鉄矢多美子 Field of Dreams

2005年05月19日

第90幕 オールドルーキーの意外な魅力

 藪がリリーフ登板で3勝目をあげた。思えばキャンプ当初から、ピシャリと抑えたかと思えば、いきなりボカスカ打たれるという両極端な投球を繰り返し、見ている方をやきもきさせてきた。そんな波のある投球にも、捕手のケンドールだけは「打たせておいてインプットしていることも多い。あせらなくてもきっと合わせてくる。それがベテラン投手というものなんだ」と言い続け、藪の「読み」を信じてきた。

ファンのサインに気軽に応じる藪

 地元ファンも「シーズンは長いから、そのうちやってくれる」とケンドールと同じ気持ちで見守ってきた。彼らは性急に答えを求めなかったばかりか、なぜか藪を魅力的な存在として受け入れた。その理由は「今までメジャーに挑戦してきた日本人選手は、どこか体つきがキャシャで印象が薄かったけど、藪は体の線が太く、堂々としていて存在感があるから」というのだ。

 藪に魅了されているのはファンだけではない。アスレチックスの広報部長、ジム・ヤングは「日本でもまれてきたせいでもあるかもしれないが、練習態度といい、人間性といいこの上なくすばらしい。こんな選手はこれまであまり見たことがない。若い選手のお手本になることが多い」と絶賛する。ヤング広報部長は何とか直接、藪とコミュニケーションをとろうと、日本語の勉強を始めたほどだ。

阪神のハッピを持って応援に駆けつけたファン

 最近、藪にサインをねだるファンたちの間から「ヤブサーン」「カンジ」「ニホンゴ」という声が聞こえてくるようになった。日本語(漢字)でサインを書いてもらったあと「アリガトゴザイマス」と日本語でお礼をいう。そんなことが小さなブームになっているのだ。また、ネットで買ったという阪神タイガースのユニホームやハッピなどを着て球場にやってくる熱心なファンも現れ、何とか藪を盛り立てようとしている。

 エースのハドソン、マルダーが抜け、ファンの心にポッカリ大きな穴があいていたところに突然、日本からやってきたオールドルーキー。見ると、その風ぼうからは「質実剛健なサムライパワー」が漂い、「低くて野太い声」からはある種の「頼もしさ」さえ感じるのだという。日本では気づかなかった藪の意外な魅力と存在感の大きさは、アスレチックスのファンにしっかりと受け止められている。

May 19, 2005 04:52 PM

2005年05月08日

第89幕 その後のボンズ

 4月末には「リハビリも順調に行っている」と明るい表情を見せていたボンズが、5月に入って3度目のヒザの手術を行った。復帰も間近だといわれ、やっと明るい光が見えてきたという、その矢先のことだったが、これでまた前半戦は絶望的になったといわれている。またしてもフィールドに戻るという目標を見失ってしまったボンズの心中はいかばかりだろうか。

 20年目のシーズンを迎えた今年、初めて開幕戦を欠場した。キャンプ当初は「これまで19年間、僕が開幕戦をパスしたことあった?」と、出場になみなみならぬ意欲を見せていたが、それもかなわなかった。開幕日の4月5日には昨年のMVPの表彰式が行われ、久々にサンフランシスコのファンの前に姿を見せた。このとき「僕は必ず戻ってくる」と自分を鼓舞するかのように力強く2度繰り返した。

 普段から人知れず厳しい練習に取り組んでいるボンズだが、ヒザの故障のため、このところ思うようなトレーニングができていない。この3カ月間は、やっと足に負荷をかけ力を入れる運動ができるようになったかと思うと、手術でまた逆もどりという繰り返しになっている。「もういいかげんうんざりしてるんだ」と長引くリハビリ生活にジレンマさえのぞかせていた。

 2度目の手術のあと、連日の薬物疑惑記事に続いて、女性スキャンダルが暴かれ、地元紙には交際していたといわれる女性の顔写真までが掲載された。この直後、松葉づえをつき肩を落としたボンズが「僕はもう引退するよ」と口走った。この発言は後日撤回されたが、復帰できるメドも立たない状態の中で、こんなダブルパンチを食らっては、いつ気持ちがキレてもおかしくなかった

 それでも、ここまで気持ちをつないでこれたのは「何かに挑戦するならば、その道の一番になれ」という亡き父の言葉に支えられていたからだ。すでに多くの「一番」を手にしているボンズにとって、究極の目標は本塁打記録を更新して「その道の一番」になることである。先の見えない長く苦しいリハビリも、そうした大きな目標があるからこそ、耐えられるのだ。

 試合が始まり、沸き立つスタンドの歓声を耳にしながら、リハビリを終えたボンズが人知れず駐車場へと向かうところに何度か出くわした。本来ならばスポットライトを浴びているはずのフィールドのにぎわいを背中で感じながら、通路を通り抜けていく姿には一抹の寂しさが漂っていたが、同時にその背中からは「このままじゃ終わらない」という強い意志も発信していた。

May 8, 2005 03:51 PM