浅岡真一 独断流

2006年05月05日

小説「ある元総帥の哀しみ、慨嘆」

阪神の統合問題

 一体、何をやっているんだ!、チェック体制が出来てないのか、管理が甘過ぎるじゃないか!

 彼には憤り、怒り、哀しみが五体に駆けずり回っていた。

 昨年9月末、M&Aコンサルティング(村上ファンド)の阪神電鉄株の買い占めが明るみに出た直後、元総帥は、落胆の思いを隠せなかった。もう現役を退いた身、ほとんどの会社がそうだが、経営には口を挟まないが、特に阪神はその伝統が根付いている。

 しかし、よほど腹わたが煮えくりかえったのだろう、一度、総務の責任者に「何でいままで気付かなかったんだ」と怒りをぶつけてしまった。

 自身がトップだった20数年間、管理体制は万全だったという自負がある。また幹事証券会社以外の幹部ともたまにコンタクトを取るなどしてあらゆる情報を得るなど、異常な自社株の売買には目を光らせてきた。だからこんな“失態”が起きることは考えられなかった。

 発覚した時点では全体の25%超だったが、彼は今後も買いが進むことを予知していた。その予想通り、村上ファンドは攻勢に攻勢を続け、現在は45%超にまで達してしまった。

 実は昨年、阪神電鉄は創業100年を迎えた。トップを退いたとはいえ、相談役としての肩書きを持つ、現役最古参。60年以上も勤務した生き字引として百年史(社員、及び関係者に配布)の編纂の中心的役割を果たすべく週に2、3度は野田にある本社に出向き、時には細かい部分にも筆を加えていた。

 いわば“最後のご奉公”であったが、その仕事をしながら苦々しい思いは去ることはなかった。村上ファンドとはファンド(基金)の日本語訳が適切なように資金を各方面から集め、それを基本的には株券の取得に運用、大株主として当該企業に提案したり、取得額より高値で売り抜け、その利ざやを資金提供者に配当してきている。果たして、次の一手は…やはり長年の経営者的思考は拭えることはできなかった。

 そして迎えた2日、阪神電鉄は村上ファンドから届いた提案書を公表した。既に一般紙、スポーツ紙に大々的に取り上げられているが、その骨子は村上世彰氏を含め取締役の過半数を村上ファンド関係者で占めることを要求したこと。経営支配をさせてもらうという要求だった。

 4月に入り、阪神間のライバルだった阪急電鉄(阪急ホールディングス)が株の買却に名乗りを挙げ、経営統合を表明した。今回の村上氏側の提案にも、統合への意欲を示すコメントを出したが、売買価格には差があり、今後の推移は予断できない。

 そんな嵐が吹き抜ける中、85歳の元総帥は体調を崩した。高齢ならば、あり得ることだが、果たしてそれはすべて“身”だけであったのかどうか。心の空洞も一因ではなかったのだろうか。

 ※これはあくまでフィクションです。次回に続編を綴らせてもらいます。

May 5, 2006 11:07 AM

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コメント

拝啓、浅岡 真一 殿
今ロスアンゼル土曜日午前10:30分、ヤフーサイトで日本の記事を経由して、何となく迷い込み貴殿のサイトに出逢いました。 これ興味あります。 軽快な描き出しで無理な状況描写なしで直ぐ環境が理解でき引き込まれます。小生は東京生まれですが、阪急ブレーブスが優勝した年にニューヨークに転勤仕事で出逢つた阪急関連の先輩から記念のライター(丸マンのガスライター、多分と未だ東京の書斎机の引き出しに温存)
当時、米国では日本の経済進出に伴い、阪神、近鉄、阪急、等、関西系の企業に従事する人々が多く、同じ日本人でも少し異なる感性や情緒をもつ地域からの人々と最初の出会いを体験いたしました。 今、考えると当時接した米国人達よりユニークな印象を受けたようです。 東京で生まれ育た者として京女の話方以外、関西弁は何故か喧しく下卑たサウンドで聞き難いと云う勝手な偏見で育つた為でしょう、でも最近は阪神、阪神タイガースの中に人々が生かし続ける日本人本来のもつ庶民の村組織的な土着魂を時代の一過的趨勢で破壊しないで欲しいと願う一日本人であります。 続編を楽しみに待ちます。有難うございます。敬具
nazuma4@earthlink.net

投稿者 東 伸行 : 2006年05月07日 03:49

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