鉄矢多美子 Field of Dreams

2007年12月17日

第175幕 井口争奪戦に敗れた「赤鬼」の無念

 メジャー球団が熾烈な獲得競争を繰り広げた福留、黒田の行き先も決まり、大物日本人選手の獲得バトルは一段落した。彼らばかりに注目が集まった感があるが、実は井口資仁を巡る獲得競争も、負けず劣らず熾烈を極めた。

 ウインターミーティングの会場で耳にした球団だけでもフィリーズ、エンゼルス、オリオールズ、ドジャース、ブルワーズ、ロッキーズ、アストロズ、パドレス、ジャイアンツなどなど、10球団以上にも上り、人気の高さを思い知らされた。

 中でも特にご執心だったのが「赤鬼」の異名を持つ、フィリーズのチャーリー・マニエル監督だ。ウインターミーティングの初日から最終日まで「何とかうちでプレーしてくれないだろうか」と井口サイドの動きをやきもきしながら見守っていた。だが「二塁」にこだわる井口に対し、フィリーズにはチェイス・アットリーという不動の二塁手がいるため、どうしても「三塁で」という条件が譲れない。絶対的に不利な立場であると承知しつつも、一縷の望みをかけて待つしかなかった。

 同じ内野手でも二塁手と三塁手では動きが違う。井口の「三塁手」としてのプレーを実戦で見たことがないマニエル監督が、なぜそれほどフィリーズ入りを切望したのか。その理由は「三塁はリアクションポジションといって特に素早い反応が要求される。ステップクイックネス。クイックハンズ。細かい動きが速い彼のプレーをみてきて、彼はすぐに三塁手としてアジャストできる」。今季後半、自チームで目のあたりにした井口の高い技術、能力にぞっこん、惚れ込んでいたのだ。

 しかも、二塁手から三塁手に移行するにあたっての極意を「二塁手はボールを捕るとすぐに投げる癖がついている。三塁手にアジャストするには、ロングトスで腕をストレッチアウトする練習が必要。三塁手独特の送球だけがちょっと気になってはいるが、今までの井口を見てきて、彼ならすぐに対応できると思った。スプリングトレーニングでしっかり練習し、ゲームの中で練習を積み上げていけば全く問題ない」と、具体案まで持ち出して井口の決断を待ち望んでいた。

 だが、井口は二塁というポジションが約束されたパドレスを選んだ。しかも気候や治安もよく、全米でも常に「一番住みたいところ」のトップクラスにランクされるサンディエゴという場所も、家族のことを考えれば申し分がない。「井口に二塁ができるスポットがあるのなら仕方ない。でも私は井口が加わるそのチームのことを、とても羨ましく思う。なぜなら、私のチームでプレーして欲しいと思う気持ちがとても強かったから」。井口争奪戦に敗れた「赤鬼」の無念は図り知れない。

December 17, 2007 12:28 PM