鉄矢多美子 Field of Dreams

2006年06月16日

第115幕 苦悩するボンズ

 「僕がルースを抜かなければよかったのかもしれない…」

 ベーブ・ルースに並ぶ714号、それを超え通算本塁打記録単独2位となる715号の偉業達成を心から喜んでいたはずのバリー・ボンズ。だが半月もたたないうちに、こんな思いがけない言葉を耳にしようとは…。

 ここにきて一旦沈静化したと思われていたステロイド使用問題が再燃。さらに03年のオ-ルスターで発言したとされるルースを軽視したとも受け取れるボンズの言葉(真偽のほどは定かではない)などを問題視し、攻撃の手を緩めないメディアに辟易としている。そこで思わず「自分がルースさえ超えなければこんなことにはならなかったのに」という心情になったのであろう。

 スーパースターには常に孤独感と重圧との葛藤がつきまとう。ステロイド使用に関する暴露本が出た今年のキャンプ後半には「僕がエンパイアーステイトビルから飛び降りて、この世にいなくなればこんな騒ぎもなくなるだろう」と自虐的とも受け取れる発言までして周囲を驚かせたことがある。この発言の裏にも限りない孤独感が漂っていた。

 一旦家を出ると、帰宅するまで終始、人の目にさらされ続け、その言動には寸分たりともスキをみせられない。息の詰まるような時間の中で、結果だけが求められる。過去に何度か繰り返されている「引退発言」は、そんな日常の重圧から開放されたかったがゆえのことだろう。事実、これまで何度か「自分がバットを置けばどれくらい楽になれるだろうか」と心の針が「引退」に振れたことがあるのだという。

 「いつプレーできなくなってもおかしくない」と本人がいうほど、身体的な爆弾を抱えながらプレーしている今季。記録を抜かなければ「力が落ちた」と揶揄され、抜けば抜いたでこき下ろされる。「僕がルースさえ抜かなければ…」。思わずこぼれおちたその言葉の裏には、不条理な見解に包囲され、孤立したスーパースターの揺れ動く苦悩がはっきりと感じ取れた。

June 16, 2006 03:11 PM