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相原斎「新作チェック!」

2007年11月08日

最後のジェイソン・ボーン

-ボーン・アルティメイタム(11月10日公開=米)-

 携帯電話が映画やテレビドラマに与えた影響は計り知れない。単純なセリフも携帯メールの形をかりて絵文字を載せればラブストーリーの恰好のアクセントになる。キム兄と妻夫木聡のデコメールCMの如く、「顔で怒って心で笑って」という2層構造を瞬時に示すツールにもなる。

 が、何よりサスペンスものへの貢献が一番だろう。「24」が好例だ。体一つの単独行が多いジャック・バウアーと本部のクロエを結び、解析データの現場送りやそこにいる容疑者の顔写真照会が写メによって容易にできるのも携帯電話のお陰だ。観客(視聴者)も日常使っているから理解が早い。テンポアップした多層進行ストーリーが当たり前のように理解できる所以である。

 今作も序盤に携帯が重要ツールとなる。CIAが監視カメラの目を張り巡らし、多数の追跡班、狙撃手を送り込んだロンドンのウォータールー駅が舞台だ。主人公の一匹狼ジェイソン・ボーン(マット・デイモン)は大胆にもここで情報源の新聞記者と接触するのだが、すれ違いざまに記者のポケットにプリペイド携帯を滑り込ませると、これで連絡を取りながら素人の記者を巧みに誘導する。記者自身の携帯を盗聴し、これを頼りにしていたCIAは新たなプリペイド携帯を捕捉できず大混乱に陥る。

 ドームのような駅の構内や、そこをはみ出した車道での息詰まるアクションはいかにもロバート・ラドラム原作の風味である。CIAのハイテク包囲を市販のプリペイド携帯一組で突破するところが痛快だ。

 対照的に肉弾戦に徹したシーンもある。中盤のモロッコ・タンジールだ。ボーンと彼を追う刺客の死闘は、石造りの建物が路地を挟んで林立する旧市街で繰り広げられる。屋根から屋根へ、壁から壁へ、“立体迷路”の中で鍛え抜かれたプロ同士の格闘は打ち身の痛さがひりひりと伝わってくるように生々しい。

 ラドラム作品は映像が頭に浮かぶような克明な描写が一つの特徴だと思うが、シリーズ第2作「ボーン・スプレマシー」(04年)に続いて完結編の今作でもメガホンを取ったポール・グリーングラス監督はそのイメージを膨らませる。ハイテク戦の序盤、肉弾戦の中盤とメリハリも効かせる。

 記憶を失った元暗殺者ボーンは第1作「ボーン・アイデンティティ」(02年)では、極秘計画を知る彼を消そうとするCIAに追われ、第2作では反撃に出た。そして、今回は自身が“暗殺マシーン・ジェイソン・ボーン”誕生の秘密に迫るべくCIAに立ち向かうという筋立てだ。

 諜報の世界は当然のように同じ組織内にも確執、裏切り、不正があり、黒白ははっきりしない。前2作同様今回もボーンに同情するか、しないかでこの灰色の世界がしだいに白黒に分離していく流れになっている。

 マット・デイモンはこれが最後ではもったいないくらいボーンにはまっている。CIA幹部にデヴィッド・ストラザーン、ジョアン・アレンら。ボーンを助ける支局員役のジュリア・スタイルズ、刺客の1人にふんしたエドガー・ラミレスが好演だ。

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