鉄矢多美子 Field of Dreams

2005年10月10日

第101幕 ブラックTシャツ事件

 昨年の覇者、レッドソックスが地区シリーズでホワイトソックスに敗れた。負けたから言うわけではないが、この勝負は最初から見えていたような気がする。その理由の1つに、シーズン後半からチームを1つにする「求心力」が失われていたことが挙げられる。ポストシーズンのような短期決戦では、戦う士気をいかに上げていくかが、勝敗を分ける重要な鍵になる。

表向きには昨年のスローガン「COWBOY UP」のリストバンドをつけていたが、ユニホームの下のブラックTシャツには何が書かれていたのか?

 一昨年は「丸刈り」、昨年は「あごひげ生やし」というアイデアを考案し、ゲン担ぎをチーム内に徹底させることによって、士気向上にに成功した功労者ケビン・ミラーが、3年目の今年、どんな仕掛けをしてくるか、注目されていた。レッドソックスが首位を走っていた8月下旬、ミラーは「それは9月のツメに入ってからのお楽しみだね」と余裕をもっていた。

 そして9月。中旬を過ぎ、ヤンキースが猛迫してくると、突然それらしきものを目にすることになる。ミラーが作ったというブラックTシャツ。そこには「F●CK ALL THEM」というメッセージがプリントされていた。そのTシャツを実際に着ていたのはミラー本人とオルティス、デーモンくらいで、過激さのあまり、外で行う打撃練習には決して着ることができない代物だった。

 これまでの「丸刈り」や「あごひげ生やし」大作戦は、マスコミも巻き添えにしながら、「おれたちはこんなにまとまっているんだ」ということをアピールする格好の材料となり、選手たちも次々に同調して、チーム内に相乗効果をもたらしてきた。しかし、今年のゲン担ぎ作戦は、内容が内容だけに記事にもならず、苦し紛れに犯した大失態と言わざるを得ない結果になっていった。

 ブラックTシャツをもらったという選手数人に聞くと「気持ちはよくわかるし、チーム愛から出ていることだと思うけど、よくない言葉が書かれていたから、外に着て出られない」と、不評だった。後半戦のロースターにはファームで育ってメジャーに上がった若い選手も加わり、そんなミラーの過激なやり方に同調できないという選手が増えて、決して一枚岩で戦うチーム状態にはならなかった。

 確かに世界一になった昨年のチーム力と比べれば、今年は投手力の低下や故障者の続出などで後半戦は苦しい戦いを強いられてきた。そんな中でも、ある意味、陰のチームリーダーであるミラーが、精神面で引っ張り、ここまでやってきた。そして、よかれと思って作ったブラックTシャツによって、今年は逆にチームの「求心力」を失うという皮肉な結果をもたらすことになってしまった。

 なお、3タテを食らったレッドソックスの取材陣の間では「ブラックTシャツ事件」のレッドソックスが、「ブラックソックス事件」のホワイトソックスに敗れたのは「何かの因縁?」とこじつけ、最後に冗談で「Tシャツ」が「靴下」に負けたシリーズだったと、なかばヤケクソになっていたことも付け加えておこう。

October 10, 2005 03:12 PM