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相原斎「新作チェック!」

2008年01月17日

ジョニー・デップの歌声と隠し味

-スウィーニー・トッド(1月19日公開=米)-

 ひと手間ふた手間の違いで料理の味には格段の差が出る、という。この作品には想像以上に手間が掛かっている。隠し味が仕込まれている。

 ブロードウエー・ミュージカルの映像化は少なくないが、今回は実際に舞台の曲を書いたスティーブン・ソンドハイムがスタッフとして立ち会い、歌唱場面の演出に関わっている。映画史の生き字引ともいえるベテランプロデューサーのリチャード・D・ザナックでさえ「ティム(バートン監督)とソンドハイムが(スタジオの)両側に立っている風景はあまりに興味深かった」と振り返っている。

 一方、19世紀のロンドンのすすけた、重苦しい雰囲気を再現したのが美術のダンテ・フェレッティ。フェデリコ・フェリーニ監督の6作品に関わった達人である。さらっと聞き流したり、単なる背景として細部を見逃すのはもったいない。噛めば噛むほど味が出る。

 ジョニー・デップの初めての歌声ばかりが注目されているが、名コンビのティム・バートン監督は完璧ともいえる周辺環境も整えているのである。ジャック・スパロウも良かったが、デップの底力を引き出すのはやはりバートン監督だ、と思う。コンビ作でいえば、「シザーハンズ」(90年)を連想させる内容で、より重く、哀しい。だが、暗いにも関わらず不思議に心に温かさを残す。コンビならではの味わいである。

 主人公のトッド(デップ)は理髪師。彼の妻に横恋慕した悪徳判事(アラン・リックマン)のワナにかかり、監獄に送られる。15年後脱獄したトッドは再び同じ街で開業するが、妻は自殺し、一人娘はあの判事のもとに幽閉されていると聞かされる。ひょんなことで彼の秘密を知った同業者を殺してしまい、その死体の処理に困るが、大家のラベット夫人(ヘレナ・ボナム=カーター)がミンチにしてミートパイの原料にすることで解決してくれる。

 判事への復讐の思いに駆られるトッドは商売道具のカミソリで殺人を重ねる。それまで客足の絶えていたラベット夫人のミートパイの店はおいしいと町中の評判となり繁盛する。1847年に初めて舞台にかけられたという原作は文字通りのブラック・ユーモアに貫かれている。やがて夫人が隠していた秘密が明らかになり、復讐劇は意外な方向へ…。

 「スウィーニー・トッド」は97年にも映画化(ジョン・シュレジンジャー監督、ベン・キングスレー主演)されているが、この作品で描かれていたトッドの物欲的な部分は省かれ、今回は復讐劇に純化している。連続殺人鬼ではあるが、より感情移入しやすい設定といえる。実は先の映画化時にもバートンの名が監督候補に挙がり、スケジュールの都合で断念したいきさつがある。その長年の思いが冒頭で書いたような“手間”にもつながり、残酷な復讐劇を愛の物語に昇華させている、といってもいいのだろう。

 さて、ようやくデップの歌声である。本当は先入観を持たないで聞いていただいた方がいいのかもしれないので詳述はさけるが、通常の話し声よりやや高い。想像以上に上手い。最初の歌はさりげなく歌いだすのだが、普通のセリフのように入りながら自然と盛り上げていく感じも堂に入っている。バートン=デップが織り成すきめ細かさにあらためて驚かされる。

 首をカミソリで真横に裂いた後、首全体に血があふれ昔の郵便ポストのように見えるシーンは妙に美しい。バートン作品の“危ない部分”である。舞台とは違う、映画ならではの表現ともいえる。色んな意味で“怖い”作品である。

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