2006年09月22日
第128幕 チームリーダーの矜持
メッツ、ヤンキースが地区優勝を決めるなど、シーズンも大詰めになってきた。
そんな中、注目されるのがミネソタ・ツインズの動向だ。なにしろ、今年は開幕ダッシュに大失敗し、6月17日までは借金生活を送っていた。ところがその3か月後には貯金が増えに増え、9月21日現在90勝62敗で、28の勝ち越しで、堂々2位。プレーオフ進出まで、もう少しで手が届くところまでこぎつけている。
チームがここまで躍進したのは、サンタナ、モウアーなど投打を引っ張る選手の活躍によるところが大きいが、決して忘れてはならないのが、ベテラン外野手トリ・ハンターの存在だ。デビット・オルティスのような大物選手でも、フリーエージェント(以下FA)になると、財政上の理由から手放さなければならないツインズにあって、一筋に10年間プレーしている選手は珍しい。ところが、今年FAを迎えるハンターもまた、過去の選手と同様に、残留の可能性がほとんどないといわれていた。
となると、トレードシメキリの7月31日までに、他チームと「商売」するのがこの世界の常識で、ハンター自身も覚悟は決めていた。用意周到に早々とミネアポリスの自宅を売却し、その時が来るのを待っていたほどだ。さすがにトレード締め切り日が近づくにつれ、打撃練習をしていても「毎日このチームと今日が最後になるかもしれないと思いながら、球場にやって来るんだ」と落ち着かない様子の日々を送っていた。
7月31日。トレードが締め切られた時間に、GMのテリー・ライアンがグラウンドに現れると「いよいよ・・」という空気が流れた。ところがGMの口から飛び出したのは他の選手の名前だった。とはいえ、いくら締め切りを過ぎても、トレードが成立しないわけではない。ハンターにはまだ一抹の不安が残っていた。ツインズの打撃練習が終わり、GMがグラウンドを立ち去ろうとした時、ハンターが呼ばれた。
そしてGMが言った。「トレードはしないよ。チームに残って君にしっかり働いて欲しい」。それは思いがけない言葉だった。マイナーからツインズ一筋に歩いてきたハンターにとって、チームには底知れぬ愛着があった。「野球選手にトレードはつきもの。10年以上も同じチームにいられただけ幸せだった」と自分に言い聞かせ、納得させようとしていた矢先だけに、残留が決まった嬉しさもひとしおのものがあった。
このとき、首位との差は8・5ゲーム。ハンターは心に誓った。「またこのチームでプレーできる。この喜びを何倍にもして返そう」。その気持ちがあっという間にチーム内に伝わった。その力はジワジワと首位に接近する原動力と化してくる。8月25日にはついに2位に躍り出、一時3位になったものの、9月3日以降2位におさまって、同19日には首位を0・5ゲーム差まで追い詰めた。もちろんハンターはこの間、何度となく攻守にわたる活躍でチームを勝利に導いている。
もしこのチームにハンターがいなかったら、リーダー不在のままチームのまとまりをなくし、ポストシーズンどころか、前半戦のムードをそのままひきづりながら、Bクラスに甘んじていたかもしれない。9月20日、レッドソックスとの試合前、ハンターはロッカーの前で、今ハマっているという数ドクにチャレンジしていた。そうしていながらも、さりげなくクラブハウス全体を見渡し、若い選手たちの様子にも目配りを忘れていなかった。
この日、1点リードさていれた8回に3ランを放ってレッドソックスを突き放した。「ここにいるみんなでワールドシリーズを戦ってみたい。みんな未知の世界だから、そこが野球選手にとってどんなに素晴らしいところかを、味わってみたい。僕だけじゃなくみんなそう思って戦っているから勝てるんだ」。ハンターの力強い言葉だった。7月31日の残留決定以降、確固とした目標を見出したチームリーダーは、マイナスをプラスに転化させ、ポストシーズンまであと一歩というところまでチームを引っ張ってきた。
September 22, 2006 10:29 PM
