2006年04月07日
第105幕 ボンズ、ブーイングの嵐の中で
2006年4月3日。カリフォルニア州サンディエゴ。パドレスの本拠地ペトコパークは敵地とあって嵐のようなブーイングが沸き上がっていた。その矛先はバリー・ボンズ。開幕直前に暴露本「ゲーム・オブ・シャドー」が出され、コミッショナーも調査に乗り出したとあって、ステロイド疑惑の渦中にあるボンズにはいつにもまして大きなブーイングが浴びせられた。しかもベーブ・ルースの本塁打記録超えが目前とあって、報道も過熱気味なのだ。
第1打席にスタンデョングダブルで出塁したボンズには、さらに強いブーイングが浴びせられたが、実はそれに負けないくらいの拍手も入り交じっていた。中にはブーイングしながら拍手を送っている観客もいた。もちろん敵地だから憎っくきボンズに心から罵声(ばせい)を浴びせる者もいたが、一方で、悪者(いじめの対象=ボンズ)を作ってやりだまにあげ、それを日常のうっぷんのカタルシスにしようとさえしている者もいるように見えた。
試合前の打撃練習では、ボンズが振り向けば視界に入るように一塁側内野席にステロイドをもじった「Barr-Roid」と書かれた紙を掲げる若者が現れ、守備位置後方のレフトスタンドにも「Bons 1st into the Hall of Shame」などボンズを揶揄(やゆ)する強烈なメッセージボードが並んだ。
「そんなものは目に入らない」「気にしない」と言っていたボンズが、ESPNが製作したドキュメンタリー「Bons on Bons」の番組の中で涙を見せる一幕があった。「よってたかってみんなが僕を痛めつけている」というたぐいのコメントをしながら見せた涙。4月4日夕刻。その収録番組が流され始めると、いわゆる「ボンズ番」の記者たちはテレビにくぎ付けになっていた。
シーズン前、あらゆる角度から質問を浴びせる記者たちの質問にも「ただシーズンに集中するのみ。ただ野球に集中するのみ」と答えていたボンズが、誰にも邪魔されず、脚色されることもない自分の言葉で心境を語り始めた。テレビから流れてくる言葉を記者たちはメモし始めた。彼らはその言葉をある意味新鮮に受け止め、また懐疑的にも受け止めていた。
いずれにしろ、それは番記者たちが初めて垣間見るボンズの素顔でもあった。
その4日は、サンディエゴに大雨が振り、試合が中止になった。ボンズのドキュメンタリーで、番記者たちが軽いショックに見舞われているころ、当の本人は打撃練習を終え、クラブハウスのソファーにゆったりと寝そべっていた。そうしていながら「どんなことにも負けないぞ!」という強い意志と、彼が持つ独特のオーラを発散していた。
April 7, 2006 10:44 AM
