2006年09月08日

「W武田」の存在感:上野耕太郎

 日本ハムの「W武田」の存在感をあらためて思い知った。7日のソフトバンク戦だ。まずは武田勝だ。左手の骨折後、約2カ月ぶりの先発。中3日での登板は1勝1敗で迎えた2位ソフトバンクとの大一番だった。この日、昨年まで所属したシダックスの廃部が決まった。試合前の表情がいつもと違っていた。個人的にはチームでもっとも腰の低い選手だと思う。表情が柔らかく、失礼かもしれないがスーツ姿はサラリーマンにしか見えない。そんな男がこの日、少しだけ張りつめた空気を漂わせていた。

 7回途中でマウンドを降りたが、被安打4の1失点で4勝目を挙げた。ソフトバンク打線を完全にほんろうした。試合後のコメントに強い思いが込められていた。

 「自分の力で何もすることができない。一緒にやってきた仲間に勇気を与えたい」。

 この日の最速は135キロ。シュートとスライダー、そして落ちるチェンジアップで凡打の山を築く。どんな状況でも自分のスタイルは崩さない。直球で押してみたり、いい格好をしようという所は一切なかった。攻めるときは攻め、抜くときは抜く。

 薄っぺらい言葉だが「男だなぁ」と素直に頭が下がった。男気とかたくましくとか…、そういうのではない。みんなから腰が低すぎると言われようと、緊張しすぎと言われようと関係ない。自分らしく虚勢を張らず、淡々と仕事をやり遂げる。あるセ・リーグの監督がぶぜんとした表情でこう言った。「何であの球が打てないんだ」。その監督はかつて天才と言われた。プロ中のプロにも、そう見えてしまう投球。逆に武田勝のすごみを感じるエピソードだ。

 一方の武田久も輝いていた。2番手で登板し、打者5人で4奪三振。まったく付け入るすきを与えなかった。68年森安のシーズン67登板という記録にも並んだ。この2人は同じ年だ。普段も一緒にいることが多い。勝が「静」なら久は「動」という印象だ。武田久はどんな状況でも愚痴も弱音は絶対に吐かない。童顔だが、物おじせず堂々としている。

 今季のチームの好成績の要因に武田久の存在は欠かせない。彼も武田勝と同じにおいを持つ。謙虚で自分の仕事を全うしようとする。打たれても抑え込んでも試合後にほとんど、表情を変えない。気持ちの振り幅を小さくすることが調子の波を作らない。それが彼の持論だ。

 そんな2人を見ていると、気が付くことがある。怒鳴り散らしたり不機嫌になってみたり、過度に喜んでみたり-。喜怒哀楽を過剰に表すことは、自分を小さくしてしまう行為なのではないかと。胸に熱いものをしまい込みながら、淡々と1歩ずつ前に進むことが、どれほど大切かと思い知らされた日だった。

September 8, 2006 11:23 AM 投稿者:上野耕太郎

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