鉄矢多美子 Field of Dreams

2005年11月09日

第104幕 17年目のチャレンジ

 アクロバティックな守備が売り物のオマール・ビスケルが通算10度目のゴールデン・グラブ賞を受賞した。この賞で「常連」だったビスケルの名前がここ数年消え、年齢から来る限界説がささやかれていただけに、4年ぶりの受賞に本人も「初受賞(マリナーズ時代の1993年)のときより以上に感激している」と、喜びを語っている。

 この賞は89年から5年間在籍したマリナーズ時代に1度、94年から11年間在籍したインディアンズ時代に8度受賞しており、彼にとってはすっかり「守備の人」というイメージが定着しているが、打撃面でも堅実に数字を積み重ね、通算2301安打を記録している。デレク・ジーター、アレックス・ロドリゲスといった大型ショート時代到来の中で、170センチそこそこ(登録では175センチとなっている)の小兵は、投打両面で存在感を見せ付けている。

 今年ジャイアンツに移籍するまではア・リーグ一筋に歩いてきた。現役17年目にして初めてナ・リーグでプレーすることになったことへの戸惑いがなかったとはいえない。これまでは球場の土や風などの「癖」もインプットできていた。投手も打席に立つナ・リーグでは攻め方などでア・リーグと違う点もある。それ等のことを新たに体に覚えこませなければならなかった。

 「確かに慣れなければならないこともいっぱいあったけど、それは自分にとっていいチャレンジになった。新しい環境を与えられたことは、もっともっと頑張れというサインだったのかもしれない」とあくまでも前向きだ。だから、初めてプレーしたナ・リーグで自分の守備が評価されたことを、新人選手のようなういういしい気持ちで受け止めることができた。

 ここまでショート一筋に歩いてきたビスケルは、その位置を守る楽しさについてこんなことを言っている。「僕のポジションは、フィールドで起こりうる80%のプレーに直接、間接的にかかわりあっていると思う。それだけに一瞬たりとも気が抜けないけど、試合の中に居れる楽しさとやりがいも感じることができる。少なくとも外野手よりは疎外感を感じなくて済むこともラッキーなのかもしれないね」。

 「一瞬たりとも気が抜けない」。そんな張り詰めた気持ちを開放させてくれるのは、趣味で描く絵画だ。インディアンズ時代にはビスケルが描いたチームメイトの絵がポスターになってファンに配られた。「自分をリラックスさせてくれる」という彼の描く絵は、プロの域に達しており、ギャラリーを開いては?と問い合わせがあるほどの腕前だ。

 17年目のチャレンジで輝きを取り戻したビスケル。彼の夢は「ワールドシリーズで世界一になった瞬間の絵を描くこと」なのだという。「バリー(ボンズ)が帰ってくるからチャンスは多いにあるね」と、今からその青写真を描いている。

November 9, 2005 03:22 PM

2005年11月02日

第103幕 世界一の捕手が恐れるもの

 ホワイトソックスの強さばかりが目立ち、あっけなく終わってしまった感のあるポストシーズンゲーム。ワールド・チャンピオンに輝いたホワイトソックスのがい旋パレードを締めに今年のメジャーリーグのシーズンも終わりを告げた。世界一になったホワイトソックスは、これまでの大味な野球から、小技や頭脳プレーも交えた、いわゆる「スモールボール」への移行が結果的に大成功へとつながった。

世界一のトロフィーを手にエイバちゃんを見つめるピアジンスキー

 その成功の一翼を担ったのが、捕手のAJ・ピアジンスキーだった。チャンスに強いバッティングはツインズ時代から定評があったが、ポストシーズンゲームでは見事にその真骨頂を発揮した。そればかりか、ア・リーグ優勝決定シリーズ第2戦のエンゼルス戦では「空振り三振」でチェンジになるところを、瞬時の判断で振り逃げ出塁。その直後にジョー・クリーディーの二塁打が出て、これがサヨナラ勝ちにつながった。

 このプレーについては審判の誤審ではないかと紛糾したが、判定が覆るわけもなく、相手の虚をついたピアジンスキーのプレーが、勝利を呼びこんだ。前日の第1戦で先手を許していただけに、万が一、この試合で負けるようなことになれば、そのままズルズル行きかねないところだった。ESPNのジョニー・ミラーが「野球はえてしてこういうプレーがキーになる」と言っていたが、今にして思えば、あの「振り逃げ」こそが、世界一につながる道を開いたのではないだろうか。

 さて、こうした老かいなプレーを見せるピアジンスキーが、最近恐れているものがある。9月に誕生した長女エイバちゃんの存在だ。捕手としては冷静沈着、どんなことにも揺るがないが、こと子育てとなると「どうも野球のようにうまくいかない」と戸惑いをみせているのだ。特にまわりの人から「お父さんになったんですね」と声をかけられると、「その言葉、怖い」と頭を抱えこんでしまう。そこには父親になった喜びと照れが見え隠れする。

 10月26日。世界一になった夜のこと、エイバちゃんを抱くリサ夫人に寄り添うようにピアジンスキーが立っていた。そこへ回ってきたのが優勝トロフィー。思わず「エイバ。これが世界一のトロフィーだよ」と声をかけ、愛娘をのぞき込んだピアジンスキー。この時ばかりは、すっかり父親の顔になっていた。それでも「ワールドシリーズは終わったけど、僕の本当の戦いはこれから始まる」と言って周囲を笑わせていた。オフに入り、子育てに挑戦する新米パパの「本当の戦い」はもう始まっている。

November 2, 2005 03:19 PM