戦死しているイラクで、本当は何が起きているのか。そんな単純なことさえ、分からずにいる。

 そんな中で、バグダットに駐留する兵士たちの日常生活に密着した「ガンナー・パレス」は、従来の戦争ドキュメンタリー映画とは一線を画し、兵士の目線から見たイラクが描かれている。

 彼らはどんなことを思い、どんな任務を行い、どんな生活をしているのか。そんな素朴な疑問を兵士たちの日常生活を通じて見ると、私たちがメディアを通じて知っているイラク戦争とはまったく違う世界が存在していることに気付かされます。等身大の生身の兵士の肉声は、どんな派手な爆撃映像よりも心に響くものでした。

 この作品はドキュメンタリー映画をエンターテインメントとして確立させたマイケル・ムーア監督の「華氏911」とは異なり、監督の色を前面に押し出す手法は用いていない。派手なパフォーマンスも、突撃インタビューもない。

 フセイン元大統領の息子ウダイ氏の元宮殿を「ガンナー・パレス」と呼び、そこで暮らす米兵たちの日常が彼らの肉声と共に淡々と描かれている。そこには爆撃も、人の生き死にの場面もない。一瞬、「ここは本当にイラク?」と疑いたくなるほど、想像とは違うイラクが存在する。しかし、そこは紛れもなく戦地であり、ガンナー・パレスを1歩外に出ると危険を伴う日々であることが、リアルに伝わってくる。

 彼らの主な任務はバグダット市内のパトロールだ。時には市民や子供から石を投げつけられることもある。しかし闇雲に銃を撃ち、イラク市民に危害を加えることはしない。市民に最重要指名手配犯の顔写真を配り情報提供を呼びかけることも仕事の1つ。そして情報を元に指名手配犯の潜伏先に突入する。危険と隣あわせの任務だ。

 しかしそんな任務の中でも、時には大声でラップを歌い、ジョークを言いふざけあう兵士たちの素顔には、まだまだ幼さが残っている。

 休日になれば、ガンナー・パレスのプールで泳ぎ、酒を飲んでドンちゃん騒ぎをする。ロックバンドを招いてパーティーも行うこともある。ビールを片手に音楽に合わせて踊る彼らは、普通のアメリカの若者たちと何ら変わらない。ハンバーガーにありついて喜ぶ姿はまだ子供で、陽気に騒ぐ姿からは、戦争の悲壮感は感じられない。

 兵士の中には高校を卒業したばかりの10代の若者の姿も多いのも1つの要因だ。「(高校)卒業後は地元のカレッジに進学するか、軍隊に入る以外はあまり選択がなかった」と入隊の動機を語る。

 「今の1番の敵はイラクではなく、ここ(ガンナー・パレスの寝室)にいるねずみたちさ」とほうきを片手に部屋をかけずりまわる者。マシンガンを抱えて「1度、ビルの壁に向って発砲したことがある。中に人がいたかって? いたかもしれないね」と笑う黒人兵。

 しかし、監督はそんな彼らでさえ、この戦争の意味を見つけられずに迷い、苦しんでいる現実を、我々に突きつけてくる。

 「かつてはアメリカを守るためだと思っていたが、今はもうそう思えない」と答える兵士は、それでも今の任務を誇りに思っていると言う。たくさんの人々が戦死している現状について聞かれ、「答えられない」と即答する兵士もいる。「アメリカの人々がテレビで見ているイラクは、1日24時間週7日ノンストップで見ることができるエンターテインメントでしかない」と言う兵士。戦争に終わりはない現実を突きつけられ、胸が痛くなった。

 兵士の言葉だけをたどると、1歩間違えれば「プロパガンダ」と言われる可能性もはらんでいることは確かだろうが、それだけではない真実の重みが映像から伝わる作品である。

 マイケル・タッカー監督は「マスコミの仕事をしている人間ですら、『戦争は昨日のニュースだよ』と言う」とあるインタビューで答えていた。アメリカで暮らす私たちにとって日々起こる様々な出来事や事件に翻弄され、すでにイラク戦争が過去の出来事となりつつある今、この作品が私たちに訴えかけてくれるメッセージはとてもパワフルで、リアリティーのあるものに感じられる。監督の「これはハリウッド映画ではないので、(この戦争に)終わりはない」という言葉が胸に焼き付いて離れない。

March 15, 2005 04:37 PM

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