2007年04月18日
第146幕 「母との約束」。大塚晶則の思い
これほど1冊の本が気になったことはない。レンジャーズの大塚晶則が、これまでの彼の野球人生を綴った『約束のマウンド』(双葉社刊)を出版した。
4月9日のことだった。レンジャーズのクラブハウスをのぞくと、大きなダンボールから1冊の本を取り出していた。「今度出る僕の本です。よかったら読んでください」。そう言って、サインを入れプレゼントしてくれた。表紙を飾っているのは、WBCで韓国戦に登板し「ヨッシャー」と叫んでいるシーンだ。帯にはかつての同僚、トレバー・ホフマンが大塚に対する心からの言葉を寄せていた。
その夜、ホテルに帰ると、時間がたつのも忘れて一気に読み終えた。野球人・大塚のあらゆるスパイスが詰め込まれた構成からなっていたが、中でも第2章の「野球との出会い~母との約束」は、何度も、何度も読み返した。そこには今ある大塚の原点と、思いの丈が素直な感情で、しかし熱い思いで綴られていた。
忘れもしない。大塚がDバックス戦でメジャー初勝利を飾った2004年4月24日。遠征先からサンディエゴの家に戻ると、棚に飾られた小さな写真の前にポンとボールを置いた。52歳で亡くなった大塚の母の写真だった。メジャー初勝利のボールを母にささげた瞬間、そこに母と息子だけの会話があったようにもみえた。取材のため偶然その場にいた筆者は、胸にこみ上げる熱いものが抑えられなかった思い出がある。
そのシーンが今でも鮮やかに目に焼きついているからか「母との約束」の章は文字が読めないほど涙があふれ出た。小学4年のとき、母親に練習をサボったことを見つかり「野球なんてやめてしまいなさい」と、ピシャッと平手打ちをされて以来、反省し「絶対、野球をやめません」と心に誓ったその思いが、大塚を支えてきていると言っても過言ではないのだ。
今でこそ、メジャーリーガーとして他チームの打者から一目置かれる投手になったが、振り返れば、ここまで彼の野球人生は決して順風満帆ではなかった。山あり谷あり壁ありと、いくつもの障害が立ちはだかってきた。その度に「母との約束」を胸に思い、苦難を乗り越え、自分の道を切り開いてきたのだ。
大塚の著書は、興味深いメジャーリーグの舞台裏、投球術、イチローや松坂の素顔など伝えつつ、マウンドで激しく燃える男の秘密と生きざまを余すところなく教えてくれる。
April 18, 2007 12:06 PM
