2006年03月30日

感謝の気持ちを忘れるな

~阪神島野2軍監督~

 ファームの指導者からいい話を聞いた。「感謝の気持ちを忘れるな」。阪神島野育夫2軍監督はファームの選手に浸透させていく方針だ。技術指導中心になりがちな昨今、精神面重視の指導に興味を持つ。島野2軍監督はタイガースに復帰した02年に、気持ちが切れかけていた今岡選手を精神面からバックアップして生き返らせた。

 試合前のアップの姿勢から声をかけた。「ちょっと気持ちが入ってないように見えるな。これからゲームに入っていくわけだから“よっしゃー、これから頑張るぞ”という姿を見せてほしい。しっかりやったら内転筋が強くなるし、オレも毎日付き合うからな」。1日も休まずアップを見続けて約束を守った。

 「今日はよかったで。あのくらいの気持ちでやってほしいな」。コミュニケーションも忘れてはいない。何日も何日も続けていくうちに「いい感じのアップが当たり前になってきた。これで大丈夫やと思った」と島野氏。試合の打席チャートを見ながらも、いろいろ話し合った。

 精神面のケア。当時の今岡には、これこそが必要だった。さらに大切にしているのが感謝の気持ちだ。

 「野球をやるには、いろいろな人に世話になる。監督であり、コーチであり、裏方さんなど数多くの人たちに支えられている。こういう人に感謝の気持ちは絶対忘れたらあかん」。コーチに就任した当初から、選手の相談にのってやれる兄貴的な存在だった。今は60歳を過ぎて、いいオヤジといったところか。

 島野氏の「感謝」の原点は数十年前にある。南海(現ソフトバック)時代のある日、親分(故鶴岡一人監督)に「おまえなあ、高校を卒業して田舎から出てくるとき、何か思い出があるやろう」と声を掛けられた。島野氏が「はい、駅まで見送りに来てくれたおふくろが“育夫、体に気をつけて頑張るんだよ”と声をかけてくれました」と答えると、「そんないい思い出があるんか。苦しい時はそれを思い出すんや。感謝の気持ちを忘れたらアカン。必ずいい結果が出るから」と教えてくれた。いい出会いと自分の体験から生まれた「感謝」である。練習や試合が無事に終わった後、道具に感謝を込めてバットやグラブ、スパイクを磨いていると、なぜか「おふくろ元気かなあ」と頭に浮かんできたという。

 「技術だけ教えていい結果が出るなら、これまでもっと、もっといっぱいいい選手が出てますよ」。選手のハートをつかむ指導に大いに期待したい。

March 30, 2006 10:00 PM

2006年03月24日

PLの同期今江に負けたくない

~阪神桜井広大~

 阪神の桜井広大外野手(22)がものすごく刺激を受けている。入団して5年目。まだ1軍の経験はない。PL学園の同期生、ロッテ今江敏晃内野手(22)が昨年大ブレーク、完全に先を越されてしまった。ライバルはペナントレースでは3割打者、日本シリーズでは8打席連続安打の記録を達成。今季はWBCの日本代表に選ばれている。

 楽天の朝井秀樹投手(22)と3人がPL学園からの同時入団。「やられましたねえ。完ペキに先を越されました。負けたくないです。いい刺激になっています」。一昨年はひじ、昨年は足を故障した。2年連続して満足なシーズンを送っていない。自分自身が腹立たしい。「野球のできない辛さを味わいました。調子が良くなるとけがをするんです。今年は故障しないよう意識してがんばります」。負けん気がむくむくと頭をもたげてきた。

 大きく育ってほしい選手だ。島野2軍監督の方針は「長距離打者として育てたい。浜中みたいになってほしい」。入団した年の秋季キャンプから翌年のオープン戦にはブレークしかけたが、今のチームの外野の一角に食い込むまでにはいたらなかった。島野2軍監督は「1軍の外野はしっかりしているので、昇格はなかなか難しいが、いいものを持っている。気持ちが切れないようにがんばってほしい」と精神面のサポートにも気を配っている。

 1、2軍が合流した安芸キャンプの紅白戦では、みごと左中間へホームランを放ってアピールしていた。3月に入ってからのファームの教育リーグでは4番に座っている。「自分の持ち味は長打力だと思っています。入団したころは遠くへ飛ばそうとかなり意識していましたが、今はホームランはヒットの延長だと思えるようになりました」。

 長距離打者には必ず穴がある。王(現ソフトバンク監督)、野村(現楽天監督)といった日本プロ野球1、2位のホームラン打者もそうだった。「何もかも打とうと思っても無理ですから。自分の打てる球を打ち損じないバッターになりたい」と桜井。課題の守りについては、島野2軍監督から「ノックで練習するのもいいが、バッティングの打球を追う方が実戦的」のアドバイスを受けて実行している。

 25日に5年目のウエスタンリーグが開幕する。「まずは打てるようになるのが先決です」。桜井はバッティングで勝負して1軍昇格を狙う。

March 24, 2006 12:30 PM

2006年03月17日

虎の穴の良き友になれ

~阪神前田大和内野手~

 プロレスアニメのヒーロー、タイガーマスクが、次々と挑戦してくる強敵を迎え撃つため、体を鍛え、技を磨く厳しい修行の場「虎の穴」にちなんで命名したのが阪神タイガースの若手が汗と泥にまみれる練習の場「タイガーデン」である。正式には鳴尾浜球場。ここからエース井川が生まれ、藤川が育った。打者では浜中が、関本が1軍に定着した。今年も将来有望な新人が入団したが、このタイガーデンと仲良くつき合わないことには将来はない。

 虎の穴に今年飛び込んできたのが前田大和内野手(18)だ。「タイガーマスクって知ってる?」とたずねてみると「聞いたことはありますが、よくは知りません」。ちょっと時代のズレがあったのかなあ。「プロレスアニメで、虎のマスクをかぶったヒーローで、タイガーマスクというレスラーがいて…」などなど説明してみたが、どうもピンとこないらしい。それでも、タイガーデン命名のいわれを説明すると目を輝かせていた。

 「合宿に行ってみて、野球をするための環境の素晴らしいのに驚きました。今までこんな恵まれた環境の中で練習をしたことはありませんし、本当に楽しみです。1人でも、いつでも練習はできるし、大いに利用していきたいですね」

 タイガーマスクは知らなくても、自分の立場がここまで分かっていれば十分。グラウンドと室内練習場は合宿所に隣接している。ウエートトレーニング場も寮内にある。自分を鍛えるための環境は抜群。名前もいいね。大和--。鹿児島の名門・樟南出身。176センチ、65キロ。九州男児にしてはやさ男だが、キャンプは高校出の新人によくある特別メニューの練習ではなく、他の選手と同じメニューをこなしている。高校出の選手が同じメニューを故障なしでクリアしたことは、体が強い証拠だ。

 「よく食べて、もう少し太りたいです」。食べて、鍛えて、もっともっと大きくなってほしい。大いに期待が持てるね。

 守備力は早くも認められている。足も速い。鳥谷がWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)代表と壮行試合で戦う全日本に選ばれた留守にオープン戦に出場。首脳陣の評価は高い。島野2軍監督は「線はまだ細いが、体は強い。守りは放っておいても大丈夫やろ。いい2番バッターに育てたい」という方針。

 12日の巨人戦で新人紹介のあとベンチでムードを味わった。「凄い雰囲気ですね。感激しました。1日でも早く1軍に上がりたいです」。厳しい修行が待ち受けている。虎の穴と良き友だちなれ。

March 17, 2006 08:11 AM

2006年03月10日

指導者の矛盾する使命

~コーチ編~

 ファーム指導者の心得には<1>全選手を平等に扱うこと<2>愛情を持って指導にあたる(ユニホームを着ている時は厳しく、プライベートでは親身に)<3>犠牲的精神を持つこと<4>基本プレーの反復は何度も何度も繰り返す。「言わなくても分かるやろ」とか「このぐらいのことはできるやろ」の考えは捨てること<5>選手は野球で感動を与えることで成長する<6>勝負は二の次-などがある。

 若手の成長に重点を置いたマニュアルだが、現実はもっと複雑で矛盾のある世界だ。前回の「選手編」で本音と建前に触れた。「平等」は建前で、本音は「1年に1人を一軍へ」だ。だが指導者はこれを絶対に見破られてはならない。選手がだれもついてこなくなる。中間管理職の辛いところだが、複雑なファーム首脳陣の立場が分かる。

 育成と調整の狭間にも立つ。ファームとはいえ、チームで最優先するのは一軍のペナントレース。ファームには一軍の予備軍が何人かいる。常にゲーム勘を養い、体調を整え、いつお呼びがかかっても即、出動できるように調整する。一軍予備軍と育成する若手の指導が同時進行している難しさがあるのだ。シーズン中調子を崩して二軍に落ちてきた選手の再調整もファームの仕事だ。立場の違う選手をいっしょに指導するのは、精神的にも体力的にもかなりの負担がかかる。

 それでいて、二軍というだけで軽く見られがち。一軍とは勝ち負けのプレッシャーが違うということだろうが、どうしてどうして。ファーム指導心得の<5>にある感動による成長といっても、勝たないことには感動はない。「それなら<6>の勝負は二の次とはなんだ」となる。これはあくまで特定のゲームについての心得だ。将来有望な若手投手に1試合任せる時や、若手を4番に起用して少々打てなくても最後まで使いつづける時のほかは、やはり勝ちにこだわる。勝つことで感動を味わい、勝負師の一番大きな財産である「自信」につなげる。

 こんな難しい状況の中で、1人でも多くの選手を一軍に送り出すことが要求されるのが、ファームの指導者だ。ファームを担当するのは「2度目」という島野育夫2軍監督に安芸キャンプで会った。一軍に勝るとも劣らないプレッシャーがかかっている。

March 10, 2006 11:32 AM

2006年03月03日

厳しいファームの実態

~選手編~

 OB会役員として、タイガース第2次キャンプ地の高知・安芸市へ陣中見舞いに訪れた。1、2軍が合流した直後の紅白戦。ファーム選手の目の色は変わっていた。1軍昇格をアピールする最高の場。喜田剛(26)、桜井広大(22)が持ち味を発揮したホームランを放った。新人・前田大和(18)が赤星の三遊間の打球を見事に処理して一塁で刺した。前評判通りの守備だ。今年も激しい争いが始まった。己を追い込まないことにはライバルに勝てない。厳しいファームの実態とは…。

 「選手の指導は平等に」。2軍監督、コーチの指導方針だが、そんな生やさしくはない。かつて、西鉄(現西武)を3年連続で日本一に導いた名監督、故三原脩さんがこんな話をしていた。「1年に1人、1軍に定着できる選手を送り込んでくれたら、10年後には凄いチームになります。ファームはそれでいいんですよ」と。私がタイガースのフロントに在籍していた当時、この話を持ちかけてみると、どのコーチも「その通り」と答えた。

 建前は「平等に扱う」だが、実は、個人を徹底的に鍛え育てるというのが本音なのだ。順調に成長していく選手、故障などで出遅れる選手、時間がたてばおのずと各選手の力量はわかる。ここが大きな分岐点だ。野球界には、出遅れた人を救ってくれるほどやさしさはない。練習の継続は可能だが、遅れを取り戻すための特別な指導などありえない。

さらに言えば、コーチのアドバイスがすべてプラスになるとは限らない。逆にマイナスになることもある。その教えが自分の技術にプラスになるとみて取り入れるか、マイナスとみて切り捨てるか、判断するのも自分だ。

 「プロ野球選手である前に、一社会人であれ」一般常識とあいさつ、特にあいさつの徹底は厳しい。体育会系はまだまだタテ社会。年齢差による上、下関係はうるさい。1日はあいさつで始まり、あいさつで終わる。ここが団体生活のよいところだが、毎年、9月の声を聞くと整理対象選手の名前が耳に入る。わずか2、3年でユニホームを脱ぐ選手もいる。実力の世界とはいえ、若くして去っていく選手の気持ちを察すると身につまされる。

March 3, 2006 10:52 AM