鉄矢多美子 Field of Dreams

2007年10月03日

第168幕 スパイダーマンが迎えたシーズンの終わり

tetsuya071003.jpg

 いよいよポストシーズンの始まりだ。だが、それに残れなかったチームの選手たちの中には、どこかでこれが最後になるかもしれないという思いを抱きながら、最終戦に臨んでいた。その日までともに戦ってきたチームメイトと、必ずや次の年も一緒にプレーできる保障はどこにもない。だからこそ、選手たちはいつもより感慨深げに別れの挨拶を交わしあう。そんなシーンをあちこちで見かけるシーズンの終わりは、取材する側の我々も妙に感傷的になったりするものだ。

 このオフ、フリーエージェントになるツインズのトリー・ハンター外野手もそんな1人だった。試合前は「ちっともツキがまわってこない」とぼやきながら、トランプに興じていたが、9月30日のリーグ戦最終日は「ツインズ最後のユニフォーム」になるかも知れないところから、テレビや新聞などのインタビューが相次ぎ、仲間たちとの最後の勝負? の楽しみを途中で取り上げられた格好になった。それでも自分を取り巻くデリケートな質問に、快く答えていた。

 「できることなら残りたい」。ここまで15年。人生の約半分をツインズ一筋に歩いてきただけに、このチームには特別な愛着も持っているし、残留したいと思う気持ちに嘘はない。ツインズも、2002年オフにデビット・オルティーズを失った経験から、チームの「核」がいなくなることがどれほど大きなものかを懸念している。ただ現時点では、3年契約を提示している球団に対し、5~6年契約を要求するハンター側とは条件面で大きなへだたりがあり、バゼットの少ないツインズがそれを飲めるかどうかは、限りなく不可能だと見られている。

 ツインズ時代、苦楽をともにしてきた間柄のデビット・オルティーズとは、いわゆる「まぶ達」。最終シリーズでボストンにやってきたハンターは、試合後、オルティーズと食事を共にし、今後の身の振り方について相談した。「彼と話して結論が出たわけじゃないが、チームに残りたいという気持ちは強い。だが、その一方でビジネスだと割り切らなければならない面があるのも事実」。そう答えるのが精一杯だった。

 身体能力がズバ抜けて高く、2001年から6年連続でゴールドグラブ賞を獲得するなど、もともと守備には定評があったが、とりわけ2002年のオールスターではボンズの本塁打性のあたりをジャンプ一番、塀にグラブを差し込んでもぎ取り、外野の守備から帰ってくるハンターを待ち受けていたボンズが彼を担ぎ上げて悔しがったシーンは今も語り継がれている。ハンターは、このときから「スパイダーマン」の異名を取ることになった。

 最終戦には、アウエイゲームであるにもかかわらず、「行かないで!」「ミネソタにとどまって」「私は(残ることを)信じてる」などのメッセージボードを持った熱心なファンが本拠地ミネソタから押しかけた。それらのファンに、まるで別れを惜しむかのように、黙々とサインを書き続けた。「これからテキサス(自宅)に戻って、いろいろなことをゆっくり考えるよ」。苦しい決断に迫られる複雑な心境のまま「スパイダーマン」はシーズンの終わりを迎えることになった。

※写真は、ファンにサインするハンター

October 3, 2007 07:22 PM