2005年10月03日
第100幕 「シーズンの終わりが僕の始まり」
「ほら、これなんだ。ここが僕をいじめてたんだ」。
クラブハウスのいすに座っていたボンズが、指し示したところを見ると、右ひざの「皿」と呼ばれる部分を取り囲むように、ほくろのような黒い点が左右上下に4カ所あった。昨年暮れに1度、今年に入ってさらに3度も手術を受けたその個所に触れてみても、黒点があるだけで全く異常は感じられない。だが、すっかり治っているように見えるその個所が、実は完治していない。
圧倒的な存在感を秘めているボンズ
「痛いんだ。とっても。走ると頭から痛さが突き抜ける」。
試合を終え、足を引きずりながらクラブハウスに引き揚げてきた彼の第一声だ。「チクショーって感じで、ホントに痛い」。よほどのことには我慢するボンズが、試合が終わると「痛い」の連発。激痛を抱えながら、それでもプレーに執念を燃やした。
完治しないままプレーすれば、来季にまで影響することは分かっている。へたをすれば選手生命の終わりを迎えることにもなりかねないのだ。それでもボンズは今シーズン中のプレーを決断した。復帰した9月12日には、首位パドレスに7ゲーム差の開きがあったが、「まだ間に合う」と思ったのだ。
ナ・リーグ西地区は一時全チームが勝率5割を切るという史上まれにみる低レベルの戦いを繰り広げていた。つまり、どのチームも決め手に欠けていたのだ。おそらくボンズはこんな戦いにジレンマを感じていたのだろう。「ひざは完全じゃないが、ホームランの打ち方は知っている」。そう言って、ついにチームに合流することを決断したのだ。
チャンピオンリングへの執念のようなものが、彼の体を突き動かした。「ポストシーズンに出るチャンスはある」。そう思ったら、ひざの具合などもうどうでもよかった。ボンズが復帰してからのジャイアンツはそれまでと同じチームとは思えないほど活気づいた。そして終盤戦で首位パドレスを2ゲーム差まで追い上げる。
だが、ジャイアンツは力尽きた。パドレスの地区優勝がマジック2となった9月28日。ボンズはこの試合にも出場し、2安打を放った。右足を引きずるように一塁に向かって走り出すさまは見ていて痛々しかった。大差をつけられて勝敗が見えてくると、スコアボードからボンズの名前が消えた。彼の短いシーズンが終わりを告げたのだ。
クラブハウスでボンズが言った。「これはすべてのスポーツに当てはまるんだけど、どんな時も最後まであきらめない。昨日がこうだったから今日が同じように行くとは限らない。僕たちができることはベストを尽くして試合に立ち向かっていくことしかない。そして試合の後、自分に誇りを持って、家に帰るんだ」。あたかも自分に向けてそう言っているように聞こえた。
「シーズンの終わり(10月2日)が僕の始まり。来シーズンはおそらく最後になる。悔いを残さないためにもしっかりリハビリに取り組むんだ」。チームのバスに乗り込む際、手すりにつかまりやっとの思いでステップを上った。そこには、自分の限界を超えた戦いに挑んだボンズが「自分に誇りを持って家に帰っていく」姿があった。
October 3, 2005 03:10 PM
