2008年02月14日
クイーン今昔
-エリザベス:ゴールデン・エイジ(2月16日公開=英)-
昨年の「クイーン」がいつの間にか頭に浮かぶ。鋼のような精神力と表に出さない脆さ。危機に際した胆力に感服し、1人の女性としての素顔が魅力的だ。「クイーン」も今作も女王の周囲には逆風が吹いている。前者はダイアナ妃の死から巻き起こった王室バッシング、後者は当時の最強国スペイン無敵艦隊の襲来。後者のほうがスケールが大きい、遡(さかのぼ)ること16世紀の話だから大胆な脚色も可能だ。
というわけで、今作は権謀術数が渦巻き、それを乗り切る強いエリザベス1世が登場し、ときに彼女が女性としての一面も覗かせる一大娯楽絵巻である。まだ弱小国だったイングランドが女王主導で黄金時代を迎えるまでが描かれる。
エリザベス1世即位を巡る政争を描いて話題となった「エリザベス」(98年)の続編なのだが、前作の公開から9年を経る間に女王役のケイト・ブランシェットが身につけたものが、そのままスクリーン上の貫録となっている。剃り上げた眉が目力を強調し、唇の両端をかすかに下げるだけで他を圧するような迫力が出ている。
女王の強さは常に捨て身の姿勢に支えられている。自らの離婚のためにローマ教皇と決別した父ヘンリー8世の政策を受け継ぎ、国教会を主柱に据えたエリザベス1世は国内の半数を占めるカソリック回帰派の反発を買い、常に暗殺の脅威にさらされている。にもかかわらず、ことあるごとに民衆の前に姿を見せる。無防備である。「クイーン」であらためてイメージアップした現女王エリザベス2世が75年に来日したとき、警備の厳重ぶりに「これは誰のため。常に命をさらすのが私の仕事です」という主旨のコメントをしたというエピソードが重なる。
文字通りのヴァージン・クイーンであった1世はテューダー朝最期の女王であり、現女王はウィンザー朝。だが、あらためてエリザベス繋(つな)がりの2人には共通点が少なくない。ともに生まれた段階では王位継承順位は決して高くなく、様々な偶然が重なって王位に就いている。そろって20代半ばの若さで即位し、在位年数は長い。だからというわけではないが、まだ記憶に新しい「クイーン」の残像がどうしても重なってしまう。
「クイーン」の女王がもっとも人間くさかったのは、河のほとりで1人きりになって、ほろりと涙を流すシーンだったが、今作はかなり生々しい。航海士ウォルター・ローリーに抱く恋心である。分身ともいえる侍女ベスを媒介に面会を重ねるうちに、ベスがローリーの子を宿してしまうという昼メロのような展開が、淡色の上品な映像でスケール感のある大河絵巻にさりげなく溶け込んでいる。
スペクタクル部分の迫力も見逃せない。無敵艦隊を撃破するアルマダの海戦、兵士を鼓舞する女王の甲冑姿…。前作に続いてメガホンを取ったインド出身のシェカール・カプール監督は隅々まで凝っている。
ケイト・ブランシェットばかりに目がいきがちだが、前作に続いて側近ウォルシンガムを演じたジェフリー・ラッシュ、ローリー役のクライヴ・オーウェン、べス役のアビー・コーニッシュがそろって好演している。