2006年09月08日
第126幕 ハンク・アーロンの背中が・・・
しばらく鳴りを潜めていたバリー・ボンズにこのところ当りが出てきた。9月4日のレッズ戦で通算730号本塁打を放ち、ハンク・アーロンの持つ世界記録755本まで「M25」と迫ってきた。「自分の記録のことはどうでもいい。今は勝つことだけに集中したい」。そうは言ってもアーロンの背中が見えてきた今、記録に関して意識していないわけがない。
膝の手術を繰り返した昨年、1シーズンをほとんど棒にふってしまったのは計算外のできごとだった。その後遺症をひきずったままシーズンに突入した今季も、彼本来の迫力に欠けているのは明白な事実だ。サンフランシスコ名物のスプラッシュヒットもここまでわずかに1本。それが力の衰えを証明している。そして、巷では公然と限界説が飛び交うようになっていた。
本人はそれを百も承知で、シーズン初めに「いつそういう時がやって来てもおかしくない状況だ。それは明日なのか、もっと先なのか神のみが知るだよ」と淡々と語っていた。春キャンプでは外野手のミーティングのとき、一人だけひまわりの種が入っていたポリバケツに腰を下ろし、打撃練習を待つときはゲージのそばに椅子が運ばれた。痛む膝に追い討ちをかけないよう、注意が払われていたのだ。
調子を聞くと「よかったり、悪かったりだね」。ちょっとやるせない表情をのぞかせながら答えた。膝の痛みとは長いつきあいだった。「もう20年以上もこいつ(痛み)とつきあってきているから、今さらどうってことはない。でも年をとった分回復は遅れるんだ。仕方ない。だれが見ても今僕は立派なオヤジだからね」。自分のキャリアの終わりがいつきても受け入れなくてはならないという、ある種、腹をくくったような思いがにじんでいた。
打撃練習でも打ち損じが目立つ。1シーズン73本塁打を打って新記録を作った2001年当時は、そのほとんどが確実にボールを捉え、きれいな放物線を描いてスタンドインした。ところが今季は打ち損ねると「アーッ」という大声を出して天を仰ぐ回数が多くなっている。ボンズほどプライドが高い選手は、ここでバットを置いてもなんら不思議はない。
加えて、暴露本の出版やステロイド問題など、困難な状況にブチ当たるたびに気持ちが萎えてくる。そんな時に「まだまだ老け込む場合じゃない。もっともっと(ホームランを)打ってもらわなくては。あなただったらできる」と言って叱咤激励し続けてきたリズ夫人。その気持ちに応えるため、ボンズは自分の腕に夫人の名前を刻んで、今季に臨んだ。
「やるからには何でもその道の一番になれ」と言って育てくれた父。何があろうと一心に自分を支えてくれるリズ夫人。ハンク・アーロンという偉大な打者に追いつき、追いこそうとするモチベーションは、決して表からは見えないそうした力に導かれ、高められている。最終年になるであろう2007年に新記録を樹立するためにも、残り22試合でできるだけ本塁打を稼いでおかなければならない。このところの奮起は、そのハンク・アーロンの背中が視界に入ってきたせいなのかもしれない。
September 8, 2006 06:45 PM
