2006年12月01日
言葉を大切に、国学大竹田監督
この秋、27季ぶりに1部に昇格した国学大が東都大学リーグで旋風を巻き起こした。
通算成績は8勝6敗1引き分けで3位。8勝のうち5勝が逆転勝ちで、なかでも青学大1回戦は9回に2点を入れてサヨナラ勝ち。2回戦は8回に3点、9回に1点を入れて引き分けに持ち込んだ。また、5勝を2点差以下の僅差でものにしている。連敗は1度だけ。2死からの得点も多く、ここぞの場面で出る連打が光った。この勝負強さに亜大の生田勉監督(40)は「しぶとい…」と舌を巻いていた。
チームを指揮する竹田利秋監督(65)。東北を甲子園8強に導くこと6回、仙台育英では1989年夏に宮城県勢初の準優勝。27年間で27回の甲子園出場を果たし、宮城の野球を全国区にした名将だ。
試合後、取材に応じる竹田監督は他大の監督とは雰囲気が少し違う。言葉を選びながらじっくりと話すのだ。「言葉は相手を動かすために心に入っていくようにしなければいけない。だからすごく大事にしている」。それは、選手の前でも変わらない。例えば、竹田監督はよく下級生たちに「嶋がいるうちに色々なことを学んでおけ」と言っていた。嶋とは、楽天入りする正捕手・嶋基宏(4年=中京大中京)のことで人間的にも技術的にも“理想の捕手”として信頼を置いていた主将だ。私は「嶋選手をお手本にして吸収してほしいということですね」と確認したが…。
「いや、お手本ではない。言っていることは同じなんだけどお手本という言葉では感覚が違ってしまうんだよね」。つまり、お手本と聞いた嶋はそれを意識して自然体で無くなってしまうという。もう1つは、お手本だと真似をするだけで学ばない子もいる点。
竹田監督のミーティングの最後は、クエスチョン形式で終わるという。「いつも“~だろうか?”という感じで答えを言わないんです。“え?結局何が言いたかったんだろう?”と理解できない子もいます。でも、それは僕たちを考えさせるためにわざとやっているんだと上級生になってわかったんです」(嶋)。
「高校野球なんか特に“はい・いいえ”の会話が多いでしょう。自ら決断しようとしないんです。簡単に答えを求めようとしている」。だから、例えば故障した選手に対して「A病院へ行ってこい」という一方通行な指示は出さない。仮に通って治らなかった場合、選手は「監督の指示に従っただけ」と陰で言い訳という逃げ道をつくるからだ。まずは、行くかどうかを確認し、病院を選ばせる。治らなかったときは次にどうすればいいか考えさせる。
「人間、失敗したときや上手くいかないときにどうするかです。逆境での強さが大切。試合も同じです。私は試合中にサインを出すことは少ないほうだと思います」。確かに、嶋がベンチに座る監督の顔を確認する回数は少なかった。それは、嶋本人も実感しているようだ。
「ボールではなく、ベンチの監督と対話しながら打席に入るチームもあった。1球1球見ている選手もいるんです。苦しいときも自分で考えなきゃ勝てないです」。
10月5日に行われた亜大2回戦。負ければ青学大の独走を許すことになる大事な試合だった。先発には、全試合に中継ぎ登板していた相原佳人(4年=長泉)を起用した。
「気持ちが強いんです。落ち込まない子だから」との理由で抜てき。「自分がやるしかないと思った。最初からリリーフの気持ちで投げた」という相原は渾身の126球で2失点完投勝利。「竹田監督のおかげで僕なんかがリーグ戦でも投げられるようになりました」。
高校時代は無名の存在だった相原。この秋の活躍で社会人チームで野球を続けられることになった。
◆竹田利秋(たけだ・としあき)1941年(昭16)1月5日生まれ。和歌山県出身。和歌山工-国学大。68年から95年まで東北、仙台育英で監督を務め佐々木主浩、斎藤隆(ドジャース)らを育てる。96年に当時2部だった母校の監督に就任し、渡辺俊介(ロッテ)や矢野謙次(巨人)をはじめ、一昨年からは3年連続でプロ野球選手を輩出している。
◆嶋基宏(しま・もとひろ)1984年(昭59)12月13日生まれ。愛知県出身。中京大中京では二塁手としてセンバツに出場。同期に深町亮介(中京大-巨人)。大学入学後、捕手にコンバートされ2年春からリーグ戦に出場するようになる。今秋はベストナインを獲得。「プロはどこでもいい。何巡目でもいい」と話し、3巡目指名で楽天入りを決めた。179センチ、82キロ、右投げ右打ち。
◆相原佳人(あいはら・よしひと)1984年(昭59)4月14日生まれ。静岡県出身。長泉では夏の静岡大会2回戦が最高。大学では1年時からベンチ入り、中継ぎ、抑えを中心に登板。大学通算(1部)6勝3敗。右横手から最速142キロのストレート、カーブ、スライダー、ツーシームを投げる。178センチ、70キロ。右投げ右打ち。
December 1, 2006 01:54 PM
コメント
矢島さんはじめまして。
自分は学部が違って接点こそありませんでしたが、嶋選手と同期の國學院大学生です。
なんか、今でも自分と同じ大学に通っている人が来年プロ野球選手になるんだというのが信じられない気持ちです。野球観戦は少年時代から大好きでしたが、運動音痴の自分にとって、プロ野球という世界はテレビの中、球場のフェンスを隔てた先に光り輝いているという感じで、ここまで身近になるとは思ってもみませんでしたから。
竹田監督に関しても、あの大魔神こと佐々木投手を高校時代指導していたという名監督がうちの大学の指揮を取っていると聞いて、最初は「まじ?嘘だろ?」と思いました。でも、同じ大学にいながらやっぱり雲の上、別の世界の人という感じで、大学生活では僕がスタンドで応援したとき以外で野球部の選手を見る機会はほとんどありませんでした。だから矢島さんの今回の記事は非常に興味を持って読ませてもらいました。うちの大学の野球部はこんな感じだったんだーって。
矢島さんは僕と同世代の大学生でありながらそういう僕にとってのスーパースターといえる方々を積極的に取材されていらっしゃるようで、正直うらましいなというか、尊敬しています。これからも影ながら応援しておりますので、がんばってくださいね。
投稿者 Hill'z : 2006年12月01日 23:42
Hill'zさん
竹田監督は落ちついたなかに貫禄もありました!
「学生たちにとって、硬式野球部が身近な存在になってほしい」
とも仰っていて、例えばグラウンドをもっと見学しやすい作りにしたいなど。キャンパス内にグラウンドがある好条件をもっと活用したいと考えていました。
ぜひ学内で未来のスーパースターを見つけてお話を聞いてみてください。
投稿者 矢島 : 2006年12月02日 17:29
はじめまして!
私は創設以来の楽天ファンです。今回のドラフトで楽天入りが決まった国学大の嶋捕手や東洋大の永井投手、青学の横川選手が即戦力としてプロでやっていけるのかなど、矢島さんの目その辺のことを教えてください。お願いします。
投稿者 rakutenfan : 2006年12月09日 19:00
教育の延長線上にある高校野球にこそ
多感な時期の高校生に対して、こういう考えさせる監督がもっと現れて欲しいです。
投稿者 WKJ : 2006年12月12日 17:40
rakutenfanさん
バッテリーはとても賢いと思います。
嶋選手は田中大輔捕手(東洋大-中日)とは違ったリードで永井投手のいいところを引き出してくれるはずです。
横川選手は一発が魅力で将来的には主軸に座ってもらいたいです。即戦力としてすぐに結果が出るかはわかりませんが
下級生時代から出場し、他大の好投手たちと対決してきたという“経験”をいかしてほしいです。
楽天ファンの方々もぜひ温かく見守ってあげてください!
WKJさん
私も同じように思います。高校野球の世界でこそ、竹田監督のような監督さんが必要ですよね。
投稿者 矢島 : 2006年12月13日 21:26
こんばんは。
ともすれば、
「野球というスポーツに対する、世間一般のイメージ」、
には、竹田監督が仰っている「はい・いいえに支配される会話」や、嶋捕手が指摘している「サイン漬けチーム」等のネガティブな印象が、少なからずあると思うのですが、
> 例えば故障した選手に対して「A病院へ行ってこい」という一方通行な指示は出さない。仮に通って治らなかった場合、選手は「監督の指示に従っただけ」と陰で言い訳という逃げ道をつくるからだ。まずは、行くかどうかを確認し、病院を選ばせる。治らなかったときは次にどうすればいいか考えさせる。
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こちらの例一つを見ただけでも、竹田監督が率いる國學院野球はそれらの価値観とは一線を画するものだということがわかりますし、これは野球に限らず、一般社会で
「単に生きる」
のではなく、
「活きていく」
ための重要なヒントにもなる、と感じました。
「こういう野球が、確かに存在する」
このことを、もっと多くの方に知って頂きたいものですね。
追伸
実は私イーグルスのファンなのですが、こちらの記事を拝見して、
「ボールと対話をする、嶋捕手のプレイ」
ますます見たくなりました。
今から春が、楽しみです。
投稿者 Eff : 2006年12月14日 19:20
Effさん
本当にその通りだと思います。
野球人としての成長以上に、人間を磨ける場所こそが国学院大野球部なのかもしれません。
そのような野球部は全国にどれだけあるでしょうかね。
私も選手のプレーだけでなく、人間性にも目を配って野球を見ていきたいと思いました。
Effさんが嶋選手を生で観戦された際には、ぜひ感想を教えてくださいね!
投稿者 矢島 : 2006年12月15日 14:02
初めまして。先日このブログを見て、竹田監督のお話を興味深く拝見しました。本当に言葉によっては、選手を生かすのも殺すのも簡単だと言うことを感じさせられました。様々な場面でもいえるのかもしれませんね…。それよりもこういう人が野球界に存在していて結果を残していて、ずーっと昔から指導していられる方なんだろうけど、今の野球界に最も足りない人材であり発想なのではないかと感じます(特に少年野球…)。
時々、このブログを見ますから、いろいろな人を取り上げてくださいね。楽しみにしていますから!
投稿者 masa : 2006年12月24日 22:20
masaさん
技術だけを教える指導者はたくさんいますし、自分の知っていることを教えるのですから簡単です。
しかし、竹田監督のような人間育成もしっかりされる指導者は少ないでしょう。
私も竹田監督とお話をさせていただき、言葉一つの重みを知りとても勉強になりました。
投稿者 矢島 : 2007年01月01日 19:28
はじめまして。国学院大野球部監督竹田氏について先日お会いしてお話をうかがうことができました。すごい経験を持っているのにの関わらず、いばったところ、自慢するところが全くない。私の質問にも丁寧に答えてくれました。選手との壁は全くないんでしょうね。話の中で監督の仕事とは「大きな木を育てること。特に根っこを育てること。根っことは目に見えない部分で物事の考え方、取り組む姿勢など。根っこが育てば太い幹が出来上がり、大きな木になる。監督の仕事は木が育つための水やりみたいなもの」と話されていたのが特に印象的でした。
投稿者 yamu : 2007年01月07日 00:13
yamuさん
竹田監督と直接お話をされたのですね。
どんな人に対しても、一方通行なお話はされませんよね。
“目に見えない部分”は私とのお話の中でも何度も出てきました。
ここが一番大事なのに、見ようとしない人が多いとも仰っていました。
木、幹、根っこという言葉は他の指導者からも聞かれますが「監督の仕事は“水やり”」とは初耳です。
でも、水がなければ木は育ちませんから大切ですよね。
水をどこまで吸収できるかは選手次第ということでしょうか。
素敵なお話を教えていただきありがとうございます!
投稿者 矢島 : 2007年01月09日 19:10
