記者コラム「見た 聞いた 思った」

鳥谷越直子

2006年12月28日

佑ちゃんに聞きたい

 年末年始になると今年1年、活躍した選手のスペシャルインタビューが多くなる。デスクからは当然のように「早実・斎藤佑樹のインタビュー記事」を要求される。こちらも斎藤の「今」を取材したいのだが、早実からの返事は「NO」。「テレビ、新聞など多くのメディアから取材が殺到していて、すべて受けられないためスポーツ雑誌を除いて断っている状態」だという。

 残念でならない。この夏、社会現象を巻き起こし、日本流行語大賞にもノミネートされた「ハンカチ王子」。10月の国体でもフィーバーが冷めなかったことを思うと、いまだに興味を持っている読者は多いはずだ。個別対応が難しいなら共同取材でもいいだろう。

 斎藤自身にとってもプラスになるとは思えない。マスコミの習性として、隠されると知りたくなり、逃げられると追いたくなる。本人の姿や声がないことで、写真週刊誌に追い回される弊害も生まれている。

 来春、進学予定の早大では取材日を設けるなど、斎藤対策に今から頭を悩ませている。だが、テレビ、新聞、ラジオなど20数社による「囲み取材」で、斎藤は果たして本音を話すのだろうか。早大関係者は「競争の激化を避けるため1社によるスクープをさせない」としている。

 取材規制には断固反対だ。斎藤のプライバシーの保護も大事だろうし、日ごろの練習や東京6大学リーグの運営をスムーズに進めることも早大にとっては重要だろう。だが、それらを重視するあまり、国民の関心に十分に応えようとしない姿勢に危機感を覚える。第2、第3のハンカチ王子が現れた時、必ずそれが前例となるからだ。

 取材規制が横行するスポーツ界を想像すると、ただ単に記者泣かせなだけでなく、読者にとっても、大いなる喪失が生まれる。個人情報保護法の施行により、高額納税者の公示制度が廃止されたり、事故犠牲者の名前が公表されなかったりと、報道の自由が少しずつ浸食される危険な世の中になりつつある中、「たかがスポーツ選手の報道」と軽んじて眺めていていいのだろうか。

 斎藤は現在、来春の東京6大学リーグを目指して自主トレ中という。厳戒な取材包囲網が敷かれており、一部雑誌を除いて接触できない状態が続いている。もちろんアマチュアの選手だから、ファンサービスの義務はない。だが、マスコミ各社に不満がたまってきていることを学校関係者は理解すべきだ。それほど我々は非常識ではないし、斎藤のことも学校のことも十分に配慮する。もっとスポーツマスコミを信用してほしい。

 選手の本音や苦労話、泥臭いライバル心や時には身内のエピソードなどを織り込めない表面的なスポーツ報道は味気ない。選手と1対1、あるいは複数の記者で囲んでもリラックスした時にそんな話題は出るものだ。その話を聞き、読者に届けるために記者がいるといっても過言ではない。緊張したコメントと試合内容だけの詰まらない斎藤の原稿を、私は書きたくない。

December 28, 2006 01:41 PM

2006年12月18日

突き放さない指導法

 06年の世相を表す「今年の漢字」に「命」が選ばれたという。そんな折、衝撃的な告白を聞いた。「最近、電車に飛び込みたくなることがある。いろいろ考え過ぎてしまって。自分でも怖くて電車が来るまでホームに出られないんだよ」。いつにない深刻な表情を浮かべたのは、松坂らを育てた横浜高・渡辺元智監督(62)だった。

 悩みの種は「いじめ」。といっても、同部でいじめが起こっているわけではない。世間を騒がせている陰湿ないじめが、部内で行われているのではないか、今なくてもいつ起こるか分からない不安が常にあるのだという。同校の小倉清一郎部長(62)も「毎日『問題を起こすな』という話ばかりしていて、野球にならない」と嘆く。

 言わずと知れた高校球界屈指の指導者だ。その2人がここまで神経をとがらせている背景にはここ数年急増している高校球界の「不祥事の増加」がある。夏の甲子園優勝、準優勝校の不祥事が2年連続で明るみに出ては、対岸の火事と傍観してはいられない。しかも主な不祥事の内容は部内暴力、飲酒、学内窃盗…。どこの高校でも起こり得る事案ばかりだ。

 横浜は1980年(昭和55年)の暴力事件以来26年間、不祥事を起こしていない。愛甲投手(元ロッテ)で80年夏に優勝したころは教育的な鉄拳も辞さないスパルタ指導。今は選手との対話重視に様変わりした。

 渡辺監督は73年春、80年夏、98年春夏、06年春の4つの年代で甲子園優勝を経験している。高度成長期からバブル崩壊、そして失われた10年と激動の時代だった。野球部員も世相を映すようにタイプが異なり、それに合わせて指導法も工夫してきた。

 最近はいじめ報道に触発され、「いじめはないか? 何でも言ってこい」と、オープンな姿勢で部員に接しているという。プレー中に選手の元気がなかったり、孤立していたりすると、すぐに声を掛け、自宅に招いて夕食をともにすることもある。保護者ともチーム状態を小まめに説明するなど密なコミュニケーションを図っている。

 学校、教師に対する信頼は今や過去に例をみない低落ぶりだ。いじめを見て見ないふりをしたり、わいせつホームページを作成する教師がここまで続くと「個」の問題では片付けられない。氷山の一角なのでは、という見方のほうがむしろ主流だろう。

 そんな社会状況の中だからこそ、渡辺監督の言葉が胸に響いたのかもしれない。「どんなに悪いやつでも何とかしてやろうと真剣に彼らの中に入っていくと、良いところがある。どうでもいいと突き放したらそこで終わってしまう。一番大切なのは信頼関係なんだ」。それはグラウンドも教室も一緒だ。今こそ、心から親身になれる、しかも熱いハートを持つ指導者が教育現場に求められている。

December 18, 2006 12:49 PM

2006年12月08日

球界の底辺拡大急務

 まだデビュー前のジャニーズJr.が、あの日本武道館でコンサートを開くという。チケットも順調にさばけているというから驚きだ。トシちゃん、マッチ、少年隊、SMAP、TOKIO、V6、嵐、KAT-TUN…。よくもまあ次々とトップアイドルを世に送り出すものだ。ジャニーズ恐るべし、である。

 さて、本題の野球の話。松坂、井川と日本球界の看板選手が大リーグと移籍交渉を進め、ファンの関心もまた海の向こうへ移りつつある。かつての「夢」が身近になり、日本の野球レベルの底上げに期待感がある一方、日本プロ野球の弱体化を危ぶむ声が高まっている。

 大物選手の海外流出が避けられなくなったここ数年、日本球界では「底辺拡大」のキーワードがクローズアップされている。

 今年5月に亡くなった前日本野球連盟会長の山本英一郎氏(享年87)はコーチのライセンス制を提唱していた。サッカーのように細分化した年代層に見合った指導者を養成、連盟に登録することで、一定の指導者水準を確保するのが狙いだ。

 山本氏が描いた青写真は日本代表監督を頂点とする「ピラミッド構想」。代表監督が招へいしたプロのコーチ陣が小、中、高、大学、U-25と各年代の日本代表を指導、育成プログラムを一本化するという案だ。「アメリカやキューバは一貫した指導方針があるから強い。日本も思い切った構造改革をしないと取り残される」と力説していた。

 組織が細かく分かれ、歴史もバラバラな日本球界の構造改革は一筋縄ではいかない。だが「底辺拡大が急務」という共通認識のもと、各組織が1歩1歩動き始めている。

 日本高野連は2年前から、中体連と連携を図り、資金面、技術面で中学の指導者育成を支援している。ここ数年の統計をみると、中学で約30万人を数える球児は、高校に入ると約15万人に半減する。中学時代に適切な指導を受けさせ、野球の真の魅力と正しい技術を身に付けさせることで、野球人口減少を食い止めようというものだ。

 巨人が今年4月に開校した子供向けの「ジャイアンツアカデミー」も注目されている。5歳から小学校6年生まで330人を対象に体づくりから基本技術、野球知識を独自の年齢別マニュアルに従い指導している。ジュニアからの一貫指導は、サッカークラブでは一般的だが日本のプロ球団としては初となる画期的な試みだ。巨人前スカウト部長の末次利光校長は「野球を通して子供たちの健全育成と野球界のすそ野の拡大が目的」と話す。併せて指導者育成も進めるという。

 大リーグへの選手流出、サッカー人気、子供の趣味の多様化などで日本のプロ球界は新たな局面を迎えている。ON人気にけん引され、黙っていてもスター選手が育ち、テレビの視聴率を稼げる時代は終わった。アマ世代から組織的かつ明確なビジョンを持ってスターを育てていく時代かもしれない。ジャニーズのような原石開拓と売り出しのノウハウが必要な気がするのは、私だけだろうか。

December 8, 2006 12:39 PM

2006年11月28日

ドラフト「原点」戻れ

 X大学監督「わざわざ遠い所まで、どうもどうも」。

 Yスカウト「いいですね、Z選手。順位は確約できませんが、ドラフトでは指名させていただきます」。

 X監督「そうですか。ただ、ほかにも複数球団から調査書がきてましてね」。

 Yスカウト「まあお聞きください。うちの球団はホームグラウンド、合宿所、ファーム施設、育成プランなどが他球団よりだいぶ充実していまして」。

 X監督「んで?」

 Yスカウト「んで? と申しますと…。ああ、条件ですね。内々の話ですが、契約金○○、年俸○○を用意しています」。

 X監督「んで?」

 Yスカウト「ああ、それから、うちだけを『逆指名』していただければ、監督には○○をお支払い致します」。

   ◇  ◇

 21日の大学・社会人ドラフト当日の明け方、こんな夢を見た。もちろん、そんな場面に遭遇したこともなければ、具体例を聞いたこともない。が、監督やスカウトの表情が妙にリアルで身震いした。

 昨年から2年間、暫定導入された分離ドラフトでは希望枠(自由獲得枠は2人)が1人に減った。球団が確実に獲得できる選手は1人だけ、という制度だ。ところが、最近のドラフトは、下位指名選手まで球団の思惑通りに獲得できるケースが少なくない。

 3巡目(大学・社会人2人目)以降は下位球団から指名するウエーバー方式。各球団とも運に身を任せる格好だが、内実は舞台裏の駆け引きが結果を導いている。希望枠と同様に事実上の「逆指名」がある。

 ここ数年、3巡目以降の指名が濃厚な選手が「○○以外なら社会人に行きます」「○○以外ならチームに残留します」などとドラフト前に意思表示するケースが目立つ。意中の球団以外に指名を見送るようプレッシャーを掛けている。

 2年前。一場(楽天)の金銭授受問題でオーナー3人が辞任し、裏金を一切禁止するためにドラフト制度を改正した。だが、現状は何も変わってない。あるスカウトは「希望枠」の概念が全選手に浸透していると指摘。「希望枠をなくし、完全ウエーバーにならない限り、裏金はなくならない」と制度の問題点を強調する。

 豊富な資金にモノを言わせて「企業努力」するチームだけが次々に理想の補強を果たしている。球界発展に戦力均衡は欠かせないという考え方がドラフトの出発点のはず。だが、現状は球界全体の利益に逆行していると言わざるを得ない。

 イチロー(マリナーズ)や清原(オリックス)も希望外の球団からスタートした。幼少からファンだった球団もあるだろう。本拠地の魅力やスカウトの熱意に引かれることもあるだろう。だが、プロで成功するかしないかは本人次第。どの球団でもチャンスに大差はない。

 暫定導入を終えたドラフト制度は、来年以降へ向けて再改正の話し合いが始まる。プロもアマも原点に立ち返り、球界全体の利益を最優先すべきだ。「大リーグ至上」の流れが強まる中、その危機感が人気回復のカギを握ると思う。

November 28, 2006 12:09 PM

2006年11月18日

ファンあっての野球

 欽ちゃんが時代を読み取ったのか、時代が欽ちゃんを求めたのか。新庄が日本ハムを変えたように、欽ちゃんは社会人球界を変えた。

 12日、茨城ゴールデンゴールズ萩本欽一監督(65)プロデュースの「つくばゴールデンチャレンジ」が、全日程を終了した。全国のクラブチームと14試合を行い、観客は3万5000人を動員。2年前までクラブチームの試合は関係者数十人しかスタンドにいなかったことを思うと、シンジラレナ~イ現象である。

 2年前の冬。四谷の飲食店で萩本氏と初めて会った。「どぉも、萩本です」と愛嬌(あいきょう)たっぷりにあいさつすると、自らが立ち上げる野球チームの構想を熱く語り出した。「試合中にマイクを使ってプレー解説や選手紹介したり、選手名にスポンサー名と両親の名前を付けてジュゲムジュゲムみたいに長い登録名にしたいの…」。聞いた瞬間、不可能だと思った。

 ところが1年目から次々と実現させ、話題をさらった。とりわけ地域密着の姿勢はファン獲得につながった。今年7月の廃部騒動の際、存続を求める署名が3日で約5万件も集まったのは、その証しだ。行政も巻き込んで地域振興の核にチームの位置付けを上げた。

 驚くのは自身の報酬がゼロという点だ。愛する野球界のてこ入れがいかに純粋な気持ちかが分かる。いわばライフワーク。スポンサーが現在6社付いているが、すべて球団の運営経費に充てている。

 「だって野球がなくなったら寂しいじゃない。野球を盛り上げるにはお客さんの熱い気持ちが一番大切なの。その思いに選手が応える。最初からメジャーリーグを目指すといったらあきらめる子もいるけど、欽ちゃんのところなら楽しそうって、興味持つ子が増えればいいなと思っている。底辺が広がらないとダメだよ」。

 「欽ちゃんショー」だけではファンが離れると読み、チーム強化にも本腰を入れた。「試合が選手を育てる」と、日本野球連盟に公式戦拡大を直談判。それを受けて、今年から同連盟が「つくばゴールデンチャレンジ」の後援に踏み切ったのは、異例のことだった。毎試合後、欽ちゃんがファン1人1人に名前入りのサインをする姿を見て、これぞ「ファンあっての野球」の原点と感じた。

 「芸能界も野球界もお客さんが育ててくれるの。だから見に来てくれた人には何かオマケをつけてあげたいんだよね」(欽ちゃん)「(派手なパフォーマンスに批判の声もあったが)その1人の声を気にするのか、10万人のあったかい言葉を聞くのかって言ったら10万人。オレが怒られたらいい。ファンはみんな喜んでくれた。オレの勝ちなんですよ」(新庄)。かつて長嶋監督がオーバーなスローイングやリップサービスでファンを楽しませたように、2人に共通するサービス精神がファンの心をつかんでいる。邪道かもしれない“エンターテインメント野球”。だが、少なくとも、ふだん球場に足を運ばない人たちに野球の面白さを伝えることができたのなら、大きな功績だと思う。

November 18, 2006 01:56 PM

2006年11月08日

佑ちゃんの4年後楽しみ

 ♪さよならは別れの言葉じゃなくて♪

 10歳の息子が25年前に大ヒットした「セーラー服と機関銃」を口ずさんでいた。先月始まったテレビのリメーク版で覚えたようだ。

 ♪再び合うまでの遠い約束♪ と続けると、「何で知ってるの?」と驚いた様子。私、全部歌えるんですけど…。

 映画「セーラー服と機関銃」がはやった当時、中学2年だった私の周りの女子はみんな「カ・イ・カ・ン」を物まねし、男子の多くは主演の薬師丸ひろ子ファンだった。薬師丸は優等生発言で好感度アップ。人気絶頂期に一時休業して大学進学を選択、周囲を驚かせた。

 「優等生発言」「大学進学」と言えば、「ハンカチ王子」こと早実の斎藤佑樹投手である。大ヒット映画から四半世紀がたち、時代が再び「清純派アイドル」を求めたのだろうか-。

 球史に残る甲子園での決勝再試合を制した斎藤は、ふだん野球を見ないOLや主婦層にまで強烈な印象を焼き付けた。テレビ各局が生中継した進路表明会見では、ヤクルト、横浜など複数球団からドラフト1巡目指名を示唆されながらも、大学進学を希望した。あるスカウトはいまだに「あの子ならすぐ通用する。あれだけ人気が出たのに地味な大学野球で埋もれるのは惜しい」と言う。

 たぐいまれな人気と実力を備えた斎藤に、大学野球関係者も大いに注目している。10月28日からの東京6大学リーグ最終週の早慶戦で、「斎藤が始球式」を行うプランが水面下で現実味を帯びていた。甲子園と国体で2冠を獲得した斎藤の「神宮お披露目」の企画だった。担当校の早大の推薦が条件だったが、早大OBの多くがこれを望まず、実現しなかった。

 「伝統の早慶戦で、高校生が大学生を空振りさせるのはいかがなものか」「これから大学生活が始まるのに、1人だけ特別扱いしたらかわいそう」という意見が多かった。斎藤ファンには残念な結果となったが、やはり上下関係を無視した「特別扱い」はしこりを残す。大学球界の雄、早大に進学すれば、昔ほどではないにせよ体育会の上下関係の中で厳しさを味わうだろう。プロと違いマスコミへの露出もそう多くないから世のフィーバーも沈静化するはずだ。「何でも着々」の斎藤のこと、その間に技術を磨き、パワーとスピードをつけて4年後に再びブレイクする、とみる。

 先日、明大OBの阪神星野SDが、ある集まりであいさつした。「来年は斎藤君が早大に入るから、神宮にもお客さんが増えるだろう。でもおばちゃんばっかりでしょう。もっと力と力の勝負でお客さんを沸かせる6大学になってほしい」。

 斎藤にとって、大学4年間は「アイドル」から脱皮するいいチャンスだ。端正な顔立ちや「ハンカチ」がクローズアップされがちだが、その名を挙げたのは紛れもなく投手としての実力のはず。薬師丸ひろ子は大学4年間で大人の女優へイメージチェンジした。斎藤はどんな顔でプロの門をたたくか、今から楽しみだ。

November 8, 2006 10:43 AM