2007年11月08日
第170幕 危険地域指定の異国で再起を図る野茂の戦い

ベネズエラのウインターリーグ、カラカス・ライオンズでプレーしている野茂英雄投手が6日(日本時間7日)に4度目の先発をしたが、被安打2(本塁打1)四球3、失点2という結果で3回途中で降板。勝敗はつかなかったものの、なかなかいい結果が出せないでいるようだ。
「チームの勝利に貢献したい」と繰り返し言っていただけに、0勝2敗、防御率9・45の数字は決して本意ではないはずだ。右肘の手術後、1年半以上も試合から遠ざかっていただけに、性急な結果待ちをせず、これから徐々に「自分」を取り戻して行って欲しいものだ。
その野茂を追って突如「ベネズエラ行き」が言い渡されたのは、ポストシーズンゲームのナ・リーグチャンピオンシリーズの取材中のことだった。かの地には過去に何度も行ったことがある筆者も、外務省の海外安全ホームページに「身代金目的の誘拐が多発しています。特に同国の治安情勢は年々悪化しており、今後も誘拐は増加する傾向にあるとみられています」と記載されているのに怖気づきながら、その先を読み進めた。
野茂がプレーするチームは首都カラカス。そこは外国人目当ての誘拐などが頻発していて、危険地域に指定されている。主な誘拐手口として「犯人側がターゲットとなる被害者について綿密な調査を行った上で、偽装検問所を設置し犯行に及ぶもの(犯人は警察や軍の制服を使用することもある。)や、盗難車両等に分乗した犯人が、公道上でターゲットとなる被害者を襲撃し、車両から降車させ誘拐するもの等があります」と、具体的な例まで記載されているではないか。
多少の危険を冒しても…と思ってはいたものの、その物騒な状況を知ると一気に気持ちが終息し、ベネズエラ行きを取りやめようと思った。しかしその一方では、その地で野茂がメジャー目指してチャレンジしようとすることを思えば「行かなければ…」と、気持ちが揺れ動いていたのも事実だった。思い起こせば、これまで中南米の取材では何度が銃を向けられたりする危機に立たされたことがある。「そのとき撃たれて死んだと思えば…」と、自分に妙な納得をさせ、直前に決断してベネズエラに向かうことにした。
10月17日。アリゾナ州フェニックスのホテルを午前4時半に出て、カラカスに到着したのは当日午後9時半をまわっていた。乗り継ぎ時間や時差を計算すると17時間の旅。飛行機を降り、緊張感と疲れのため重い足取りでイミグレーションにつながる長い廊下を歩いていると、何と前方に野茂が立っているではないか! いやいや、これは長旅の疲れで錯覚を起こしているに違いない。そう言い聞かせて通り過ぎようとしたとき、それが夢でも錯覚でもないことに気づいた。
偶然、同じ飛行機に乗り合わせていたのだ。思わず駆け寄って「よろしくお願いします」と挨拶をすると、野茂は頷きながらほのかに笑みを浮かべた。実は筆者は社会人野球新日鉄堺時代から野茂の取材をさせてもらっており、それからウオッチすること、かれこれ20年にもなる。野茂の笑みは「どこまでも追っかけてきよる。ったく、しょうがないおばさんやなあ」と、そう語っているように思えた。
それはともかく、肩や肘にメスを入れ、それでも不屈の闘志で立ち上がろうとする、その姿には心打たれるものがある。「野球が好きなんで。野球をすることが好きなんで…」。ポツリ、ポツリと語るその言葉の裏には、異国の地で再起のきっかけを掴もうとする並々ならぬ意思が汲んでとれた。野茂の野球に取り組む真摯な姿に触れたとき、やれ誘拐だの、やれ銃で撃たれるなどと騒ぎ立ててベネズエラ入りした自分の軽々しさが、急に恥ずかしくなった。
※写真はベネズエラのウインターリーグで挑戦している野茂
November 8, 2007 01:08 AM
