2007年05月31日

どん底から輝き取り戻した元中日遠藤:伊藤馨一

 リストラされたベテラン右腕が輝きを取り戻した。昨年、中日を自由契約となり合同トライアウトでヤクルトの目に止まって移籍した遠藤だ。プロ14年目の今季は開幕から1軍で登板。20日現在の成績は14試合に登板し、2勝1敗、防御率1・96。負けている時の中継ぎやロングリリーフからセットアッパーまで。場所を選ばない働きで、今ではヤクルト投手陣に欠かせない存在となっている。

 昨年はプロ入り後初めて1軍登板なしに終わった。そして日本ハムとの日本シリーズを1週間後にした時期に戦力外通告された。プロ通算294試合に登板して26勝を挙げた右腕は、紆余曲折を経てユニホームを着続けることはできたものの、年俸は昨年の推定2600万円から1300万円と半減した。だが、遠藤は言う。「野球をできていることがうれしいんです。やっていて楽しいです」。

 晴れて新天地でのスタートを切った遠藤だが、常に危機感を抱いていた。開幕1軍入りを果たしたが、当初の扱いは敗戦処理。これは結果が出なければ、即2軍落ちすることを意味している。「競争を勝ち残っていかないといけない立場でしたから。それは、どこに行っても一緒ですよ」と遠藤。1試合ずつ着実に結果を積み重ね、ヤクルトの中継ぎ陣の中でしっかりと自分の居場所を確保した。

 今年で35歳。プロ野球の投手では高齢といってもいい年齢になった。ゴールも見えてきている。もちろんそのことは遠藤も分かっているだろう。それでも「まだやりたいことはありますよ。それには、今頑張ること。そうじゃないと、何もできないから」と話した。どん底からはい上がってきた原動力には、足元を見つめつつも現状に満足することなく、その先を見据えているどん欲さがあった。

May 31, 2007 12:21 AM 投稿者:伊藤馨一

2007年05月14日

中盤戦、選手に2度目のムチ入れる時期:益田一弘

 ペナントレースが始まって1カ月半、30試合以上を消化した。開幕に向けて調整した選手の体調にもばらつきが出てくる時期だ。プロ野球は年間144試合。他のプロスポーツに比べて破格の試合数だ。プロ野球における年間のトレーニンググ法を、勝崎チーフトレーニングコーチに聞いた。

 まず大まかなコースが4種類ある。(1)レギュラーは、毎日試合に出場する選手のもので調整がメーン。 (2)1軍控えは、(1)よりも負荷をかけるが実力のある選手向け。(3)エレベーターは、1軍と2軍を行き来する選手たちのもの。(4)ファームは、基礎体力アップに重点を置く。

 (3)と(4)は基本的に2軍の塚本コーチが担当する。だが1軍選手でも、ルーキー浅尾らは強化指定選手として基礎体力アップが組み込まれている。

 時期による負荷の増減もある。2月のキャンプで力を蓄えて、3~5月上旬までを乗り切る。そして5月下旬にもう1度負荷をかけてコンディションをアップさせる。勝崎コーチは「今の時期は蓄えた力が少しずつ落ちること。それに日本の雨季にあたる6月は、選手の体調も乱れやすく、精神的にも調整が難しい。それに備える必要がある」。

 サッカーは2シーズン制だった名残り(05年から1シーズン制)から夏場に海外で1週間程度の走り込み合宿をして、力を蓄えるチームが多い。だが野球は、日程的にチーム全体が1週間も合宿できない。勝崎コーチは「ゲームを行いながら、コンディションを維持する。まとまった中断期間もない。他のスポーツとの大きく違います。特に中継ぎ投手は試合展開によって連投がある。調子が良くても悪くてもパフォーマンスを発揮しないといけない。消耗度によって日々細かいメニュー変更があるし、その日も投げることを念頭に置かないといけない」。

 トレーニングコーチは、これから2月のキャンプに続く2度目の“ムチ”を選手に入れる、勢いだけでは乗り切れない中盤戦。チームの総合力が問われる。

May 14, 2007 07:22 PM 投稿者:益田一弘

2007年05月05日

松坂の初球カーブに福留は:鈴木忠平

 ちょっと古い話になるが、4月12日のことだ。珍しく自然に目が覚めた。遠征先・大阪市内のホテル。アラームをセットした午前8時より5分早くベッドから出てテレビの電源を入れた。画面に映し出されたのは米ボストン・フェンウェイパーク-。そう、早起きの理由はレッドソックス松坂とマリナーズ・イチローの初対決だった。

 アメリカのファンは松坂の登場を総立ちで迎えた。イチローが打席に入った。眠気は吹き飛び、昨夜から続いていた興奮はピークを迎えた。初球に何を投げるのか? 興味はこの1点に集中していた。ただ次の瞬間、その熱は急速に冷めていくことになる。

 初球、カーブ-。

 イチローは見逃した。結局、投ゴロに倒れたのだが、記者はこの初球以外はほとんど覚えていない。実は個人的に松坂はストレートを投げると思っていた。ボール球にする。変化球を投げる。事前にいろいろな報道があったが、すべてはポーズで、本番ではイチローとの暗黙の了解で真っ向勝負を挑む-。そんなロマンを描き期待していた。それだけに力が抜けた。

 午後3時30分、脱力感を抱えたまま甲子園にいた。阪神戦に備えて中日の選手たちが練習を始めていた。福留がいた。WBCで松坂やイチローと戦友だった男はあの初球をどう思っているのか。聞きたかった。

 「松坂対イチローは見たの?」
 「見るわけないじゃないか。だってオレは(連戦で)疲れているんだよ(笑)」。
 「初球がカーブだったんだけど…」。
 笑っていた福留が、ここから語気を強めた。
 「いいじゃないか! 何を投げたって! それ(ストレートを要求すること)は打者のエゴだよ!」。

 ハッとした。「打者のエゴ」という言葉はそのまま「記者のエゴ」に聞こえた。選手はみんな生活をかけて戦っている。福留が阪神戦に備えて睡眠をとっていたように-。投手は打者を抑えなければグラウンドから去らなければならない。生き残るか、去るか。そんな戦場に観る側のロマンチシズムを強いるのは間違いなくエゴだ。

 あの初球をめぐって論争は絶えない。ただ今は思う。怪物松坂がロマンの入り込む余裕もないほど勝敗に必死だった。そう考えるとあの126キロのカーブが妙にすごみを増してくる。

May 5, 2007 06:05 PM 投稿者:鈴木忠平