2005年08月09日
第93幕 イチロー「八艘跳び」の真
5月15日のマリナーズ対レッドソックス戦でイチローが源義経の八艘跳びを彷彿とさせるプレーを見せたことは深く記憶に残っていることだろう。繰り返されるテレビのスローモーションVTR。限りなく「セーフ」に近いプレーにイチロー自身も猛烈に抗議したが、審判が「アウト」といえば、それに従わざるを得なかった。そしてその真実を知っているのは、当時の捕手、ダグ・ミラベリだけだ。
イチローのプレーの分解写真に見入るミラベリ
9枚の連続分解写真とイチローが捕手を跳び越えた瞬間の大きな写真。それが掲載されている5月17日付の日刊スポーツを携えて、ミラベリに話を聞くその瞬間を待った。前日に約束は取り付けていたものの、ミラベリは当日クラブハウスでクロスワードパズルに夢中になるあまり、インタビューのことがすっかり頭から飛んでいて、練習開始ぎりぎりになってグラウンドに現れた。
わずかな時間しかなかったが、インタビューの内容が「八艘跳び」のことだと知ると、ミラベリは練習時間を削って真剣に答えてくれた。「あのプレーは今でも鮮やかに覚えているよ」と切り出すと、新聞に掲載された一連の連続写真を食い入るように見始めた。そして「イチローがいつでも信じられないプレーをすることは誰でも知っているが、とりわけこの日のプレーは、この世のものとは思えなかった」と言った。
「この世のものとは思えない」といわせた八艘跳び。一番知りたいことは捕手を跳び越える奇襲を見せたイチローのあのプレーが「アウト」だったのか、「セーフ」だったのかである。ミラベリは新聞を手繰り寄せながら、右手に持っているボールがイチローにタッチしていない「証拠写真」を指し示し「あれはセーフだったね」と“告白”した。
ボストンの取材記者たちに聞くと、ミラベリはあれ以来そのことには触れておらず、初めてその真実を公に明かしたのだと言った。時の経過がそれを言わせたのだろうか。「セーフだった」と答えると、2カ月以上も心にあった小さなわだかまりが消え、すっきりした表情で、仲間たちが練習している輪の中に入って行った。
August 9, 2005 03:35 PM
