2006年05月19日
第111幕 ボンズ、本塁打狂想曲の舞台裏
打ってもボンズ、打たなければなおさらのこと…。ベーブ・ルースの歴代本塁打記録714号にあと「1」と迫って、なかなか本塁打が出ないボンズに関する報道が過熱している。5月15日からヒューストンで行われた3連戦に、いずれも2けた得点でアストロズをスイープしたジャイアンツだが、勝利に貢献した選手はそっちのけで、メディアはむしろ本塁打不発のボンズの方を追い掛け回している。
ステロイド疑惑で作られた注射器をデザインしたTシャツ
「クレージーだね」と眉をひそめるボンズに、迷惑とわかっていながら筆者も彼の一挙手一投足に注目し続け、大勢のメディアの行く方向に取り残されないよう、金魚のふんのように必死でついて歩いている毎日だ。1本は打つだろうと予想されていた5月9日からのホームゲーム6連戦で不発に終わり、ボンズの本塁打狂想曲は舞台をヒューストンに移すことになった。
初日の試合開始前に記者に囲まれ少し口を開いたというボンズも、ヒューストンでは一切口を閉ざした。1戦、2戦目に出場し安打を放ってスランプから復調の兆しをみせたが、今のボンズは本塁打でなければ許されない雰囲気におかれている。3連戦の最終日には9試合ぶりに完全休養をとって、試合に出場しなかった。にもかかわらずやはりメディアの大半はボンズの動向に注目していた。
サンフランシスコの選手たちがシャワーを浴び、慌ただしく帰りの準備をしているときすでに私服に着替えていたボンズは、とりまく報道陣から逃れるように出発時間までクラブハウスマネジャーの部屋で過ごした。その部屋には400個を越えるというバブルヘッド人形が並べられており、それをしばし眺めていたが、「BONS」のバブルヘッドのところで目が止まり、しばらく「自分」と相対していた。
本塁打狂想曲をよそにカメラ目線で柔和な表情を見せるボンズ
そのとき彼がどんなことを思いめぐらせていたのかは分からないが、長い沈黙のあと、まるで魔法から解かれたように、世間話をしはじめた。ヒューストンで250ドルのボディーシャンプーを買ったことや、それをホテルに置き忘れてきたが、好きな香りだったため何としても欲しくて、取りに行ってもらったこと。ホテルのシャワーが壊れていて、急に熱湯が噴出し火傷しそうになったこと…などなど、たわいもない話に終始した。
本塁打記録とあいまって、依然としてステロイド疑惑もくすぶっている。ヒューストンではボンズの記録を疑問視するアストリックマーク(*=注釈をつけるときに使用するマーク)がレフトの守備位置後方と、そこから見える1塁側の内野席に掲げられ、注射器のかぶりものや、注射器をプリントしたTシャツを着た人が出現した。そんな騒然とした空気とメディアの激しい攻勢の中、語られたボンズの「日常」は彼が「渦中の人」だけあって、かえって新鮮に聞こえた。そして狂想曲の舞台裏なんて、意外とこんなものだったりするのかも、と思った。
May 19, 2006 03:17 PM
