2007年03月06日
第142幕 「160億円男ソリアーノの実像」
シカゴ・カブスのキャンプ地、アリゾナ州メサのクラブハウス。入ってすぐ右手の角にあたる位置に、アルフォンソ・ソリアーノのロッカーがある。カブスで13年間プレーしたサミー・ソーサが約8年ほど陣取っていた同じ場所である。はっきりとした決まりがあるわけではないが、そこはいわば暗黙のうちに「カブスの顔」となる中心選手に与えられることになっているスペースのようだ。
メジャー史上4人目の40-40を達成した昨年オフに、8年1億3600万ドル(約163億円)という大型契約でカブスに移籍しただけに、なにかにつけ注目されている。今は少し落ち着いているが、地元のメディアを中心に、ひっきりなしにインタビューを受ける日々が続いたと聞いた。それだけ、ソーサが抜けたあと、新しいスターを待ち望んでいた地元の期待も大きいものがある。
40-40とは本塁打、盗塁を同時に40以上記録しなければならず、長打力と走力を併せ持った優れた選手の象徴で、過去にはホゼ・カンセコ、バリー・ボンズ、アレックス・ロドリゲスの3人しか達成していなかった。ソリアーノは2002年に39本塁打、41盗塁で、惜しくも40-40を逃していたが、これまでに30-30も4度記録しているところから、史上初の50-50の可能性までささやかれている。
広島東洋カープ時代を知る人は「あのころのソリアーノは足が遅かった。いつからそんなに足が速くなったのか信じられない」という。当時は鈍足だったソリアーノに「ロバ」というあだ名までつけられていたらしい。「広島時代はまだ若かったし、走るための筋肉ができていなかった」と本人は言っていたが、その「ロバ」が10年後に、パワーとスピードを兼ね備えたメジャーを代表する選手になるなど、だれが想像しただろうか。
3度目の30-30を達成した2005年オフには、生まれ故郷のドミニカ共和国サンペドロ・デ・マコリスに荒地を切り開いて球場を作り寄贈した。「アルフォンソ・ソリアーノ球場」と名づけられたその球場では、地元の少年たちが明日のメジャーリーガーを夢見て練習に励んでいる。サトウキビ地帯で生まれ育ち、決して恵まれた環境ではなかった自分を省みて、子供たちに手を差し伸べる思いを具現化したのだ。
優れた野球選手の象徴が40―40であるならば、故郷を思い率先して慈善事業などを押し進めている姿は、優れた人間の象徴でもある。160億円もの大金を手にしても、それによって人間が変わるようなことはない。むしろ、より謙虚に、より黙々と、よりひたすらに自分の歩いて行く道を切り開いて行こうとしている。それがこの男・ソリーアノの実像である。
March 6, 2007 08:13 PM
