2006年06月24日
第116幕 田口のあくなき挑戦
「持っている力を出せていない。まだまだ、もっともっとできる」。まるで自分に言い聞かせるように田口が言った。5月24日。サンフランシスコ戦で4打数3安打2打点とチームの勝利に貢献し、しかも今季1号を打った試合後の田口のコメントに正直、意表を突かれる思いがした。本塁打に関する質問には「僕はホームランバッターじゃありませんから」と、キッパリ言い切った。
ホームランを打って嬉しくないわけがない。だがそれのみに終始していないで、もっと自分の野球観やひとつひとつのプレーの意図も汲み取り、読んで欲しいといわんばかりの顔つきだった。「自分のような立場の選手は与えられたチャンスを確実にモノにしていかなければならない」。いつまでも1本の本塁打の喜びに浸ってはいられないということでもあったのだろう。
メジャー挑戦5年目。メジャーとマイナーを行ったり来たりしながら、苦労して自分のプレースタイルを築き上げ、メジャーに定着した。少々申し訳なく思ったが、マイナー行きはどんなタイミングで言われるのかと聞くと「監督室に呼ばれ部屋に入るなり、トニー(ラルーサ監督)が指でピストルの構えを作っていて撃つ真似をする。それがマイナー行きの合図だったりするんですよ」と答えてくれた。
昨年は143試合に出場。今季もまた開幕から「いなくてはならない選手」として存在感を見せつけている。ピストルの構えをし、マイナー行きを言い渡したラルーサ監督も、最近はこちらが切り出す前から「ソー(田口)は実に堅実なプレーをして、チームを助けてくれている。なくてはならない選手だ」と積極的に田口の話を持ち出すようになった。それでも当の本人は「いやいや。まだまだ。もっともっとできるはず」と少しの妥協もない。
遠征先では日本食のレストランを探すのかと思いきや、コテコテのアメリカンフードに舌鼓を打って、満足気な顔をしていたことも意外だった。アメリカで一番好きな都市が「セントルイス!」とも言いきった。内陸部で高温多湿のその地の夏はお世辞にも住みやすいとは言いがたいが「郷に入れば郷に従え」というその土地に根付いた生き様からも、今日の成功を伺い知ることができる。
これまでの紆余曲折を思えば「何があっても驚かない」という田口も、唯一恐れをなすものがある。試合が終わり帰宅すると、長男の寛くんが、おもちゃのバットとボールを持って目をギラギラ輝かせて待ち構えているのだそうだ。「こっちは試合で疲れているというのに、うちはダブルヘッダーなんですよ」。そういいながらも父親の目からは嬉しさがあふれている。
名将ラルーサ監督に「なくてはならない選手」と言わしめた男は、それでも「まだまだ、もっともっとできる」と自分を鼓舞するように繰り返す。チーム最年長、来月には37歳になる田口は、その存在感を着実に広げながら、あくなき挑戦を続けている。
June 24, 2006 05:50 PM
