2007年08月18日
第162幕 全身全霊をかけた桑田真澄の挑戦
桑田真澄が8月14日にパイレーツから戦力外通告を受けた。野球選手であるならば、だれもがフィールドから去らなければならない日はやってくるが、運命の「その時」を迎え、会見した桑田は「もう十分。何も悔いなしです」と、しっかりと現実を受け止め、実に柔和な表情で受け答えていたのが印象的に映った。
その予感はあった。8月10日からサンフランシスコの遠征に来ていた桑田が、11日の登板で打者2人に四球、右前安打を許し、1死もとれないまま降板した。試合後、それでもトレーシー監督が「桑田はいい仕事をした」と褒め上げた。それを聞いた桑田は「どこがいい仕事なんですかね」と苦笑しながら言った。打者を塁には出したが、足の速い走者を釘付けにしたことを評価したとも受け取れたが、実はその言葉を聞きながら、もしかすると…という思いが胸を横切っていた。
その日のジャイアンツの先発、ティム・リンスカムは今季彗星のごとく現れた若手有望株。小柄ながら90マイル後半の速球と変化球で小気味よく三振を取る投球を披露していた。桑田はそんな彼と自分の姿をどこかに重ね合わせていたようで「自分もああいう若いころがあったんだなと思いながら見ていた。体も大きくないみたいだから、頭を使いながら、いいピッチャーになってほしい。速いボールをもっているし、大きく育ってほしいね」と、敵の投手に対しても惜しみないエールを送った。
サンフランシスコのAT&Tパークは、桑田がアウエイの公式戦で投げる7つ目の球場だった。印象を聞かれると「いろんな球場で投げさせてもらうということは、非常にありがたい」と、さまざまな形の球場やマウンドなどで投げられることへの感謝の気持ちを口にした。バリー・ボンズとの対戦に関する質問には「どこかで対戦できたら非常に嬉しい」と答えて、そこからは自分が挑戦者としていられることの喜びが溢れ出ているようだった。
「98マイル投げても打たれるときは打たれる。野球はわからない。簡単なときは簡単だけど、アウトを取れなくなると本当に取れない。だから全身全霊で戦いたいと思うし、野球って素晴らしいなと思う」。球場の通路でそんな話をしていた桑田を見てだれかが「彼は神様のような表情で話すんだね」と言って通りすぎた。「全身全霊」をかけ、メジャーに挑んで行った桑田真澄。その彼の挑戦、生き方こそが、野球の素晴らしさそのものを教えてくれたのだ。
August 18, 2007 12:32 PM
