鉄矢多美子 Field of Dreams

2006年08月25日

第124幕 スラッガーと赤鬼の奇妙な関係

 昨年のナ・リーグ新人王ライアン・ハワード(フィリーズ)が2年目のジンクスなどもろともせず、2冠王(44本塁打、114打点=8月25日現在)奪取に向けて突っ走っている。彼が全米にその名前を売ったのは7月にピッツバーグで行われたオールスターゲーム。前日に行われるホームランダビーに出場し、メジャーを代表するホームランバッターを向こうに回して堂々優勝。「ライアン・ハワードここにあり」と強烈にアピールした。

 マイナー時代に1A、2AなどでMVPに選出され、その打棒は多いに注目されていたが、フィリーズの一塁にはジム・トーミ(現ホワイトソックス)がいたため、打っても打ってもハワードにはチャンスが巡ってこなかった。ところが昨シーズンそのトーミが右ひじの手術のため後半戦のプレーが絶望的になると、大きなチャンスが巡ってくる。オルスター前に昇格し、シーズン終了までの88試合で22本塁打、63打点と驚異的な数字をたたき出し、新人王をも手中にすることになった。

  ハワードを主軸として使えるメドが立ったフィリーズは、強打者トーミをホワイトソックスに放出。すると今季はチームの主軸として持てる力を発揮し、思い切ってトーミを手放した首脳陣の期待にも応えた。好調の要因を聞くと「だれかによって自分のチャンスがなくなったり、マイナーに落とされるという心配がなくなった分、プレーに集中できる。その分責任は重いけど、その重さは嫌いじゃないよ」と答えた。

  そして「あ、もう一つ忘れてはいけないのはアカオニのせいだね」と、好調の要因を付け加えた。昨年、チャーリー・マニエル監督へのおみやげで「赤鬼」のお面をプレゼントした際、それを興味深げにのぞきこんでいたハワードにも「Dood Luck Charm」だと言って渡しておいたのだ。それをすっかり信じ込んだハワードはいきなりそれをかぶって見せ「きっといいことがあるよね」といってロッカーにしまいこんだ。

  「おかげで新人王も取れたし、オールスターにも出られたし、ホームラン競争でも優勝できた。アカオニは僕の大切なお守りになってるよ」。あまりにも深く信じ込んでいるため、いまだ本来の「鬼」の意味を説明できないままでいるが、いい効果をもたらしているのであればこのままそっとしておくことに越したことはない。

  ここまで44本塁打のハワードには球団記録を塗り替えるという期待もかかっている。フィリーズ一筋に18年間プレーし、殿堂入りも果たしている名選手マイク・シュミットが1980年に残した、年間48本塁打の記録まであと4本と迫っているからだ。今の調子であれば、よほどのことがない限りこの記録は塗り替えられるだろう。加えて2冠王が取れたなら「赤鬼」の付加価値は上がる一方だ。スラッガーと赤鬼の奇妙な関係はシーズン終了まで続く。

August 25, 2006 05:31 PM

2006年08月18日

第123幕 過酷な試練はチャンスの入り口

 1シーズンに何度か、突然、マイナーからコールアップされた選手のあたふたした光景に出会うことがある。7月11日にピツバーグで行われたメジャーのオールスターゲームの直後、ミネソタ・ツインズの3Aロチェスターから昇格したジェイソン・タイナーもそんな一人だった。だが、彼がメジャーのクラブハウスにたどり着くまでには想像を絶する過酷な試練が待っていた。

 7月12日にオハイオ州トレドで行われた3Aのオールスターゲームに出場したタイナーは、翌13日にカナダのオタワで行われる3Aの公式戦に出場するため、トレドを早朝4時に出て、クリーブランド、ワシントンと飛行機を乗り継ぎ、目的地カナダのオタワに着いた。何とかその日の試合に出場しようと球場に駆けつけたまではよかったが、荷物が届かずその日のプレーは断念せざるをえなかった。

 その夜、やっと荷物が届いてほっとしていたところに、今度はツインズのハンター、スチュワートという正外野手の故障により、急きょ、昇格するという電話を受けた。メジャーの試合に間に合うように、翌14日の早朝、オタワからミネアポリスに飛んだ。着いていきなりスタメン出場。そしていきなり2安打2打点の大活躍をみせた。次の日も、また次の日もマルチヒットを放ち、守備でも貢献して、瀕死状態だったツインズの外野を救った。

 とはいえ、ハンターが復帰したら、再びマイナーに戻るのは必至とみられていた。しかし、それまでに印象深い活躍さえ見せておけば、マイナー落ちも防ぐことができる。「何とか、自分がこのチームに必要であるかということを証明しておきたかった」。そのモチベーションがプレーにも表れ、7月は8度のマルチヒットで3割2分8厘という高打率をたたき出し、首脳陣に強烈にアピールした。結果的にハンターの復帰後もマイナー降格にはならなかった。

 2000年にメジャーデビューを果たしてはいるが、その後、大半はマイナー暮らしだった。デビルレイズからツインズに移籍した昨シーズンも、メジャーの試合に出場したのはわずか18試合。とてもツインズの仲間になれたという雰囲気ではなかった。だから、今季いきなりにメジャーに昇格したときは「初めてのヒット、初めての守備。初めてみんなと飲みに行く」と、すべてが初めてのできごとのように新鮮だったのだという。

 「僕はただこのチームの一員になろうと頑張っているだけ。チームが勝つためにいいプレーをすることに集中するだけだよ。今年、もしこのままいい仕事ができれば、来年の仕事にもつながる。だから毎日、毎試合、毎打席に命をかけている。もうマイナーにはもどりたくないからね」。ロチェスターで借りていたアパートも引き払い、退路を断ってメジャーに定着することのみに照準を合わせている。「7月の過酷な試練は大きなチャンスの入り口だった」。そう思える日がきっと来ると信じながら、タイナーは毎日のプレーに没頭している。

August 18, 2006 05:31 PM

2006年08月11日

第122幕 首位打者モウアーが迎える正念場

 強打者揃いのア・リーグにあって、ツインズのジョー・モウアーがすでに2か月以上も首位打者の座に居座っている。8月10日現在、打率3割6分9厘で2位のデレク・ジーター(3割4分6厘)、3位のイチロー(3割3分)を大きく引き離しており、身体的、精神的に最も消耗が激しいといわれる捕手というポジションながら、ここまで首位打者をキープしているのは立派だとしかいいようがない。

 実は8月に入りジワジワ打率を落としていた。それでも3割6分3厘と高打率だったが、一時期3割9分2厘まであったことを思えば「やはりここにきて捕手としての疲労が出てきたか・・」と言われても仕方のないことだった。その矢先、8月7日からのデトロイト・タイガース3連戦で12打数6安打と打ちまくり、しっかり打率を稼いで落ちる傾向にストップをかけた。

 7月に行われたオールスターにも初出場した。首位打者であるにもかかわらず、名前があまり知られていなかったため、当初ファン投票では票が伸びず、出場も危ぶまれていたほどだった。そのオールスターでは、クラブハウスのロッカーがイチローと隣り合わせになった。

 「普段はできないいろいろな話をイチローとすることができて、得した気分だった」とイチローとの出会いを振り返っている。

 首位打者争いでは、ここまで5年連続のイチローが大本命で、捕手という不利なポジションのモウアーはおそらく後半のツメに入ってから追い抜かれるだろうというのが、大方の見方であるだけに、この二人の「大接近」はそれだけで話題になった。二人はオールスターの記者会見でも隣あわせた。マウアーには「あなたの隣にいる人(イチロー)を抑えて首位打者になる自信はありますか?」という質問が何度もくりかえされた。

 そのたびに、となりで記者に囲まれているイチローを見やりながら「僕がツインズに入団した2001年以来、ずっとイチローに憧れてきた。首位打者のタイトルは取れるにこしたことはないが、今はそういうことにフォーカスするより、憧れのイチローと引き合いに出されていること事態が嬉しいし信じられない」と、普段は冷静なモウアーが珍しく興奮気味に応えていた。

 不思議なことに、今年はそのイチローのいるシアトル戦で打ちまくり(ここまで31打数17安打)、しかも6月6日(シアトル戦)には4安打して、打率を3割6分8厘に上げ、首位打者に躍り出た。以来、一度も首位の座を明け渡していないのだ。マスクをかぶらない日も定期的に設けているが、故障者などが続出し、打撃陣の層が薄いツインズでは完全休養とはいかず、指名打者として出場することも多い。

 果たして、このツケがどうでるのだろうか?ワイルドカード争いの真っ只中にいるチームの守りの要、また中心打者として、弱冠23歳の若者には重い責任がのしかかっている。そんな中で歩まなければならない「首位打者」という未知の道のりは決して平坦ではないはずだ。ペナント争いが熾烈を極めるこれから先、マウアーは本当の正念場を迎えることになる。

August 11, 2006 06:48 PM

2006年08月04日

第121幕 好調タイガースを支える驚愕の165キロ投手

 両リーグを通じて70勝一番乗りを果たしたデトロイト・タイガース。この快進撃は30球団中唯一、3点台の防御率を誇る安定した投手陣が支えているといえる。中でも際立っているのが21歳で新人ながら、セットアッパーという重要な役割を見事にこなしているジョエル・ズマーヤだ。

 今年4月3日にメジャーデビューすると、持ち前の剛速球で、ほとんど付け入るすきを与えないまま、後半戦に突入している。8月3日現在、44試合に登板。54・2回を投げて、奪三振67、防御率2・14。ピンチを背負ってマウンドに立ち、それを片付けてからクローザーに繋ぐ役目としては申し分のない数字といえる。

 難点は四球が多く、剛速球投手にありがちな、三振もとるが四球も多いというパターンで自分を窮地に追い込むこと。だが、何と言っても常に99~100マイルという武器のストレートで相手を翻弄し「一人や二人歩かせても、後の打者を牛耳れば問題ないだろ?」といわんばかりの大胆な投球を披露している。

 プロ入り2年目の19歳の時、1Aのウエストミシガンですでに102マイル(163キロ)を出し、当時から注目されていた。メジャーに上がった今年からはさらにその球速が増し、コンスタントに100マイル(160キロ)、101マイル(162キロ)と出せるようになってきた。

 そしてついにアスレチック戦で自己最高の103マイル(165キロ)を記録したのだ。「自分でもちょっと驚いた」というその投球が、速い球を投げることへの快感に変っていく。「きちんと管理されたトレーニングで、体が出来てきたから」と、球速が増した理由を話しているが、速さはまだまだ増すと信じつつ、体作りにも余念がない。

 少年時代から憧れを抱いてきた、ノーラン・ライアン、ランディー・ジョンソン、ロジャー・クレメンス。これら「超」剛速球投手に一歩でも近づきたいという思いが、投球の進化につながる。唸りを上げるズマーヤの剛速球は。今や、タイガース悲願の優勝に向けて、必要不可欠なものになっている。

August 4, 2006 06:25 PM