鉄矢多美子 Field of Dreams

2005年04月28日

第88幕 そこまでやるか、ゲン担ぎ

 ツインズの新球場建設が正式に決まった。球団消滅の危機も乗り越えたし、これで「やっと…」という思いがする。メトロドームはクラブハウスも狭く、ビジター球団の選手からも「不評」を買っていた。そのツインズで今、ひそかに行われているゲン担ぎがある。ピンクのバービーパックを試合開始前に選手が背負ってブルペンに入るというのがそれだ。そして試合中もブルペンから試合の成り行きをじっと見守ってくれるのだ。

ピンクのバービーパックを背負ってブルペンに入るゲリアー投手

 昨年から始めたこの儀式。チームがポストシーズンに進出するなど、何かとラッキーなことが続いたため、すっかりやめられなくなってしまった。バービー人形がついたピンクのバックパックをブルペンまで運ぶのは新人投手かメジャー経験の一番浅い選手の役目と決まっている。現在その役目をしているのが昨年メジャーデビューしたばかりのマット・ゲリアー投手だ。

 「恥ずかしくない? と聞かれるけど、もう慣れてしまったからOKだよ。むしろこれをやらないと寂しいような気にもなることがある」とゲリアーはもうやみつきになっている? バックパックの中にはチョコレート、ラムネ菓子、キャラメル、ガム、ひまわりの種などに加えて、ミネラルウオーターやゲータレドなどさまざまなものが入っていて、ブルペン投手たちはではまるでピクニック感覚で中のお菓子を食べている。

 このおかしなゲン担ぎを始めたのは、クローザーのジョー・ネイサンだ。一昨年ジャイアンツから移籍してきた際、持ち込んだのだという。「自分もジャイアンツでやらされたんだ。やってる本人は最初恥ずかしくても、そのうち慣れるとそれが普通になってくるんだ。それに見ているほうも楽しいしね」としたり顔で話す。そういえば最初は恥ずかしがっていたゲリアーも、最近では結構気に入っているフシがある。

ピンクのバービーパックを背負ってブルペンに入るゲリアー投手

 開幕当初からせっせとバービーパックを運び続けていたゲリアーにはその「ご利益」が出てきたのか、中継ぎでまずまずの働きをしている。万が一、先発陣に故障者でも出たら、先発に昇格する候補の一番手になっており「それもこれも縁起のいいバービーパックを背負っているおかげだと思う」と本人はいたってマジな顔をして答えていた。

 メジャーリーガーとピンクのバービーパック。この妙な取り合わせを目のあたりにすれば「そこまでやるか」といいたくなる。しかし一方では、日々しのぎを削る戦いの中で、どこかほっとする光景でもあったりするのだ。こうしている間にもゲリアーはどこかの球場でせっせとバービーパックを運んでいるにちがいない。

April 28, 2005 03:45 PM

2005年04月19日

第87幕 V戦士たちの再会

 レッドソックスのチャンピオンリング授与式が華やかに行われた4月11日、他チームに移籍したデレク・ロウやデーブ・ロバーツはセレモニーにかけつけた。が、V戦士の1人オーランド・カブレラはレンジャーズとの試合のため、テキサスにいた。「今頃みんな優勝リングを手にしているだろうな」とボストンの地に思いをはせながら、プレーをしていたのだという。

世界一の証、チャンピオンフラッグ

 昨年、前半戦を折り返した時点で「世界一を狙うには守備の強化が急務」としていたレッドソックスのエプスタインGMは、故障がちなノーマ・ガルシアパーラの放出に踏み切り、2001年にゴ−ルドグラブ賞を受賞するなど、守備に定評があったカブレラを、トレード期限ギリギリの7月31日にモントリオールから獲得した。以降、8月1日からペナントレース終了まで、レッドソックスは42勝18敗という猛烈な追い上げをかけ、ワイルドカードでポストシーズンに進出を決めたのだ。

 閑古鳥の鳴くモントリオールから、熱狂的なファンに囲まれプレーしているボストンにやってきただけでも、カブレラにとってはある種のカルチャーショックだった。「チームとファンが一体になってこんなに熱くなっているチームは見たことがない」と驚きを隠し切れなかったが、気がつけば彼自身もまたそのボストンの「熱い輪」の中で燃える戦士になりきっていた。

V戦士たちとの再会をまちわびるカブレラ

「守りの強化」を念頭にカブレラを獲得したエプスタインGMの思惑は見事に当たり、ボストンに86年ぶりの「世界一」をもたらした。だが、早くも12月にはワールドシリーズを戦ったカージナルスから、大型遊撃手エドガー・レンテリアの獲得を決め、カブレラはチームを去ることになった。皮肉にもレンテリアはスカウトだった亡き父ホルベルトが発掘した選手でもあった。

 今シーズンからエンゼルスでプレーすることになったカブレラのもとに、先日、レッドソックスの元チームメートたちから「6月2日」の予定を空けておくようにと連絡が入った。それは3日からボストンで行われるアナハイム戦を前に有志が集まり、共に戦ったカブレラのために仲間内でささやかなチャンピオンリングの贈呈式を行うというものだった。

 レッドソックスの選手としてほんの3カ月足らずプレーしただけではあったが、カブレラはその間、凝縮された密度の高い時間を過ごした。それだけでも十分満足だったが、チームが変わった今、自分のためにプライベートで「指輪の贈呈式」を開いてくれるのだという。その思いがけない知らせに思わず胸を熱くした。6月2日に「世界一の証」を手にするカブレラ。その時V戦士たちはボストンでどんな再会を果たすのであろうか。

April 19, 2005 03:41 PM

2005年04月13日

第86幕 世界一へつないだ盗塁

 4月11日。ボストンのフェンウエイパークで予期せぬ出来事が起こった。昨年ワールドシリーズを制したレッドソックスの選手たちに、チャンピオンリングを渡すセレモニーが始まって間もなくのことだった。「デーブ・ロバーツ」と名前が読み上げられると、ジーンズの上にレッドソックスの「背番号31」のユニホームを着て、突然本人がグラウンドに姿を現したのだ。

拳を突き上げながら登場するロバーツ

 昨年オフ、パドレスに移籍したロバーツだが、晴れのリングセレモニーのためにこの日、米大陸を横断してボストンにかけつけたのだ。フェンウエイにつめかけた33702人のファンからはひときわ大きな拍手が沸き起こった。その理由はヤンキースとのア・リーグ優勝決定戦の第4戦で、ロバーツが敢行した「盗塁」にあった。

仲間たちと喜びを分かち合う

 レッドソックスはヤンキースに3勝され、もうあとがない4戦目。ロバーツは1点リードされていた9回の土壇場で「代走」に起用され、盗塁を成功させたのだ。それを機に同点に追いつき、ついには延長でひっくりかえして勝利。ここから流れがガラッと変わり、レッドソックスは、3連敗から奇跡の4連勝を成し遂げることになる。

 あのロバーツの「盗塁」がなければ、この日のリングセレモニーはあり得なかったことを再びレッドソックスファンに思い出させた。フェンウエイに戻ってきたロバーツは、抜けるような青空に向け、右と左の手で交互に拳を突き上げながら誇らしげに登場し、そして世界一の指輪を受け取った。

世界一のリング

 ダイアとサファイアで埋め尽くされた土台に赤いルビーで「B」と浮かびあがったリングを目の当たりにしたロバーツには、感動がこみ上げてきた。一緒に戦い抜いた仲間やファンの前で「世界一」の証しを手にすると、「きょう、ここに来れて本当によかった」と言うのがやっとだった。鳴り止まぬ大きな拍手は、世界一への道をつないだあの「盗塁」へと向けられていた。

April 13, 2005 03:18 PM

2005年04月04日

第85幕 最も危険な男 松井秀喜

 4月3日(日本時間4日)、ヤンキース−レッドソックス伝統の一戦で今年のMLBが開幕した。目立ったのは松井秀喜の攻守にわたる活躍だった。2回表、レッドソックスのケビン・ミラーが放ったレフトへの「ホームラン」をジャンプ一番もぎ取るスーパープレーで、レッドソックスの攻撃の芽をつみとったかと思えば、打っては1号2ランを含む5打数3安打3打点と大暴れしてチームの勝利に大貢献した。

 この試合を中継していたボストンの地元局UPNのレッドソックス・ポストゲームショーでは、本来のレッドソックス関連の話題はそっちのけで、冒頭から「今年は松井のMVPの年だ」という入りで始まり、かなりの時間を松井に関する話に割いていた。試合後、レッドソックスのフランコナ監督も2回の松井の守備を「信じられない。試合の流れを変えたプレーだ」と評価した。

 開幕を2日後に控えた4月1日、そのフランコナ監督に開幕のヤンキース戦に関連する話を聞いた際、松井のことを持ち出すと、間髪入れず「今のMLBではベストヒッターの1人。うちとしては、執拗(しつよう)なくらいに彼をマークしなければならないだろうね」という答えが返ってきた。初戦に限って言えばそんなレッドソックスの執拗(しつよう)なマークも、松井には全く通用しなかったことになる。

 フランコナ監督は続けた。「僕は個人的に彼のプレーが好きだね。相手チームの選手だからあまり好きだとかいう表現はふさわしくないとは思うけど、それでも、個人的に好きなプレーヤーだね」。何度も「個人的に」と付け加えたのは、レッドソックスの監督であるという立場が言わせたものだが、その口調からは、松井のプレーに心底ほれているということがほとばしり出ていた。

 しかし、そこはライバルチームの監督。最後に「日本からメジャーに来て以来、松井はいいバッターという存在から、危険なバッターになってしまった。彼は常に成長しているね。これは僕たちにとって決して喜ばしいことではないんだが・・・」締めくくった。いきなり、レッドソックスの出ばなを折る活躍を見せた松井は、相手チームにとって「最も危険な男」に映っていたにちがいない。

April 4, 2005 03:16 PM