2007年01月30日

ルーキー堂上直の初練習に見た「本物」:鈴木忠平

 堂上直は1人だった。1月9日、高校生ドラフト1巡目の「大物ルーキー」はプロとして第1歩を踏み出す入寮日を迎えた。そしてその日のうちに隣接する屋内練習場へ向かった。たった1人で-。

 中では選手が数人、連れ立って自主トレを行っていた。その先輩たちにあいさつを済ませると、堂上直はウオーミングアップを始めた。腕をまわしながらジョギング。徐々に速度を上げていく。体が温まってきたところでストレッチを入れる…。この間、いくつもの目が注がれていた。先輩選手たちが、30人を超える報道陣が、値踏みするように見ていた。

 だが、無数の視線をまるで感じていないかのように堂上直は黙々と自分のペースで動き続けた。目はまっすぐ前を見つめている。アップが終わるといきなりマシン打撃を行った。初めての施設にも遠慮なくスイッチを入れ、納得いくまで打った。約1時間30分の練習を終えると「たくさん人がいるのは気になりません。かえってやる気になるくらいです」と笑って見せた。

 プロならば当たり前かもしれない。ただ、取材経験から言って最初から1人で練習を始めるルーキーは多くはない。1人でいる人。1人でいられる人は尊敬に値すると思う。経験がないだろうか? 不安な時、人間は仲間を探す。他人と一緒にいることで、同じ行動をとることで、安心感を得るのだ。

 堂上直にとって愛工大名電の先輩であるマリナーズ・イチローはオリックス時代、だれもいない深夜の屋内練習場で練習したという。やるか、やられるかの競争に身を置くプロは、一匹狼がよく似合う。1軍で長く活躍している選手はみな1人の時間を大切にしている。「大物ルーキー」と言われて入団してきた18歳。たった1人の初練習にうわさにたがわぬホンモノを感じた。

January 30, 2007 04:53 PM 投稿者:鈴木忠平

2007年01月22日

戦力外選手の活躍、若手に刺激も…:伊藤馨一

 仲沢、田上(ソフトバンク)に、鉄平(=土谷、楽天)。彼らの名前を聞いて複雑な思いを抱くファンもいるだろう。4、5年で中日を戦力外となり、新天地で花開いた若手たちだ。鉄平にいたっては、レギュラーを獲得して規定打席に到達、3割をマークするほどブレーク。楽天の中心選手にのし上がった。傍目から見れば、皮肉な現象…。だが、中日でチャンスに恵まれていなかった選手に変化をもたらしていたという。

 ある関係者はこう証言する。「アイツらが活躍したから、若い選手は練習するようになった。夜にマシンを打つ選手も増えた。ウチの選手もようやく、プロの選手らしくなったということなのかなあ…」。つまりはこうだ。中日では出番がなかった選手が他球団で活躍したことによって、自分も他の球団にいけば活躍できるかもしれない、という思いから、腐ることなく自分のために練習をするようになったというのだ。

 固定メンバーが落合中日の特徴だ。昨年、野手8ポジションのうち、7人が規定打席に到達した。レギュラー以外の選手は、ほとんど出番がなかったということになる。それは今年も同じ。すでに落合監督は新加入の李炳圭のポジション次第だが、残っているのはセンターかレフトの1つだけだということを示唆している。さらに渡辺、英智、小田らのスーパーサブも充実しているだけに、若手には厳しい状況は続くだろう。

 「ウチでは出番がなくても、他に行けば試合に出られる選手もいるだろ?」。落合監督の口癖。数多くの選手が中日のユニホームを脱いでいる。そのうちの何人かは他球団で現役を続けているのもまた事実だ。戦力外となった選手が、他球団で活躍し続けていることで、図らずもオレ竜の層の厚さと個々の能力の高さは証明された。選手の意識も変わってきた。だが、どこか割り切れない思いも残っていることもまた事実だ。

January 22, 2007 03:55 PM 投稿者:伊藤馨一

2007年01月14日

山本昌、懐かしくも寂しい母校自主トレ:鈴木忠平

 41歳のベテランはグラウンドに出てくると、まるで少年に戻ったような笑顔を浮かべた。「やっぱりここに来るといいね…」。記者の仕事始めとなった1月4日。母校・日大藤沢高で自主トレを行った山本昌を取材した。

 「ブルペンの左から2番目はエースの場所なんだ。うちの伝統だね。オレもあそこで投げたなあ…」。「外野はいつも日陰になっているから冬は1日中霜が降りているんだ。ぐちゃぐちゃの中をよく走ったなあ」。今から23年前、同校のエースだった左腕はタイムスリップしているかのように遠い目をして、うれしそうに話し続けた。

 その横を頭を五厘刈りにした高校球児たちが気合いをいれながら駆け抜けていく。それを見て山本昌はまた話し出す。「あいつら元気だな~。でもオレたちも外野までうさぎ飛びしたよ。もう暗くなってて先輩に見えないから途中で前転してごまかしたりしたなあ」。笑顔はさらに緩んだ。

 だが、そんな中ふと寂しそうな表情でつぶやいた言葉が印象的だった。「プロアマ規定がなくなればいいのに…。僕たちだってここに来ること。あいつらを見ることですごいやる気になるんだよ」。母校は昨秋関東大会で4強入り。同校OBの実弟秀明さん(36)が監督になって以来初の甲子園となる今春センバツ出場が濃厚となっている。現規定では、プロ野球選手は届け出れば母校のグラウンドで高校生と練習できるが、あからさまな指導はできないことになっている。山本昌はこの日、自主規制して秀明さんとも後輩たちとも言葉を交わさなかった。

 プロ野球で23年間も生き抜いてきた猛者でさえ、母校に戻ることで純粋な気持ちを取り戻す。夢を追う球児を見ることでモチベーションを与えられる。球児はプロから夢をもらい、プロは母校と後輩から戦場へ向かうエネルギーをもらう。それを隔てる「壁」に不粋を感じざるを得なかった。

January 14, 2007 05:49 PM 投稿者:鈴木忠平

2007年01月05日

森野“ドタバタ劇”にもサービス精神で:益田一弘

 あらららら。新年早々、いやーな予感が当たってしまった。1月2日、愛知県知多郡のショッピングセンターで、森野のトークショーが行われた。ファン800人が集まったイベントの最後はジャンケン大会。森野とあいこを出した人にサイン色紙がプレゼントされた。子どもたちは大はしゃぎだったが、運営側の人数が10人前後で足りない。

 この種のイベントでジャンケン大会をすると、誰が何を出したのか、1人1人の確認をすることは難しい。案の定、あいこでなかった人たちも次々と森野の近くに集まって、行列を作り始めた。こうなればもうプレゼントを渡さなければ、事態の収拾がつかない。

 その光景を見てある場面を思い出した。格闘技担当時代に取材した大晦日の格闘技イベント。試合の合間にアントニオ猪木がリングイン。恒例の闘魂ビンタをファンにお見舞いする余興。最初は司会者が挙手したファンを選んだが、そのうちサービス精神旺盛な猪木が自分で指名し始めた。

 「じゃあお前。次は君」というような矢継ぎ早のアバウトな指名。1度に複数のファンが自分だと思い込んでリングへ。年末のイベント観戦でアルコールの入ったファンもいる。そのうち混乱に乗じて指名されてない人たちも群がった。

 100人以上がリングに上がるパニック状態。試合を終えたばかりの藤田和之が「会長、会長」と叫びながら、猪木の盾になる。アクシデントを引き起こした張本人はコーナーポストに追い込まれながら、入魂のビンタを連打。無理やり抱きついてくるファンには投げ→ストンピングもお見舞いする大ハッスルぶり。約20分で事態は収拾したが、一歩間違えれば元日付けの新聞が「猪木で大暴動!」になるところだった。

 猪木ほどではなかったが、森野もちょっとしたどたばた劇に巻き込まれた。それでも控室で追加のサイン色紙20枚を書いて事態を収めた。「しょうがないですよね。もらえなかったファンに申し訳ないし」とペンを走らせた森野。嫌な顔ひとつしないその姿に感心させられた。

January 5, 2007 11:22 AM 投稿者:益田一弘