2008年02月21日
佐藤隆太と学生プロレス
-ガチ☆ボーイ(3月1日公開)-
松本幸四郎のおっとりした教授ぶりがはまっていた「天才柳沢教授の生活」(02年、フジテレビ)で、実は一番気になっていたのが、娘世津子(国仲涼子)の恋人恩田ヒロミツ役の佐藤隆太だった。
入り婿的雰囲気、かなり優柔不断だが、何事も鼻にかけない-こういうユルめのいい人は、はっきりしたキャラを演じるより数段難しい、と思う。それをまったく臭みなく、自然にものにしているところがすごいと思った。その甲斐あってか、テレビCMを含め最近の露出は決して少なくない。が、どの作品でも、ヒロミツ的役柄を当てられることが多い。
せっかく力があるのに、このテのキャラが主演にすわった作品はイメージしにくい。その難問にピタリと答えたのが今作だと思う。以前このコーナーでも取り上げた濱田岳の「アヒルと鴨のコインロッカー」(07年=バックナンバー参照)のように俳優と作品の“出会い”を感じさせる作品だ。
主人公の五十嵐(佐藤隆太)には「高次脳機能障害」がある。眠るとその日にあったことをすべて忘れてしまう。大学進学までは成績優秀で弁護士を夢見ていた彼は、事故をきっかけにこの障害をおってから空しい日々を送っていた。事故までの記憶は鮮明なのに、それから何カ月たってもいったん眠ると事故直後に戻ってしまう。
そんな彼が出会ったのが学生プロレスだった。脳の記憶が無くなっても体がその感触を覚えている。唯一の生きる実感となる。だが、技は“体得”できても、試合の運び(シナリオ)は覚えることができない。結果、彼の登場する試合は“ガチンコ”となってしまう。
勉強の虫だったそれまでを映すように佐藤のほっそりとした体が痛々しい。文字通り1日1日を生きる純な心を宿す顔にもリアリティーがある。恐る恐る部室を訪れる、毎日が“初日”の表情にも臭みはない。佐藤はピュアさをにじませるのが上手い。
原作は劇団モダンスイマーズの舞台「五十嵐伝~五十嵐ハ燃エテイルカ~」(作・演出蓬莱竜太)。懸命な五十嵐は終盤にヒーローとなる。「チャンス」(81年米)「フォレスト・ガンプ」(94年米)をほうふつとさせる、純な心が奇跡を起こす物語だ。
五十嵐が思いを寄せるプロレス研究会マネジャーにサエコ、妹に仲里依紗、父親に泉谷しげる、研究会OBに宮川大輔とキャスティングにも工夫がある。
メガホンは佐藤と同い年の27歳、小泉徳宏監督。前作「タイヨウのうた」(06年)に続いて難病が題材だが、どちらもしっかりと青春ものに仕上げているところは、早くも手練を感じさせる。今回はコメディの色もたっぷり盛り込まれている。学生プロレスの独特の世界をのぞき見る面白さもある。