記者コラム「見た 聞いた 思った」

高木一成

2005年12月29日

来年さらなる衝撃を

 有馬記念が終わった。

 今年1年の競馬人気を引っ張ってきた3冠馬ディープインパクトは2着に敗れた。1着流しの馬券を大量に持っていたので、もちろん応援はしていたが、仕事だし頭は冷静な部分もある。ゴール手前では「ああ、これは届かないな」と覚悟した。スタートから約2分30秒でボーナスの一部がパー。その事実を忘れたいこともあり、すぐに検量室に取材に行こうと気持ちを切り替えたが、ゴール後のシーンには何か違和感を感じた。

 違和感の正体が分かったのは、原稿を書き終わって、秋のG1シーズンの予想企画に参加してもらっていた矢部美穂さんと話したときだ。「よく、ゴール前で外れたファンが馬券とか新聞を放り投げるじゃないですか。それが全然なかったですね。なんかシーンとしてましたよ」。それを聞いてなるほど、と思った。

 スタートのファンファーレが鳴ったときの、ファンの手拍子は、さすがに有馬記念史上3位の16万2409人が入っていると思わせる迫力だった。だが、ゴール後は歓声にせよ、怒号にせよ、いつもの喧騒(けんそう)はなかった。「あれ、先頭で通り過ぎたのディープじゃなかったよね?」「ゴールはどこ? もう終わっちゃったの?」。負けた事実が把握できず(したくなく?)、どう反応していいか戸惑ったファンが多かったのではないだろうか。

 “静けさ”が違和感の正体だった。自分の競馬経験の中でも、そんなシーンは初めて。それほど多くの人に「間違いなく勝つ馬」と思わせ、「ぜひ見たい」と競馬場に足を運ばせたのだから、インパクトが、どれだけ多くの人に競馬に目を向けさせたかは想像に難くない。

 今回の敗戦により、マスコミやファンが先行気味に期待していた世界での活躍はしばらくお預けになった。とりあえずは来春の天皇賞で、あらためて日本最強の座を目指すことになる。年間を通して世界で戦ってほしかった気もするが、今回インパクト人気の影響で新たに興味を持ったファンが、競馬そのものの面白さに気付いて定着してもらう時間ができたという意味では良かった部分もある。そう信じたい。

 レース後、有馬記念を観戦した岡部幸雄元騎手にちょっとだけ話を聞けた。「1度負けて気が楽になった部分もあるから」というフレーズが印象的だった。コンビを組み、無敗で3冠馬になったシンボリルドルフは、今回のディープインパクトと同じ3歳のときにも有馬記念を制しているが、菊花賞後のジャパンCで3着に敗れた後だった。有馬記念の結果で“衝撃”の印象度が薄れたファンは多いかもしれない。だが、無敗のプレッシャーから解放されたインパクトは、来年またさらに大きな“衝撃”を引っ提げて帰ってくるはず。1度の敗戦で興味を失うファンが出ないことを願う。

 競馬界の05年は、間違いなくディープインパクトの年だった。競馬人気復興の下地を作ってくれた功績は大きい。06年はインパクト1頭だけでなく、そのライバル、次世代のクラシック争いなど、競馬そのものが、もっと注目される年になってほしい。

December 29, 2005 03:23 PM

2005年12月19日

本音聞けてこそプロ

 「やっぱり誰もがそう思うんだ」と感じたことがあった。14日に衆院国土交通委員会で行われた耐震強度偽装問題に関しての証人喚問。姉歯氏に対してトップバッターで質問に立った自民党・渡辺議員の話が「長すぎる」との抗議が自民党本部に殺到したと、16日付の本紙社会面の記事にあった。

 喚問が行われていた時間は、中央競馬の調教時間で私は取材中だった。じっくり見る時間はなかったが、美浦トレセンの調教スタンドで足を止めて、ちょっとだけテレビに注目した。画面は姉歯氏の表情を大きく映し出しているのに、声は議員のものばかり。「何で、もっと姉歯にしゃべらせないんだ」「自分の意見はしゃべらなくていいから、核心をポンポン聞いていけばいいんだよ」。一緒に見ていた調教師からも、こんな意見が出ていた。僕自身も同じ感想を持った1人だ。

 と、タイムリーな話題で前振りしてみたが、別に難しく議員の批判をしたいわけではない。記者の仕事の1つは相手から話を聞き出すこと。「人から本心を聞き出すのは、簡単なようで難しい」。常々、そう考えている立場からすると、この議員の話もあながち批判対象とばかりもしていられないと思う節もある。

 ここからはまったく別次元の話だが、競馬の取材でも悪い話ほど聞きづらいのは、普段から痛感している。例えば馬の調子がひと息のときなど、誰も彼もが本当のことばかりしゃべってくれるわけではない。記事になってしまえば読者には分からないだろうが、見出しになるような景気のいいコメントでさえ、人によってはスラスラ話してくれないこともたくさんある。

 こっちである程度の道筋を用意しておいて「こうこう、こうですよね?」と、いろいろ調べた上で同意を求めるように聞いた方がいい人、「中間の調整はどうでした?」と一から聞いた方がスラスラ答えてくれる人など、調教師、騎手によってタイプは違う。相手によって、質問の仕方を変えられるのが記者としてプロなのだろうが、なかなかこれが難しい。

 自分の勉強不足で「もっと調べてから取材に来い」と言われたこともあるし、逆に勝手に答えを決め付けたような質問をして「じゃあ、そう書いておけば」と突き放されたこともある。個人的に思うのは、質問=取材のうまい下手は、話を広げられるかどうか。逆に、取材をしていて「この人は頭がいいな」と思わせるのは、こっちの話題に対してプラスアルファの答えが返ってくる人だったりする。いかにしゃべってもらうか、いや、自然と言葉を引き出せるかは、永遠のテーマにも感じる。

 さて、1週間後にはいよいよ有馬記念が行われる。「ディープインパクトに勝てますか?」。競馬ファンなら誰もが聞きたいこの質問に、各陣営がどう答えるか(もちろん直接そうは聞けないが)。「負かせる手応えはある」「いや、かなわない」。陣営によってさまざまなとらえ方はあるだろうが、少しでも本音の答えを引き出したい。結果はどうあれ、これで偽証罪に問われることはないのだから。

December 19, 2005 11:19 AM

2005年12月09日

野球にもアイドル登場!?

 いよいよ今年もあと20日余りになった。競馬記者としては、まだ大一番の有馬記念(25日)が控えているのだが、地元の同級生など口実がないと滅多に集まらない人もいる。先週あたりから何度かプチ忘年会を消化し始めた。

 「○○ってかわいいよね」。基本的には男同士の飲み会。昔から酒が進むと、誰かがこういう話題を始めたものだ。自分はそういうのは秘密主義なので黙って聞いているのだが、何年たっても話題のパターンが変わらないやつは変わらない。ただ、ちょっと違うのは、昔だったら○○はアイドルとか歌手に限られていたのが、最近は○○にスポーツ選手を当てはめる人が多くなってきたということだ。

 トリノ五輪を目指すフィギュアスケートの安藤美姫とか、モーグルの上村愛子など、確かに世間から注目を集められるルックスをしている。同競技内で「いや、おれは○○派だ」という対抗馬も多い。専門外の雑誌でも女子選手の特集が組まれることがあるし、テレビのバラエティー番組で見かける頻度も増えている。単に美人というだけで取り上げられるのなら本人も本意じゃないし、純粋な競技ファンの批判もあるだろうが、実力もすごいだけに文句はつけられない。

 ゴルフ、マラソン、バレーボール、スケートなど、女子の方が圧倒的に人気が高い競技は、ルックスだけでなく、世界トップに近いと思わせる逸材が多いからだろう。米女子ツアーの最終予選会をぶっちぎりで優勝した女子ゴルフの宮里藍が、いい例だ。見られることできれいになるのは女性の特徴だと思うが、もしかしたら注目されることでの伸びしろも、女子選手の方が多いのではないか。そう思わされるぐらい、今の女性アスリートの躍進はすごい。

 そう思いながら注目しているのが女子野球の動向。先日行われた愛知大学野球連盟の総会で、中京女子大学(愛知県大府市)の加盟が認められた。学生野球史上初めて、女子だけのチームが男子リーグに挑戦することになる。また、尚美学園大学(埼玉県川越市)は、来春から女子硬式野球部を設立。各大学に大学スポーツとしての女子硬式野球の振興を呼び掛けていく。

 同学園に総監督で迎えられた広瀬哲朗氏(44=現女子硬式野球日本代表監督、元日本ハムファイターズ)は、前部署の販売局にいたときにイベントでお会いした縁があり、今ではG1レースの前に時々話題を流している(と、いっても大して役には立ってないけど)。長年女子硬式野球を見てきた同氏によれば「男相手となると全日本もレベル的には、まだリトルリーグぐらい。硬式野球で争うのは正直大変だと思う。ただ、これを機に女子だけのリーグができるぐらい競技人口が増えていってくれれば」という。

 10年も20年も前に女子ゴルフがこんなに人気になると思っていた人は少ないはず。最近のプロ野球界は元気がない印象だが、10年後には急激に発展しているかもしれない女子プロ野球リーグにファンを奪われてないだろうか。心配と楽しみは半々。野球に限らず男子スポーツの巻き返しを願いつつも、いろんな分野で女子アイドル選手が登場するのも、また楽しみでもある。

December 9, 2005 12:20 PM

2005年11月29日

海外G1馬券購入を

 「百聞は一見にしかず」というのは有名なことわざだが、その先はあまり知られていない。「百見は一考にしかず」、そして「百考は一行にしかず」と続くのだと、高校時代に物理の先生が雑談で話していたのを思い出した。100回聞くよりも1回見た方がよく理解できる。それも、100回漠然と見るよりも、見たことについてきちんと考えるかで、大きな違いが出る。さらに頭で考えるだけでなく、実際に行動してみないとダメだということ。

 入社してレース部に配属されたてのころ、先輩記者に「少額でも馬券を買ってレースを見た方がいいよ」と教えられた。その方がレースを集中して見るからだ。少なくとも自分が買った馬がどんな競馬をしたかを注意して見ることが勉強になるし、馬券でうれしい(痛い)思いをしたことが、次の予想につながっていく。すぐに「買いすぎだよ」と言われるようになってしまったのは置いといて、まぁこれも競馬版「百聞は…」の一例だろう。

 が、買って覚えようとしても、それができないレースがある。それが昨日、東京競馬場で行われたジャパンCだ。世界から強豪が集まり、1着賞金は一般の人にもなじみが深いと思われるダービーや、有馬記念より高い2億5000万円。国際的な評価も、有馬記念を勝つよりJCを勝つ方が高いといわれる。国際化の進む中央競馬において、位置付けは年々高くなっているが、馬券を買う側に回ると手を出しづらい。

 その理由はくしくも目玉である外国馬の存在。出走馬がどんな馬かは、当然資料で調べるが、生でレースを見ていないだけにイメージはわきづらい。これが純粋に高いレベルのプレーを楽しんだりすればいいサッカー、野球など、他の競技なら「○○の秘密兵器」とか「○○の隠し玉」とかはファンの心を躍らせる存在になる。だけど、自分のお金をかける対象となると話は別。予想と実際の結果は別として、日本馬同士のG1より自信を持って推奨するのは難しい。

 そこで思うのが、海外の主要レースだけでも日本で馬券が買えるようにならないか、ということ。香港では、自国の英雄サイレントウィットネスが参戦したスプリンターズSの放送権を買い取って馬券を買えるようにした(オッズはJRAとは連動せず独自のもの)。米国でも一部G1では同様のケースがある。逆のことをやった場合、日本のファンがどれだけ反応を示すかは分からないが、少なくともJCに馬券を買ったことのある馬が来ることは多くなる。それが多少なりとも購買意欲に影響してもおかしくない。

 趣旨は変わるが、もうひとつ海外G1を買えるようにしてほしい理由は、今年無敗の3冠達成で社会的にも話題になったディープインパクト。来年はおそらく海外のビッグレースに挑戦することになる。もし世界最高峰といわれるフランスの凱旋門賞などに出走したとしたら、換金目的でなくとも、応援の意味で、少額でも単勝馬券を買いたい人は多いはず。早いうちにそういうシステムができれば、ファンへのサービスにもなると思うのだが。

November 29, 2005 10:04 AM

2005年11月19日

英語 習うより慣れろ

 「いやー、学生のときにちゃんとやっておくべきだった」。こう思うことは1つや2つじゃないが、英会話に関しては本当にそう思う。

 女子ゴルフの宮里藍は、15日にタイガー・ウッズとテレビマッチで対戦したとき、直接英語で話し掛けてアドバイスをもらったと聞いた。これだけ世界で活躍する選手が増えると、他国語でコミュニケーションを取っているシーンは珍しくない。だが、実際自分に置き換えるとなかなかできないこと。それだけに素直にすごいなと思わされる。

 ここ数年、欧米の競馬がオフシーズンになる今の時期は外国人騎手が続々日本に乗り込んで来る。プロ野球、Jリーグなどもそうだが競馬でも外国人は助っ人として重宝される。昨秋のG1を3連勝したゼンノロブロイとコンビを組んだフランス人のペリエ騎手のように、有力馬を任されるケースも多い。当然、取材の機会は多くなるが、情けないことに本人より先に通訳の人を探してしまう自分がいる。正確を期すためというのは逃げ道で、やっぱり英語へのコンプレックスは相当なものだと、自分でも感じるところだ。

 今春の皐月賞前のこと。02年から04年まで3年連続で皐月賞連対中だったイタリア人のデムーロ騎手に、今年の騎乗馬についてインタビューした。調教の合間に厩舎で話を聞いたが、運悪くそばに通訳の人がいない。意を決して話そうと思っても、昔あれほど詰め込んだはずの英語は出てこない。遠慮がちに「短い時間でいいので話を聞かせて?」と丁寧に前振りしようとしたのが失敗の始まりだった。どう英訳したかは忘れたが、出てきたのは「short time」という単語だけ。「show time」と聞こえたらしく、「これからオレは何を見せられるんだ?」とけげんそうな目をされたことがあった。その後は、馬の成績欄を見ながら、一応話はつながったが…。

 何人もの外国人騎手の通訳をしてきた川上雪恵さんに話すと「いきなりキチッとした文章でしゃべろうとするから難しくなる。まずは単語で意味だけ伝えられれば十分」とアドバイスされた。「文法から入る日本の学校の教え方の弊害ですかね?」などと言い訳してみたが、結局は自分の努力と経験の不足が原因なのは分かっている。

 外国人騎手が短期免許で来日を始めてから10年以上たった。川上さんは「以前に比べると、若い調教師や助手さんを中心に、直接英語でコミュニケーションを取れる人が格段に増えた。調教の指示などは私が間に入らないでも、直接のやりとりでできてしまうことも多い」と言う。意欲次第では、自分も英語上達のチャンスのある環境にいるということ。「『英会話学校なんて行く必要ない。タダで英語を教えてくれる先生が側にいるんだから』って言っている調教師もいますよ。若手の騎手とか記者さんとかも、あいてる時間があったらもっと話し掛ければいいのに」というのは、まさに目からうろこの発想だった。狭い世界と言われるトレセンでも、世間と同様英語の必要性は増えている。もちろん勝つ馬の情報を仕入れるのが本道だが、この流れに遅れず英語に少しでも慣れることも大切だな、と思う。

November 19, 2005 12:00 PM

2005年11月09日

10万が感動 松永の一礼

 スポーツに記録はつきものだが、今年は本当に久々の出来事が多い。プロ野球では千葉ロッテが31年ぶりの日本一に輝き、メジャーリーグではホワイトソックスが88年ぶりにワールドシリーズを制覇した。そういえば、巨人がドラフト入団を拒否されたのは25年ぶりだとか。そして競馬では、ディープインパクトが21年ぶりに無敗の3冠馬になった。

 だが、○年ぶりってことなら、先日、東京競馬場で行われた天皇賞はもっと大変な1日だった。天皇、皇后両陛下が観戦に来られたのだが、皇太子時代は別として、天皇の競馬観戦は1899年5月の明治天皇以来。実に106年ぶりのことだった。もともとはJRA創立50周年にあたる昨年観戦される予定だったが、直前に新潟県中越地震が発生したため延期となった経緯がある。2年越しのビッグイベントに、馬主、調教師のなかにも「陛下の前で馬を走らせられるなんて光栄なことはめったにない」と気合の入っている人も多かった。

 僕個人としては当日までは「天覧」と聞いても、ピンとくるものがなかった。「そういえば、長嶋茂雄が天覧試合でサヨナラホームランを打ったのが、子供のころテレビで話に出ていたな」ぐらいの感覚。だがレース後のワンシーンで、やっぱりすごいことだったんだと思わされた。

 勝者の松永幹夫騎手(38)とヘヴンリーロマンスは、ウイニングラン後、両陛下が観戦されたメモリアルスタンドの貴賓室正面で立ち止まった。そして、向きを直したジョッキーがヘルメットを脱いで馬上から深々と一礼。レース後で興奮状態にあるはずの馬も、誇らしげに堂々と立っていた。それは、それまで天覧競馬に特別な意識を持ってなかった自分にとっても感動的な光景だった。一瞬、厳かな雰囲気に包まれた後、10万人を超えるファンも惜しみない拍手を送っていた。各人の思想、また馬券の損得を抜きにして、みんなが独特の雰囲気に感じるものがあったのだと思う。受け入れ態勢を整えた東京競馬場の船一郎場長(55)は「あのシーンに収束される。ずっと続けてきた日々の苦労が報われた感じがした」と振り返る。

 この日、JRAでは、もっとも客が入るダービー時以上に、警備スタッフの人員を配置した。前日には警察とともに、排水溝や天井裏など普段何もしないところにも、入念なチェックを入れた。同競馬場の皆川亨安全対策課長(41)は「こういうご時世ですから、万が一のテロの気苦労とかもあった。レースが終わって陛下の車が門を出たときには、そばについていたスタッフはみんな脱力したようです」と話す。数カ月前から緊張が続く状態だったのは想像に難くない。当然、そう度々行えるものではなく、100年たっても「天覧競馬」が計画されることはないかもしれない。そう考えると、あの日の光景を生で見れたのは、いい経験だったと思えてくる。

 それにしても…。最後は俗な話になるが、馬券は惨敗。女系天皇容認の動きが出てきたときに、単勝で18頭中14番人気の牝馬が優勝するとは…。競馬は世相を反映するとは、よく言ったものだ。

November 9, 2005 11:49 AM

2005年10月30日

謙虚が見えた上村騎手

 目が悪くなってだいぶたつ。毎日仕事でパソコンの画面を長時間見続けているだけではないだろうが、学生のころは1・0はあった視力が、ここ数年は両目とも0・2。それでも車の運転以外はメガネはしないし、コンタクトもしたことがない。「大丈夫なの?」とよく聞かれるが、馬の調教とかレースは双眼鏡で見るし、特に困ると感じることはない。たまに間違って知らない人にあいさつしちゃうぐらいか。1度、徹夜でマージャンして、そのまま午前中の健康診断を受けたら0・4に上がったことがあったが、あれは何だったのだろう? それ1回だけでまた0・2に戻ったので、いまだに謎だ。

 1年ぐらい前に大学時代の先輩が、レーザー治療ですごい視力が良くなったと聞いた。「どうせならそれで治すか」とも考えたが、その費用を馬券でもうけて工面しようと考えたのが失敗。まず、貯(た)まらない。もっとも、人がコンタクトをつけるのを見ても怖いと思うぐらいで、本音はどっかに目の手術への恐怖があるからためらってるだけなんだけど。

 30日の天皇賞にアドマイヤグルーヴで参戦する上村洋行騎手(32)は昨年、その大事な目を4回も手術した。いや、せざるを得なかった。実は2年前の12月、一緒に食事をする機会があったときに「最近右目がやばいんですよ。よく見えなくて。でも(競馬に)乗せてもらえなくなるとまずいんで、周りには言わないでくださいね」と聞いていた。本格的な検査の結果、「黄斑膜(おうはんまく)角膜炎」という原因不明の病気だと判明。右目の視界はすりガラスを通して見るように白く濁っていたという。ごまかしながらの騎乗は限界がある。「人に迷惑を掛けることになったらまずい」。翌1月には戦線を離れ手術に踏み切った。

 だが、とても珍しい症例で、すぐには思うような成果は出なかった。「騎手に戻りたい」という強い意志で手術を繰り返したが、3回目の手術を終えても視力は回復しない。「騎手をやめたくないと思う一方で、別の仕事を考えざるを得なかった。学歴があればな、と本気で思った。でも結局ほかにできる仕事は浮かばなかった」と悩みに悩んだ。

 結局、術式を変えた4回目の手術で何とか視力を取り戻すことができた。昨秋に戦列復帰。再び乗れることが何よりうれしかった。92年のデビュー年に新人賞受賞と華々しいスタートを切った上村騎手だが、手術前の数年の成績はひと息。「こんなはずじゃない、とくすぶっていた。前は余計なプライドが邪魔をして謙虚になれなかった」と振り返る。だが、今は違う。熱心に厩舎を回る姿などが、関係者の信頼を回復していった。今年は乗りクラも増え、勝ち星につながっている。「自分をリセットするいいきっかけになった」。今でも右目の視力は元の2・0には程遠い。それでも、手術の不安を乗り越え、病気を克服したことで違うものが見えてきたということか。同じ年でもある上村騎手が、この先どんな騎乗を見せるか、個人的に注目している。

October 30, 2005 12:29 PM

2005年10月20日

感じよう名馬の魅力

 「あの強い馬どうしてますか?」。

 先日、競馬にはほとんど興味のない大学時代の後輩と飲んだときに聞かれた。1年ちょっと前に会ったときは「あの弱い馬どうしてますか?」だったのを覚えている。

 前者は、今週末23日に京都競馬場で行われる菊花賞で3冠制覇を狙うディープインパクトで、後者は高知競馬で連戦連敗でも頑張る姿が話題となったハルウララ。競馬サークルの関係者は別として、ほんのちょっと前まで世間一般の人にとって一番有名だった馬は、「強い馬が勝つ」という競馬の本質とはちょっと外れたところにいる馬だった、ように思う。

 だけど今回は違う。デビュー以来無敗で皐月賞、ダービーを制覇したインパクトの強さが、広く一般にまで注目を集めている。電車の中づり広告を見ると、今週発売の週刊誌の見出しに名を連ねているし、レース後はNHKで特集も組まれる。「社会現象」というのがどこまで当たっているかは分からないが、社会面のコラムで話題になってもいいぐらいの認知度はすでにあると思う。以前、1頭の人気に頼りっぱなしの盛り上げ方では「ディープこけたら皆こけた」で終わってしまうのではないか、と書いた。だが、もうそれで押してもいいのかなとも思いだした。何しろ競馬に興味を持ってくれる人が増えてくれればいい。

 ちょっと弱気に聞こえるかもしれないが、昨年11月からこのコラム班に入って感じたのは、競馬ってこっちが思っているほど、ポピュラーではないのかなということ。テーマ設定や、個人の技量のせいかもしれないが、競馬ネタのときは悲しいぐらい反響がない。禁煙についてだとか、カジノに行っただとか、個人的なことを書いた方がはるかに反応がある。前回、マージャンのことを書いたときは「ぜひウチのジャン荘に遊びにきてください」というメールまでいただいたぐらいだ。

 そういえば、昨年の年度代表馬ゼンノロブロイが今夏の英国G1に出走した時は、地上波でのテレビ中継なし。日本馬で史上初の米国G1制覇となったアメリカンオークスも同様だった。ほかの(個人的には)マイナーと思われるスポーツも、世界的な試合は少なくとも深夜では放送がある。そう考えると、競馬の露出はとても少ない。「好きな人だけ見ればいい」はあまりに視野が狭い考え。多くの人が見てくれて、その上で本当に興味を持った人が続けて競馬ファンになっていくというのが理想だろう。

 話は変わるが、サッカーを始めたばかりの小学生時代、初めてテレビでブラジル代表の試合を見たとき「こいつらはすごいなー」と思った記憶がある。技術的にどこがうまいとかは分析できなかったし、点差が開いているから強いと評価したのでもない。どことなく漂う本物の雰囲気を感じたのだと思う。もしかしたら、今回のディープインパクトを見れば、これまで競馬に触れてこなかった人もそういう雰囲気を感じ取れるんじゃないか。

 競馬を知らない人も魅了させてしまう名馬。そんな可能性を感じるからこそ、今年の菊花賞はぜひ、皆さんに見てもらいたい。

October 20, 2005 11:59 AM

2005年10月10日

マージャンは潤滑油

 新宿に、よく行く雀荘がある。そして土曜日に顔を出すと、必ず見掛ける4人組がいる。年のころは70~80代。早朝に店に集合し、終電の時間になると、また来週末の席の予約をして帰っていく。「勝った」「負けた」で各人の機嫌はさまざまだが、4人ともゲーム中の表情はいつも生き生きしている。本当にこの時間を楽しみにしているんだなーと感じる。

 前に1度、こっちの卓の仲間が興奮し、奇声を発したのを、静かにたしなめられたことがある。役満を上がった喜びの声ならともかく、チョンボ発覚の叫び声だっただけに余計情けないが…。謝った後「毎週来られてますね」と話しかけると「健康のためにね。ウォーキングもいいけど、僕らは指のウォーキングの方が合ってるから」と、1人が笑って牌を指でなぞった。

 僕が大学生のころ、よく行っていた雀荘のおばちゃんが「最近の子はマージャンをやらなくなった」といつもぼやいていた。だが、逆に最近は高齢者の介護予防、コミュニケーションの場として広まっているらしい。“お金を賭けない”“たばこを吸わない”“お酒を飲まない”健全なマージャンを提唱し、1988年に設立された「日本健康麻将協会」(ギャンブルの“マージャン”と違いを出す意味で表記は“麻将”)は、昨年実績で会員約10万5000人と盛況だ。同協会事務局は「団塊の世代が定年で会社を卒業する時代になり、その後の人生の中で仲間をつくりたいという人が多くなっている」という。調べてみると、「行政」が積極的にマージャンの場を住民に提供するケースも増えている。例えば、品川区は福祉高齢事業の一環として「生き生き健康マージャン広場」を行っており、定員締め切りになるほどの反響を得ている。

 「マージャン=ギャンブル」の悪いイメージを持っている人は多いと思う。でも、コミュニケーションの場としての可能性はバカにしたもんでもない。ある催しのアンケートで「同じ卓に座った人と話してみたら、今まで知らなかった隣の家の人で、その後、付き合いが始まった」なんて答えがあったらしい。今の世間の無関心さを表す怖いエピソードでもあるけど、こんなことが近所付き合いの活性化につながることもあるのだ。

 頭脳スポーツとして頭を活性化させる一面もある。冗談抜きで、徹マン明けで寝ようとして目を閉じると、暗闇の中に牌が浮かんでくることがある。おそらく、起きている時に、それだけ脳がフル回転していたということ。体が硬くなっても、発想は柔らかく。ボケ防止の意味でも、高齢者にはいい効果があるはずだ。

 いやいや、よく考えれば何も高齢者ばかりの問題じゃないかも。先日も自殺サイトが話題になったが、早い時期から考えることを拒否して、人生に生きがいを見いだせなくなったり、生身の他人とコミュニケーションをとるのが下手だったりって若者が増えている。そういう人にも、効果があるんじゃないだろうか(もちろんマージャンである必要はないけど)。生き生きした顔で興じる新宿の4人組を見ていると「こんな老後もありだな」と、ほのぼのとさせられる。

October 10, 2005 01:03 PM

2005年09月30日

カジノに賭けた人生

 ちょっと前に、夏休みを利用してテニアン島へ行ってきた。青い空に、白い砂浜、どこまでも続く海……、は正直どうでもよく、目的は同島ダイナスティホテル内にあるカジノ。5年前に韓国のカジノに行って以来、2度目の挑戦だった。

 行ったことがない人もいると思うが、華やかな中にも厳かな空気の流れる「大人の社交場」的な雰囲気は、いわゆる他のギャンブル場とはひと味違う。ディーラーのテキパキとしたカードさばきやチップの扱いは、見てるだけで感心させられショーに近い感じ。内装は豪華だし、ドリンクを運ぶウエイターなどもいてサービスは充実している。

 2、3時間ほど順調? にチップを減らしながら、いくつかテーブルを回ったが、途中で驚いたことがあった。何と、日本人の女性ディーラーがカードを配っている。「何でこんなところに日本人が?」。興味があったので、業務後に取材させてもらった。

 愛知県出身の井垣歌織さん(30)は東京でOLをしていたことがあるが、去年12月から同カジノで働いている。04年4月にオープンした日本最初のカジノディーラー養成学校「日本カジノスクール」(東京都中野区)の第1期卒業生だ。同校オープンのテレビをたまたま見て「希少価値があるし、他の人がやれないことをやりたいと思った」のがきっかけで、この世界に飛び込んだ。結婚してまだ2年だが「自分が逆の立場だったらやりたいことは頑張ってみたいから」という理解ある夫の賛成もあり“逆単身赴任”の生活を送っている。ルール上、正しい進行をしたのに、お客さんから「ディーラーチェンジしろ」と怒鳴られ、悔し涙を流したこともあった。でもそれ以上に、ディーラーとしてプレイヤーに接するのが楽しいと笑う。

 わざわざテニアンで働いているのは、日本ではカジノが合法化されていないため。数年前に石原都知事がお台場カジノ構想を提唱した時は、日本でもカジノ熱が盛り上がった。が、さまざまな障害で行き詰まって、今は話題にならない。野田聖子議員を中心とした超党派組織による「カジノ法案」も、一時は今年中に国会を通る見通しだったが、それどころじゃなくなったムードがある。

 当然、カジノ設立反対派の方も多いと思うが、先進国のほとんどで合法化されていることを考えれば、日本だけ健全な経営ができないはずはないと思う。だいたいパチンコやスロットだって本当は換金は違法なのに、実際は景品を第3者が買い上げる方式がうやむやに成立している。カジノ法案成立の過程で、そっちもまとめてすっきりさせちゃえばいいのにと思うのだが…。

 話は戻るが、もし日本にカジノができた場合、経験を積んだディーラーが相当数必要になる。今の時点で合法化される保証は何もないが、彼女はそれを見越して、一足早く世界に飛び出した。「将来的に子供ができたら、やっぱり日本でディーラーをやりたい」と井垣さん。ほかにも数人の同校卒業生が同カジノで働いているが「いつかは日本で」の夢はみんな一緒だ。ある意味チップどころじゃなくて、人生を賭けた海外修行。夢を持って臨んだ大勝負の行方は、近い将来の日本のカジノ合法化という形で実ってほしいなと思う。

September 30, 2005 12:06 PM

2005年09月20日

笑える!?「変漢」ミス

 15日に日本漢字能力検定協会から“変漢ミス”コンテストの年間賞が発表された。パソコンやメールの文章作成中のうっかり「変換」ミスで、同じ読みで全く違う意味になってしまった例を募集し、面白さを競ったもの。昨年7月から今年5月までに5946作品が集まった。一般のオンライン投票で選出された最優秀作品は、

 (正)「今年から海外に住み始めました」
  ↓
 (誤)「今年から貝が胃に棲み始めました」

 魚介類好きの人が、念願の海外移住を実現させて送ってきたメールらしい。確かに意味は通じてしまうから面白い。

 中には、これ変換ミスじゃなくて自分でつくったネタじゃないか? って疑いたくなる作品もあったが、クスッと笑ってしまう文章が集まっていた。が、しばらくして笑ってばかりもいられないな、とも思い出した。

 「活字を扱う仕事だから、当然新聞記者って漢字には強いんでしょ?」。もしかしたら、一般の人の新聞記者に対するイメージって、こういうのも多いのではないか。

 実は僕自身、入社前はそうだった。就職活動ではマスコミ、それも新聞社や出版社など活字を扱う会社に絞って考えていたが、履歴書やエントリーシートを書くときにちょっと困ったのが資格の欄。当時は運転免許すら持ってなく、活動前に「白紙じゃさすがにまずいかな」と思っていた。英語はもともと苦手だったし、大学時代の怠けぶりから、英検、TOEICなどで上を目指すのもまず無理。そこで、仕事の役に立って資格欄も埋まりそうだと思いついたのが日本漢字能力検定だった。詰め込み勉強で準1級の試験に受かって、日刊スポーツの入社面接では「文章を書く者として漢字はしっかり覚えようと思いました」とアピールしていたのを思い出す。それがどう評価されたかは分かりませんが。

 ただ、その努力が今はどうなっているか。取材中、騎手や調教師の話をノートにメモしていても、とっさに漢字が浮かばないときがある。急いでいるから後で見返して字が汚いのは仕方ない。が、平仮名の多さには自分であきれてしまう。入社以来、原稿書きはワープロ、パソコンが基本。いかに「変換」機能に頼ってきたか。いかに字を書かなくなったか。読める漢字はあまり減らないけど、スッと書けなくなっている漢字が増えるたびに痛感する。

 でも、これはほかの人も結構感じていることなのではないか。そういえば、今の小学生は漢字の書き取りをあまりしないと聞いたことがある。漢字はその文字自体が意味を表す「表意文字」。漢字の力が低下するってことは、正しい意味を理解し、伝達する能力が下がるということ。例えば個人間のメールのやりとりが、平仮名ばかり、変換間違いばかりの文だったら、勘違いだらけの世の中になってしまう。冒頭のコンテストは「漢字は必須能力であることや、正しく使用することの重要性を再認識する」のが目的。ミスの例を見て「面白いね」って思ううちはいいけど、将来的に「どこが間違っているの?」って人が出てこないだろうかと、ちょっと大げさながら思ってしまった。

September 20, 2005 11:44 AM

2005年09月10日

情報集め自分で判断

 衆院選挙の日が近づいてきた。連日メディアでは、ああだ、こうだと情報が流れている。何となくだけど、これまでの選挙以上に興味を持たされてはいる。ただ、ここまで間近に迫っても、自分自身の考えがまとまらない。1番話題になっている郵政民営化にしても、実現したらどうなるってことがいまだにピンとこない。

 選挙と比べたら怒られるかもしれないが、同じ投票活動なら競馬の方が客観的に勉強している。出走メンバー(自分の地区の小選挙区の立候補者)コース・距離実績(教育、年金問題など、どの分野に強いか)、前走時のコメント(前回の選挙で話していたこと)、調教内容(中間の活動内容)の分析などなど。予想は仕事でもあるし、毎週毎週これらの資料をチェックし、関係者を取材することで自分がどの馬に◎をつけるか=投票するかを決めている。当然予想は外れることも少なからずあるわけだけど、自分としてはこれは正しいと思えた上で結論を出している。

 だが、選挙の場合はどうだろう。先ほどの段落のカッコの中は、馬の予想の要素を選挙に当てはめたらこんな感じかなって項目だけど、実はそんなに真剣に調べていない。恥ずかしながらマニフェストもちゃんと隅々まで読んだわけではないし。どちらかというと、それをしっかり読んだ人がコメントした記事や番組から知識を得ているというのが本当のところだ。つまり、自分で評価しているのではなく、有識者、もしくはちょっと詳しいタレントが評価したことをうのみにしちゃっているということ。

 自分で判断の核になる情報がしっかり得ていないから、どんな風にアピールされていたかで、ころころ考えが変わってしまう。「自民党は郵政民営化のことばかり言っていて、民主党など他の政党とは争点がまったくかみ合わないので比較しづらい」「有権者に判断材料が少ない」とかの批判はよく目にするし、自分でそう思ったこともある。でも本当は前者は討論番組しか見ないからで、後者はメディアが大きく扱うものしか判断材料にしていないからではないだろうか。

 中学生の頃ぐらいからだったか。新しいRPGゲーム(主人公をレベルアップさせて、謎を解いて進んでいくやつ)が出ると、だいたいそのゲームの攻略本も同じくらい売れていた。個人的には、自分で迷いながら解いて進んでいくのが好きだったけど、初めから「解説」というか「答え」がそばにあることに慣れている人って、僕らの世代には多い気がする。自分もそっちの感覚に近くなったかなと思うとちょっと怖い。

 「家族の会話が増えた」とか「職場の話題が変わった」とか、確かに今回の選挙は、世間的にもいつも以上に興味を集めている。そんなときだからこそ、自分で客観的な情報を調べて、考えるってことをもっと大事にしていきたい。雰囲気に乗って参加したはいいけど、何にも判断していなかったってことにならないか。今の自分の状況に、そんな危機感を感じた。時効だと思うが、学生の時も夏休みの宿題は9月になってからだった。今からでもちゃんと勉強しないとな。

September 10, 2005 12:55 PM

2005年08月31日

馬にユメ託す高校生

 札幌競馬の開催中で、今月15日から北海道に長期出張している。先週22日に、静内農業高校を訪れる機会があった。日本で唯一サラブレッドの生産、育成を授業に取り入れている高校だ。今年2月には同校で生まれたユメロマンが、東京競馬場で新馬戦を快勝した。高校生の生産馬の勝利はJRA史上初の快挙。この記事は社会面に大きく載ったので、「ああ、あの時の学校か」と思う方もいると思う。

 18日に旭川で行われたホッカイドウ競馬では、またも同校の生産馬で、ユメロマンの半弟サクラホウジュがデビュー勝ちを飾った。ちょうど開催中だった甲子園では同じく南北海道代表の駒大苫小牧が勝ち進んでいる最中で、新聞やテレビはその話題で持ちきり。ちょっと寂しくもあったが、関係者の中では、こっちもちょっとした注目を集めていた。

 実習作業は畜産科(生産科学科)の生徒、馬術部のメンバー30人が中心になって行う。出産を見守り、毎日の世話を行い、セリに立ち会う。ちなみにユメロマンは250万円、サクラホウジュは400万円の値がついた。多感な時期に、生命の大事さや生き物を育てる難しさを肌で感じ、また一方で自分の努力が何百万という大金で評価される喜びを経験できるのだから、なかなかほかでは味わえないことだなと思った。

 取材した時は夕方の厩舎作業中だったが、生徒たちは熱心に馬の体を洗ってあげていた。競馬の取材で見慣れているはずの光景なのだが、何となく新鮮に見えた。馬は敏感な生き物でフラッシュ撮影などは本来は厳禁なのだが、担当の先生は「慣れてるので大丈夫ですよ」とあっさりOK。今年4月に生まれ、7月のセリで300万円で落札された桜可憐(サクラカレン=幼名)の写真を撮ったが、全く動じることがなかった。馬より人が多い環境で育っていることが、物おじしない性格につながっているのかも。

 生徒の生活スタイルは当然、馬に合わせたものになる。厩舎近くの寮に住み、朝起きるのは毎日4時半から5時くらい。馬の運動を行い、カイバを与えてから、自分の朝食にたどり着ける。「眠いけど、毎日の変化を見るのが楽しいですから」。苦労よりも充実感の方が上回っているのだろう。生徒の1人は「競馬に興味があったので、早くから馬を扱えるこの高校に入った。将来は中央競馬に入りたい」と夢を持っている。ほかでは扱われない分野だけに、北海道外からの入学希望者も多いと聞くと、まだまだ馬の仕事に関心がある人は多いんだな、とうれしくなった。ここ数年は未成年者の凶悪犯罪や、やりたいことがなく無気力な若者のニュースも多いが、目標に向かって一生懸命頑張る高校生の姿は、馬の育成であれ甲子園であれ、やっぱりすがすがしい。

 ユメロマンたちの母で、学校で唯一の繁殖牝馬サクラトキメキは地元の牧場の好意で寄贈された馬。高額な種牡馬の種付け料は教育的配慮で、予算内で収めてもらっている。不景気に悩む馬産地にとっては明るい話題につながるだけに地元の応援態勢はばっちり。同校生産馬の活躍はもちろん、同校出身者が将来競馬サークルで活躍してくれることを期待したい。

August 31, 2005 11:39 AM

2005年08月21日

ブームで終わらすなよ

 今年のダービー馬の人気はやっぱりすごい。

 17日、札幌競馬場で公開調教が行われた。一般ファンの人が、普段見ることのできない馬の調教風景を見学できるイベントで、早朝5時半から前年比379・1%の436人が駆けつける盛況だった。本来は21日に行われる重賞・札幌記念出走馬が主役だが、この日、ほとんどの人のお目当てはディープインパクト。調教開始から2時間ほど過ぎて、無敗のヒーローが馬場に入ってくると、それまでスタンド席に座って遠巻きに見ていたファンが、一斉にコース外のラチ際に集まり出したのが印象的だ。

 武豊騎手がダービー前にファンから声を掛けられた時、いつもなら「武さん頑張って」と言われるところを、今年は「ディープインパクト頑張って下さいね」と言われたと聞いた。人でなく馬の名で応援されたのは名手をしても初めてのケース。「やっぱりすごい馬なんだな」と思わせたというから、久々に出た本当のアイドルホースといえるだろう。

 深い政治の知識や有効な政策があるとは思えないホリエモンが、一時は自民党から「刺客」として白羽の矢を立てられたり(結局は無所属で出馬)と、知名度があれば何でもありの人気投票みたいになってきた今回の衆院選。ダービーでは単勝で約9万7000票も集めた人気馬が「廃止が相次ぐ地方競馬を救うため公営競馬の完全民営化を目指します」って、文字通り「出馬」したら当選しちゃうんじゃないか。軽い寝不足もあって、そんな冗談さえ思い浮かんだ。

 ディープの周囲には新聞以外にテレビ、雑誌の密着取材陣が常にいる。「大変だけど、競馬界全体のため」と露出アップに協力するスタッフの寛大さには頭が下がる。ただ、その一方で思うのが、今の競馬の盛り上げ方が「ディープ」人気に頼りっぱなしになっていないか、ということ。ダービー当日の記念プログラムには同馬の特製ポスターがついていたし、等身大の像も登場した。引退した功労馬ならともかく、走る前から勝つのが当然、この馬は別格みたいな扱いに「やりすぎ感」を感じた友人もいた。

 前述の公開調教中、何人かのファンに話を聞いてみたが、馬はディープインパクトしか知らない人がいて驚いた。同馬が活躍しているうちはいいけど、もし無敗でなくなったら興味をなくしちゃうんだろうか。先週の札幌競馬開幕週(13・14日)の売り上げは前年比約93%。新馬券「3連単」を先行発売した翌年ということを差し引いても、昨年獲得した新ファンに競馬が浸透したとは言い切れない。

 せっかく出てきた歴史的ヒーロー。この馬を引っ張りに競馬をアピールするのは当然としても、1頭だけ覚えられても仕方ない。それこそ「刺客」となる強力なライバルがどんどん出てきてくれないものか。運に頼る部分も多いけど、「ディープ人気」がどっかで「競馬人気」に転換しないと、今の盛り上がりが短いブームで終わってしまう心配もある。そう考えると、本来の政策とは別のところに目を向けさせて、これだけ衆院選を注目させている小泉首相のやり方ってうまいのかな?

August 21, 2005 12:20 PM

2005年08月11日

禁煙は未成年対策が大事

 今回はいつも書いている競馬と無関係なことで、思ったことに触れてみたい。

 実は生まれてこの方、たったの1本、ひと吹かしもたばこを吸ったことがない。「たばこ吸い出してから、息苦しくなってタイムが落ちたわ」。きっかけは高校時代、大学の陸上部に所属していた先輩がポロッともらした言葉。これが、当時サッカーをやっていた自分の気持ちに響いた。「少しでも動ける体でいたいからな」。性格が単純ってのもあるけど、そこで吸わないでおこうと決心してから、大して運動しなくなった今でもたばこに興味が沸くことがなくきている。

 そんな訳で最近まで全然知らなかったのだが、たばこの箱ってすごいことが書いてあるなと驚いた。先日友人と飲んでいたときに手にすると、大きな印刷で「喫煙は、あなたにとって心筋梗塞の危険性を高めます」。別の人のを見ると、肺がんの原因になるとか、脳卒中の危険性が高まるとか…、とにかく表現がストレート。これって競馬で言えば、券売機から出てきた馬券に「この馬券は当たらない可能性があります」とか「買い続けると年間で乗用車1台分の損失につながる危険性があります」とかって嫌がらせが書いてあるようなもの?

 勉強不足を露呈してしまい恥ずかしいが、この健康警告表示は、今年発効した「たばこ規制枠組条約」の絡みで、昨年11月あたりから徐々に載り始めたらしい。今年7月出荷分からはすべての銘柄で義務付けられたので、吸うことのない自分でも目にする機会が増えたのだろう。

 自分が吸おうと思わないだけで、僕は決してほかの人もみんな禁煙すべきなんて考えていない。各個人の判断でいいと思う。ただ、ここまで厳しく警告されれば、やめる人は多いのではと思ったが、周りに聞くと「そんなんで吸うのを控えようと思わない」「政府が言うから仕方なく警告の言葉を入れているだけで、本当は業者も売りたいんでしょ」って反応がほとんど。日本たばこ産業(JT)のお客様相談センターでも「もう吸わないぞ、なんて言ってくる人はいなかった」という。きつい脅し文句を押し付けられても、喫煙者の気持ちは少しも揺れないんだなって驚いた。

 聞いた範囲では愛煙者の気持ちは簡単には動かない。それならば未成年者、特にスポーツをしている人向けのメッセージを交ぜてみてはどうか。生命力あふれる若者にとって、死を意識させる警告文はあまりリアリティーを感じさせない気がする。自分が高校時代にドキッとした「肺活量が○%落ちた例があります」とか、今回の甲子園の明徳義塾ではないが「高校生の喫煙が発覚したら、あなたの学校の部活は公式戦に出れなくなります」とか。一生懸命勝ちたい、うまくなりたいって思う気持ちや、仲間に迷惑を掛けたくないって気持ちをくすぐるのも1つの手だと思うのだが。

 自分は高校時代がきっかけで一切たばこに興味を持たなかった。世界的な流れに乗って、日本も禁煙の方向に進んで行くのなら、まだたばこに興味を持つ前の未成年対策が大事な気がする。

August 11, 2005 11:21 AM

2005年08月01日

騎手の減量死活問題

 「軽くやばい」。

 軽快な音楽に乗って工藤静香や観月ありさがウエストの肉をつまむ某アルコール飲料のCM。あれを見て自分もやってみて「かなりやばい」って思った人って、結構多いのではないだろうか。

 こう書くからには当然、自分もそのひとり。サッカーなどで動き回っていた学生時代と違い、社会人になってからはだいぶ体が重くなった。あまりの運動不足を解消しようと昨年秋にフィットネスクラブの会員になったが、意志の弱さには自信がある。ついつい別の誘いに乗ってしまい、行ったのは数えるほど。家から5分の距離が、万里の長城より長く感じる。

 同年代が多いスポーツ紙の競馬記者の中ではまだましな方なのがせめてもの救いか。朝は早いし、生活は不規則だし…と、妥協、言い訳をしてみたくもなるが、ジョッキーの細いウエストが目に入るたび、その甘さを思い知らされる。何かコツでもあればと、取材の合間に数人の関係者に聞いてみた。最初は気軽な気持ちだったが、結果的に思ったのは、一般にいう「ダイエット」と、騎手の「減量」は覚悟が違うということだ。

 どんな競技の選手でも減量により「メリット」が生まれることはあるだろう。だが、騎手の場合は○キロ(その週の乗り馬により異なるが、だいたい50キロ台前半)以下に落とすことが、競馬に騎乗する「最低条件」。達成できなければ仕事がなくなるのだ。階級ごとのリミットクリアが絶対条件のボクサーも減量は過酷だと聞くが、試合は数カ月に1度。1週間ごとに期限が迫る中央競馬の騎手の方がすぐに苦しみがやってくる。

 食事制限、サウナなど基本的な減量方法は同じでも、落ちるところまで落とした後の減量はきつい。騎手って小柄でしょ? って思うかもしれないが、今の若い騎手は結構背が高い人も増えている。例えば武幸四郎騎手なんかは自分より背が高い174センチ。それで50キロ台前半の騎乗も受けるんだから大変だ。

 騎手時代にアイネスフウジンとのコンビで90年のダービーを逃げ切った中野栄治調教師も、毎週7キロの減量苦に悩んだ。「骨太なんで、なかなか減らないし、翌週はすぐに戻っちゃう。今は57キロなんだけど、本当はこれぐらいでいい体。今でもサウナは行きたくない」と苦笑いしていた。無理な減量で内臓を壊す人もいるし、減量苦が原因で現役を退く人もいる。騎手にとって体重管理は死活問題といえる。

 もちろん、それほど減量に苦労しないで済む騎手も多いのだが、何げなく見ているスマートさは「プロ意識」の表れなのだ。今でも騎手時代と同じ細身の体つきを保っている郷原洋行調教師は、よく女性からダイエットのコツを聞かれるが、決まってこう答える。「毎日決まった時間に3食のリズムをつくること。それだけでやせるはず。一気に落とそうとするから反動が出る。遊ぶだけ遊んで、急に減らそうと泡食ったってダメ」。いやはや、耳が痛い話だ。騎手の危機感を10分の1でも持っていればダイエットなんて簡単なんだろうけど、と思わされた。

August 1, 2005 01:33 PM

2005年07月22日

宮下に続く女性騎手

 18日の名古屋競馬1Rで、宮下瞳騎手(28)が女性ジョッキーの日本最多勝記録となる通算351勝を挙げた。パートナーのアジャイルスーパーの単勝支持率は75・3%。今年のダービーで歴代最高の単勝支持率を集めたディープインパクトが73・4%だから、動いた金額は別としても、そのすごさが分かる。ファンがみんな新記録達成を応援していたからこその数字だ。

 この日の名古屋競馬場の入場者数は4154人で、前年比108・3%だった。1Rでの記録達成が濃厚とあって、朝から客の出足は好調だったという。「久々に明るいニュースになりました」。ほかの地方競馬と同じく、経営的に苦戦を強いられる主催者側が喜びを語る。最近はゴルフ、バレーボールなどで、男子より女子の方が人気がある気がするが、今回の例をみても、競馬界でも女性騎手の活躍がひとつの売りになっていいはずだ。

 だが、今の中央競馬に目を移すと、女性騎手になかなか活躍の場が与えられていない。96年に牧原、細江、田村がJRA初の女性騎手としてデビューし、その後、計6人が誕生したが、現役を続けるのは牧原と西原の2人だけ。「男も女も関係ない。純粋に技術的に判断して乗り役を決めている」。多くの調教師が、そう話すように実力勝負の世界では乗り馬が増えないのは仕方がないのかもしれないが、このままでは女性騎手の存在がどんどん希薄になっていく。

 サッカー、野球、バレーボール、マラソン、水泳…。数あるスポーツの中でも、男女が同じ舞台で戦う競技はほとんどない。それはどうしようもない体力差が男女間で存在するからだ。競馬をスポーツとして考えたことのある読者の方はあまりいないだろうが、騎手は時速約60キロの馬上で瞬時の判断を行い、500キロ近いサラブレッドを制御しなければならない立派なアスリート。だとすれば、女性騎手が活躍しやすい特典があってもいいのではないか。

 例えば、北海道のばんえい競馬では、興行面でもメリットのある女性騎手の生き残りやすい環境を考え、減量の規定を男女別にしている。新人の減量は男10キロに対して、女20キロ。さらに03年度には通算80勝以上すると減量の特典が消えてしまう制度を見直し、女性騎手は何勝しても永久的に10キロ減の恩恵が得られるように変わった。導入前は「何で女だけ」という男性騎手の声もあったが、最終的にはばんえい競馬全体の繁栄のためということで納得したという。また、1キロ軽いと約半艇身有利といわれる競艇でも、レースでの最低体重は男50キロ、女47キロと差がつけられている。

 「甘すぎる」と言われてしまえばそれまでだが、少なくとも平場戦だけでも1、2キロの減量があれば女性騎手の活躍の場は増えると思う。それによってまた新たなファンが生まれることもあるはず。先日の記者会見で宮下騎手は「中央競馬では2回しか乗っていないけど、これからもチャンスがあれば乗りたい」と話していた。もしその機会があったとき、迎え撃てる女性ジョッキーが中央にいなかったら、それはちょっと寂しい気がする。

July 22, 2005 02:46 PM

2005年07月12日

米国民「勝者」へ憧れ

 3日に行われた米国G1のアメリカンオークスの結果は、国内の競馬ファンにとっては大きな衝撃だった。日本のオークス馬シーザリオと福永祐一騎手(28)のコンビが、4馬身差で圧勝した。競馬の本場アメリカでの日本馬のG1勝ちは初めての快挙。皇帝シンボリルドルフもできなかったし、武豊騎手でさえもまだ達成していない。翌週の美浦トレセンは、記者仲間だけでなく調教師、騎手などもその話題で持ち切りだった。朝の一般のテレビニュースでも流れていたし、競馬を知らない人でも、何となくすごいことだと感じてくれたかもしれない。

 テレビ画面を通して、日本人関係者の喜びは十分するぎるほど伝わってきたが、一方で現地の人の称賛の声もすごかった。本紙の記事によるとアメリカの名調教師ボブ・バファートは、米国ではまったく無名の福永騎手を祝福するために、わざわざ騎手ルームを訪れたという。「どこから来た者であろうと強い者が尊敬される」のが、いかにもアメリカらしいな、とあらためて思った。

 アメリカ人の「勝者」へのあこがれは「負け犬」を売りにできる日本人とは比べ物にならないぐらい強いのかもしれない。昨年のアメリカンオークスは実際に現地へ取材に行ったが、そのとき競馬場の職員に「アメリカ人には単勝馬券が一番人気があるんだよ」と教えてもらった。日本以上に馬券の種類は多いが、基本は「単勝」。実際に売り上げに占める比率は分からないが「シンプルに勝つ馬を応援したい」という意識が強いらしい。何かの本で「アメリカ人には勝つかそれ以外しかない」という言葉を見たが、それだけ勝利にこだわりがあり、勝者が特別視される国民性なのだろう。

 そういえば最初は「打っても内野安打ばかり」と一部に批判的な声もあったイチローも、打率を残すうちに一躍ヒーローとして尊敬されるようになった。メジャーリーグに行く選手にとってはおそらく「高いレベルでやりたい」というのが根本の動機なのだろうが、「勝者の優越感がどこよりも味わえる」魅力も大きいのかな、とふと思った。

 もちろん勝者に寛大な分、負けた者への批判はときとして厳しい。昨年の米オークスに話を戻すと、武豊がまたがった日本のダンスインザムードは1番人気で2着に敗れた。勝負どころの3角で外から他馬にかぶされたために仕掛けが遅れて、先に抜け出した馬に負けたのだ。翌日、現地の厩務員から「あれは武豊のミス。日本の馬が1番強かったよ。彼は日本のヒーローだから、お前らは批判できないだろうがな」と言われてハッとした。「ミスとまでは言えないですよ」と答えたが、実はレース後「乗り方次第では勝てたかも」と思ったのも事実。結局、紙面は「残念」って感じのトーンに落ち着いたが「2着で善戦」は日本人式だったかも。今回のシーザリオの快勝にスカッとした一方で、当時抱いたモヤモヤが思い返された。

July 12, 2005 12:48 PM

2005年06月29日

◎○▲☆信じます?

 24日に福島市内で「ニッカン競馬教室」に参加した。夏のローカル競馬開催の時期に入って、今は福島競馬場が開催中。そこで新聞の部数拡張、宣伝といった狙いも込めてイベントが開かれたわけです。出席者はレース部から天野部長と鈴木記者、それと自分の3人。ほかでは恥ずかしくて、まず着られない自分らの似顔絵がプリントされたTシャツ姿で席に着いた。福島では昨年に続いて2年連続の開催で、約150人の方が集まってくれた。中には青森や埼玉からの参加者もいたと聞く。

 時々、競馬人気のためには騎手もファンとの接点を増やすべき…などと偉そうに書くときがあるけど、自分がそういうことをやるとなると苦手意識があるもの。この競馬教室のイベントは昨年あたりから一気に増え始め、新潟、横浜、都内など数回経験したが、始まりはいつも緊張する。原稿は見返して手直しできるけど、話すのは勝手が違う。マイクを持って黙るわけにはいかないので、とにかく何かしゃべるけど頭の回転がついていかないこともしばしば。みんなの目がこちらを見ていると思うと、ついうつむきがちになってしまう。こういう場で理路整然としゃべれる人ってのは、すごいなーといつも思わされる。

 「えー、この2人はここでしゃべった結果がボーナスの査定にも響きますので…」。冒頭は司会の天野部長の余計なプレッシャーから始まった。それから3、4レースの予想を話したわけだが、時々チラッと前を見ると、みんな結構熱心にメモを取っている。「参考にしてくれてるんだな」と安心していると、最後の質問コーナーで出たのが「お2人とも○○は無印にしてますが、この馬はダメですかね?」。これは毎回聞かれる質問。「やっぱり自分で決めた馬が買いたいんだな」と思うと、妙に納得した気分になる。そういえば自分も競馬記者になる前、予想した人の印通りに買ったことなんてなかったな、と。

 ただ、一方で「記者の印はあくまで参考程度」と割り切ってくれないのが競馬ファンの心理でもある。以前、武豊騎手がテレビ番組で「競馬ファンって、予想が当たると自分の予想がうまいって言うけど、外れると騎手のせいにする人が多いですよね」と笑っていた。「騎手」を「記者」に置き換えると本当に同感。友人とかに「お前を信じて失敗したよ」と言われると、「来ないと思うなら買わなきゃいいじゃん」と思ってしまうが、それってやっぱり言い訳になるかな。

 「当てたい」「もうけたい」「もっと当てろ」「オレの方が予想うまい」…。いずれにせよ「競馬教室」は、あらためてファン心理が感じられて勉強になることが多い。これからもあると思うので近くでやるときはぜひご参加下さい。普段原稿に書けないような話もありますよ。

 で、24日の予想の結果がどうだったかというと、翌日の福島土曜メーンは、何と記者2人そろって無印にした馬が1着。部数拡張どころか、読むのをやめる人が出たらどうしよう…。まあ、そんな時もあるということで。次は頑張ります。

June 29, 2005 12:46 PM

2005年06月19日

頑張れ!!盲動馬育成

 埼玉県の名栗ミニホース牧場に、今年4頭の子馬が誕生した。一番最近は6月3日に生まれたキヨシ君。他の3頭も元気に育っている。馬といっても、いつも取材している中央競馬のサラブレッドではなく、アメリカンミニチュアホースの話だけど。競走馬は見上げるほど大きいが、彼らはせいぜい腰までの高さしかない。体高は大人でも70~80センチ。まずほえることはないし、攻撃性も皆無。そばに行くとなでてほしそうに寄ってくるのが、本当にかわいい。この中に将来、「盲導馬」として活躍する馬がいるかもしれない。

 「盲導馬? 盲導犬じゃないの?」と思う方も多いかも。米国では、数は多くないがミニチュアホースが「ガイドホース」として視覚障害者の手助けをしている実例もある。だが、日本では盲導馬はまだまだ知られていない。というか、むしろ1、2年前よりPRの機会が減っている感すらある。自分が気付いてないだけかもしれないが、少し前に駅前で見ることのあった盲導馬、介護馬のキャンペーンは最近はめっきり見なくなった。03年2月に衆院議員会館前でPRが行われたときはニュースにもなったが、覚えてない人も多いだろう。

 盲導馬を普及しようとしたが、うまくいかず手を引いた団体もあるようだ。そんな中、盲導馬調教師として頑張っているのが、冒頭の牧場にいる両角典子さん(45)。いくつかのきっかけがあり3年ほど前からミニチュアホースに盲導馬の訓練を施し始めた。最初は馬に犬と同じようなことはできないと思っていたが「人間に関心があるし、本当に物覚えがいい」と印象が変わったという。

 とはいえ、スタートは全くの手探り。盲導犬協会の人にアドバイスを受けたりしながら試行錯誤が続いている。現状は「待て、来いの指示に従ったり、安全と分かるまで障害物の前で止まります。ただ、まだ自分から人を引っ張っていくまでではない」。法律面で認められていないことなども含め、まだまだ実用段階までは遠い。「もっと馬に詳しい人が調教して、盲導犬のノウハウがある人が組織をつくってくれれば。JRAあたりが研究部門をつくってくれればいいんですけど」。両角さんは孤軍奮闘の難しさを語る。

 日本盲導犬協会などによれば、盲導犬を必要としている人が約7800人に対して、盲導犬の実動数は約950匹と不足している。自分のマンションで飼えるわけないことを考えても、無責任に、盲導馬を普及しましょうなどという気はない。ただ、混雑の激しい首都圏はともかく、人通りの少ない郊外で対応できるぐらいのレベルに育てば、盲導馬が視覚障害者の助けとなっていく可能性は秘めている。

 日本人の飽きやすい性質なのか、動物ものの話題ってすぐに忘れられてしまいやすい。ただ盲導馬育成はもし成功すれば、社会的に貢献できるもの。ぜひ温かく見守ってほしい。将来的にナグリ(名栗)キャップっていう盲導馬が誕生すれば、本家オグリキャップ以上の社会現象になるかも…。

June 19, 2005 12:15 PM

2005年06月09日

馬の命運握る装蹄師

 シドニー五輪のころ、靴職人の三村仁司さんの記事を読んだことがある。マラソンの高橋尚子ら多くの一流スポーツ選手の靴を手掛けた人だ。例えば高橋尚子が左右の足の長さが違って、大きさもワンサイズ違ったように、本当に高いレベルでは個人個人に合わせた靴作りが重要になってくる。靴の消耗具合で選手の体調まで分かると書いてあったが、これはまさに競馬でも当てはまる。

 「装蹄(てい)師」。一般の人はあまり耳にしないかもしれないが、競馬の世界ではなくてはならない存在。馬は4本の脚それぞれに1つの蹄(ひづめ)がついていて、400~500キロある体重を支え、衝撃を緩和したりしている。「蹄なければ馬なし」という言葉があるぐらい大事な部分。1カ月で8~9ミリ伸びるが、脚への負担の大きい競走馬の場合は摩耗の方が早く、保護してやる必要がある。人間の靴にあたるのが蹄鉄。それを扱うのが装蹄師だ。

 足裏に熱せられた鉄を押し付けられ、釘(くぎ)をガンガンと打ち込まれる。人間だったらすごい拷問だが、馬の話なのでご安心を。馬の蹄には神経がないため、全く痛みを感じることはない。ただ、人間でも新しい靴のサイズが合わなかったりするとすぐ靴擦れを起こすし、それをかばうように歩いていると足だけでなく、腰、肩、首など体中に影響が及ぶこともある。

 三村さんではないが、装蹄師も熟練すると歩き方とかで馬の状態がズバリ分かるという。古い蹄鉄を外して、新しい蹄鉄をつける前に、伸びた蹄を削る作業があるが、わずか「ハガキ1枚」の削り方の違いでバランス、脚への負担などが大きく変わる。まさに職人の仕事といえる。

 馬の命を預かっているといっても大げさではなく、そのプレッシャーは相当なものだろう。ダービーの前に、無敗の2冠馬に輝いたディープインパクトの装蹄をしている西内荘氏(48)に取材をする機会があった。担当した馬の通算G1勝利が40勝を超え、最優秀装蹄師賞も4度受賞している名人。カリスマ装蹄師と呼ぶ人もいるぐらい。自信たっぷりの話し方が印象的だったが、インパクト話になると「今までで一番プレッシャーを感じている。無事に行かせなきゃみんな納得しないでしょ。責任感、緊張感があるね」と表情が引き締まった。数多く走る馬を担当してきた分、途中の故障で涙を流したケースも多い。「自分の担当でなければ、もっと長く活躍していたかも、と思うこともある」。トップでいる分の悩みも多い。

 実はダービーの日のインパクトは新しい試みがなされていた。後脚の蹄鉄は釘を1本も使わず、ショックアブソーバーの液を流し込み、接着剤のようにして張り付ける手法を取った。西内氏が2年前にアメリカで吸収してきた技術で「日本では僕しかできない」と言う。インパクトは他馬に比べて蹄が薄い馬。何度も釘を打たなくてすむメリットは大きい。より速くとより安全に、矛盾する2つの課題をクリアするために、裏方の職人の力は大きいとあらためて感じた。

June 9, 2005 12:35 PM

2005年05月30日

全頭の無事祈る裏方

 今日は競馬界最大のレース・日本ダービーが行われる。レースの興味は皐月賞馬ディープインパクトがどんな勝ち方をするか。穴党には悪いけど、個人的には「強い馬が強い競馬で2冠達成」という競馬の醍醐味(だいごみ)を味わいたい。


 と、同時にやっぱり全馬無事にレースを終えてほしいなと思う。ダービーを最高の舞台で整えてくれたスタッフのためにも。


 27日の朝、ダービーを目前に控えた東京競馬場の芝コースを歩かせてもらった。たまにやるゴルフでも、しっかり刈りそろえられたフェアウエー上は滅多に歩けない僕だが、この日もボールが入ったらなかなか出せなそうなラフをひたすら歩いた。通る馬が多い内側はさすがにボコボコしていたが、ちょっと外めは芝がびっしり。一緒に馬場を回って案内してくれた東京競馬場の矢島輝明馬場造園課長(45)によると「例年になくいい状態。これ以上ない馬場」と力強い声が返ってきた。


 芝には、見栄えはするが暑さに弱い洋芝と、夏は大丈夫だが冬は枯れてしまう野芝の2種類がある。1年を通して緑の芝コースを保つために、この2種類を併用しているが、ダービーはちょうど気温が上がり始める時期。「1番きれいに見せたいダービーのときが、芝の1番難しい時期」と矢島さんは言うが、大雨の開催が少なかったこともあり、今年はファンが喜ぶ状態をキープできた。


 芝がもっとも育つ時期は6月から7月半ば。ダービー、安田記念が終わった瞬間に張り替え、修復作業に入らないと、翌1年間保つ芝を育てることはできない。「来年のダービーの馬場は、今年のダービーが終わった瞬間に勝負が始まる」と矢島さん。馬場を馬に置き換えると、厩舎関係者がよくいう言葉になるのが面白い。やっぱり競馬はダービーを中心に回っている。


 「おそらくディープインパクトはこの辺を通るんじゃないかな」。当日を思い浮かべて話しながら差し掛かった3角すぎ。矢島さんはふと、コース内にある大木、俗にいう大ケヤキに向かっていった。側に奉られている地元武士の井田是政の墓の前で立ち止まると、しばらく手を合わせた。「ここでレース前は出走馬の無事を祈り、レース翌日は無事に開催を終えたお礼を言うんだ」。


 昨年のダービーは、残念ながらレース中の故障で安楽死処分になった馬、重度の骨折をした馬が出た。ローテーションに無理はなかったのか? 厳しいレースをした代償では? 他にも故障の原因は考えられるが「馬場が硬すぎるのでは」という人もいた。何が本当の原因かは誰にも分からないが、それでもケガがあれば、馬場状態は常に指摘の矢面に立つ。そんな思いはもうしたくない。毎朝の馬場チェックにも自然と力が入る。


 「とにかく全馬が無事でいてほしい。何も事故がなく大きなレースが終わるといつもホッとするよ」と矢島さん。ダービーの大舞台。華やかなレースの裏側には、全頭が無事にレースを終えて、はじめて胸をなで下ろす人もいる。

May 30, 2005 12:35 PM

2005年05月20日

騎手の本音 聞きたい

 3歳世代NO・1を決めるダービーの日が迫ってきた。もちろん注目は皐月賞馬ディープインパクトがどんな走りを見せるか。皐月賞の時にはテレビのニュースにもなった。きっと来週の栗東トレーニングセンターは、いつも以上に多くの取材陣が集まるのだろう。


 本番はもちろん楽しみだが、その前に注目しているイベントがある。ダービー1週前のオークスの日(22日)に、午後5時から東京競馬場のパドックで行われる「ダービーウィーク開幕祭」だ。ダービーに騎乗する騎手数人が本番への思いを語ることになっている。


 実は昨年まではダービー週の月曜日に「ダービーフェスティバル」というイベントが、都内の会場を借りて行われていた。だが年末の「有馬記念フェスティバル」とともに、今年から廃止になった。


 理由は、コストが高くつく、リピーターが多く新規ファン開拓につながりにくい、騎手側が参加に消極的など。「数あるG1の中でもダービーと有馬記念だけは特別」と感じさせるイベントでもあっただけに、最初に中止を聞いたときは少し寂しい気がしていた。


 だが新たに行われる「開幕祭」は、競馬場に足を運んだファンにとっては、会場でやっていたときよりも近い位置で騎手の顔を見て、話を聞ける利点がある。騎手にとっても、基本的に唯一の休みである月曜日をつぶさなくていい分、出席しやすいメリットがある。ショーアップしすぎた感のあったフェスティバルよりも「騎手が主役」の催しとしては、今回の方がシンプルでいいかもしれない。


 競輪では大きなレースの際は、昼のレースの合間に決勝戦のメンバーがバンクに出てきてあいさつするパフォーマンスが慣例。騎乗数の多い競馬で同じことは難しいが、レース後でも、騎手の生の声を聞ける場があるのはファンにとっては楽しみなはずだ。


 せっかくだから期待したいのが、騎手には本音で話してほしい、もしくはオリジナリティーのあることを話してほしいということ。勝負師として「戦法は明かせない」というのも分かる。でも通り一遍の「頑張ります」ばかりでは飽きられる。


 勝ち負けにかかわらなくても、騎乗馬との思い出とか、プライベートのこととか…。マスコミとして困る面もあるが、紙面で読めないような話が出てこそ、来てくれたファンも満足すると思う。


 もっと言えば、思い切って騎手の3連単予想なんてのもファンは興味あるんじゃないか。もちろん「公正競馬」は第一。関係者の予想行為を禁止しているJRAとしては認められないだろうが、今の時代、騎手がそう言ったからって、その通り人為的な結果が出せるなんて思っているファンはいないだろう。


 そういえば、この前の国会の集中審議で小泉首相が何を聞かれても「適切に判断します」とだけ答えて終わりにしていた。それじゃわざわざ出てきてまで話す意味がない。


 話はズレたけど、「ダービーの日もまた競馬場に来たい」と思わせるジョッキーの話術に期待したい。

May 20, 2005 11:28 AM

2005年05月10日

G1の夢へ「塾」開講

 世間一般で塾通いの生徒が増えたのは相当前からだが、中央競馬の美浦トレセン内では最近になって初めて「塾」が開講された。講師は昨年騎手を引退した坂井千明氏(54)。現役時代はナリタブライアンが3冠に輝いた94年にダービー3着、菊花賞2着と奮闘したヤシマソブリンなどにまたがった。


 通称「千明塾」は、現在評論家として活動する坂井氏の「若手騎手を伸ばしたい」という思いから、半年ほど前にスタートした。毎週、水・木曜の午後に、前の週のレースDVDを見ながら個人ごとにポイントを指摘する。フリー参加の形だが、今では9人の若手騎手が顔を出す。


 「授業」現場に行ってみたが、さすがに内容は濃い。騎乗姿勢、コース取り、動き出しのタイミングなどなどポイントはさまざま。真剣にうなずく「生徒」の表情から相当勉強になることを指摘されているんだな、というのが伝わってくる。参加していたある騎手は「聞きたいことを聞けて、言いたいことを言いあえるので精神面でのリフレッシュにもつながっている」と話していた。


 「塾」と書いたが、月謝などを取っているわけではなく、あくまで競馬界の繁栄を願ってのボランティア。プロ野球、Jリーグなどはもちろん、ほとんどの競技で元選手が現役選手を指導・育成するシステムが確立しているが、騎手個人同士の戦いでもある競馬界にはそれがない。「やっぱり競馬が好きだし、この先も発展してほしい。でも10年後を考えるとどうか。今の競馬を引っ張る武豊がいつまで騎手をやっているかだって分からない。若手がもっと売り出してこないと競馬がダメになる」と、若手の伸び悩みを指摘する。


 競馬学校でみっちりとしごかれて、卒業までに基本的な技術を仕込まれるとはいえ、実戦はまったくの別物。試合形式の練習ができる他競技と違い、競馬はそうはいかない。騎乗馬が少ない若手騎手のレース経験はどうしても不足する。それでいてJRAの先輩騎手だけでなく、必死に勝ちに来ている地方のトップジョッキーや、一流の外国騎手とも同じ舞台で競わなければならない現状はかなり酷。騎手間の上下関係は昔の方が厳しかったと聞くが、こと乗りクラの確保などは最近の若手の方が厳しい環境にある。


 「若手にはハングリーさがない」。どの業界でも言われていることで、騎手もそういう傾向はあると思い込んでいたが「千明塾」の現場には「少しでもうまくなりたい」という気持ちがあふれていた。「技術は自分の目で盗むもの」「人に教えてもらうのは甘い」という考えもあるだろうが、どうすれば上達するか悩んでいた若手に道を示してあげたのは大きい。競馬学校の教官の誘いを断って、現場に近い位置にいることを選んだ坂井氏の試みは成功したと思う。


 実際、参加しているメンバーはみんな順調に成績を上げつつある。「あいつらローカル開催に行って勝っても、おれに土産ひとつ買ってこないんだ。信じられないだろ」と苦笑いする坂井氏だが、若手の成長はうれしい様子。いつかは門下生からG1勝ちの報告という、でっかい土産がもらえるはずだ。

May 10, 2005 04:04 PM

2005年04月30日

ガラス張りの新鮮さ

 何年も前の話だが、知事室をガラス張りにした田中康夫長野県知事は、今さらながら変わった人だなと思った。不特定多数の人に「見られる」感覚って、心地よく感じるものなのだろうか?


 今開催からオープンした東京競馬場の新スタンドの話。1つの目玉として「ホースプレビュー」なるものが登場した。JRA初の試みで、これまでファンが直接見ることができなかった検量室エリア(レース前後に騎手が負担重量の確認をしたり、着順確定を待つ所。勝負服の着替えもする)を、ガラス張りの壁越しに間近に見渡すことができるというもの。野球だったらベンチ裏をファンが堂々とのぞけるようなものだ。


 レース後の取材は、検量室前で行う。先週はそこで妙な違和感を感じた。その正体は、以前までは壁だった部分からこちらを見ているたくさんの人の目、目、目…。ガラス越しにズラリと人が集まっており、逆動物園の感覚に陥る。もちろん僕の動きなど、誰も気にしていないのだろうが、こっちは意識してしまう。競馬予想、取材をするに当たり、馬の気持ちが少しでも分かるよう四苦八苦している中、パンダの気持ちが先に分かったような気になった。


 もっとも、もっと意識してしまうのは騎手の方だろう。「正直いい気分はしない」「見せ物じゃない」という声もあった。「競馬そのものを見てほしい」というのが、騎手の多くが思っていること。あまり裏側まで見られることに気持ち悪さがあるのも、何となく分かる。


 だが、ガラスの向こう側に回ってみると、感想が少し変わった。レースが終わり、馬と騎手が引き揚げてくると「来た来た」「あれ武豊かな?」とファンが沸く。首をポンポンとたたくしぐさ、騎手が馬から軽快に降りる姿。僕らは取材で見慣れているが、目の前の出来事を新鮮に感じている人が多かった。直線でズルズル後退した人気馬に乗っていた騎手が、レース後に調教師と話している姿を見て「あれ、馬の脚元がどうとか報告しているのかな」と想像を膨らませている人もいた。家族連れで来ていたあるファンは「これができたんで久々に競馬場に足を運んでみた」と話していた。


 テレビやウイナーズサークルに出てくるのは、当然勝利者ばかり。負けた騎手が悔しそうな表情で引き揚げてくる姿などを見る機会は少ない。多少なりとも騎手の生の表情に触れることができるのは、ファンにとっては大きいサービスではないだろうか。


 騎手会長の柴田善臣騎手は「みんな慣れていないから気にしているだろうけど、おれらは注目され、見られる職業でもあるから。プロ野球選手ももっといろいろ見られてる。ファンが喜ぶんならいいんじゃない」とホースプレビューの感想を話していた。ガラスを隔ててこちらと向こうでは、感じる雰囲気はかなり違う。だけど、レース前の緊張感、レース後の喜怒哀楽はガラス越しでも十分伝わる。今までになかった魅力を少しでもファンが知ってくれるとしたら、新しい目玉スポットは結構面白い場所になりそうだと思った。

April 30, 2005 10:11 AM

2005年04月20日

回り道で見つけた物

 先週の皐月賞ではディープインパクトが快勝。3冠馬誕生の予感に競馬場が沸いた。その1週前には桜花賞、9日の福島競馬では夢の1000万円馬券も飛び出した。華やかな話題が満載の競馬サークルだが、もうひとつ、目立たないがうれしい勝利があった。


 夢馬券の興奮も覚めやらぬ10日、福島競馬5Rで西田雄一郎騎手(30)がJRA騎手免許「再」取得後の初勝利を挙げた。同騎手は95年にデビューし、関東新人賞を獲得するなど順調に勝ち星を積み重ねていたが、マイカーで過度のスピード違反を犯し、99年に起訴された。責任を取る形で、デビューからわずか4年半で、自分の意思で騎手免許を返上。宮城県の山元トレーニングセンターで5年間、競走馬育成の仕事をしながら復帰の時を待った。そして今年3月、念願の騎手再デビューを果たした。


 復帰から1カ月以上勝てなかった期間は、本人にとって相当長かったに違いない。常々「焦りはない」と話していたが、実際は知らず知らずのうちに気負いが生まれていた。そんな時、心に響いたのが坂井千明元騎手(54)の「気持ちが前に行き過ぎているぞ」という言葉。そのおかげで冷静に周りを見ながら乗れたことが勝利に結び付いた。


 所属厩舎の境征勝調教師(59)からは、競馬成績よりも「西田が嫌いという人がいないような人間になれ」と指導されているが、親身になって声を掛けてくれる人がいたのは、西田騎手自身の明るく、誠実な性格もあったからだろう。翌週の美浦トレセンでは、会う人会う人に祝福された。みんなが5年間の頑張りを評価していた。


 もっとも、免許返上になったのは、もともとは自分の気の緩みから。道路交通法違反を起こした過去は事実だけに、復帰勝利を単に美談として飾る気はない。ただ、政治家でも、芸能人でも、他のスポーツ選手でもそう。何かを問題を起こしたとき「本当に反省してんの?」「自粛、謹慎っていうけど、その間何してたの?」と疑問に感じることが多い中、西田騎手は外の世界を感じ、違った考えを吸収してきたことで、責任感を強くして帰ってきたように思う。


 「騎手はリレーでいうアンカーだとあらためて分かった」。復帰後、何度もこのことを言っていた。「競馬は騎手がどうしても目立つが、生産者、育成者などレースまでに多くの人がかかわっている。その人を知らないにしても、牧場の人たちが喜ぶ顔や姿が想像できるようになった」。他の騎手も当然同じ思いはあるだろうが、牧場で実際につらい仕事をこなしたからこそ、バトンの重みを身に染みて感じられる。


 人の思いを背負うことは大変だが、逆にそれを力にすることもできるはずだ。伸び盛りの若手でも乗り馬確保に苦労する時代。軌道に乗りかけてきたところでリタイアした「5年間」は騎手として大きな回り道だったかもしれない。だが、人間としてはより大きくなる貴重な経験だった。年が一つ違いで偉そうなことはいえないのだが、「騎手に戻るんだ」と頑張り続けた5年間の思いを、今後の勝利にどんどん結び付けてくれると期待したい。

April 20, 2005 11:57 AM

2005年04月10日

1口馬主=「夢」購入

 馬主になりたいと思ったことはありますか?


 「いやいや、そんな大金は持ってないよ」。仮に馬に興味があっても、そう敬遠する人が多いと思う。


 何年か前に松嶋菜々子が主演していた「やまとなでしこ」というドラマでも、彼女扮(ふん)するスチュワーデス(今はCAっていうんだっけ?)が、馬主バッジを着けている堤真一を見て、大金持ちだと思い込むシーンがあった。まあ、一般的には馬主=大金持ちというのが、世間のイメージだということだろう。


 実際、中央競馬の個人馬主資格を取得するのは簡単ではない。前年度および前々年度分の所得(収入ではなく諸控除後の申告所得)が1800万円以上であること、および個人名義の不動産・有価証券・預貯金などの資産の合計が時価で9000万円以上であること、が条件になる。


 「ダービー馬のオーナーになるのは、一国の宰相になるよりも難しい」。英国のチャーチル首相が残した言葉は有名だが、今の不景気な世の中、ダービー馬以前に競走馬のオーナーになること自体が難しい、と思われている。


 だが、そこまで大金を出さなくても、オーナーに近い立場になることはできる。クラブ法人の会員になる方法だ。クラブ法人とは、1頭の馬を40~数百口に分けて、会員に出資を募るJRAの法人馬主。俗に「1口馬主」と呼ばれる会員は、出資した馬がレースで稼いだ賞金を配当として受け取れる。詳しい説明は省くが、この仕組みに「商品ファンド法」が関係しているように、気に入った馬に「投資」する株のようなイメージともいえる(ちなみに50%以上の買い占めなど、ホリエモンみたいなことはできません)。


 明日はクラシック第1弾の桜花賞が行われるが、出走18頭のうち、実に7頭がクラブ法人の馬だ。デビューから3連勝中で注目を集めるキャロットクラブのシーザリオという馬は、募集価格が1400万円だった。口数は400口。普通のサラリーマンが1人で買うには無理のある額だが、1口なら馬の価格は3万5000円。ほかにカイバ代などの諸経費はかかるが、手が出る範囲内だろう。


 自分の愛馬が勝ったときに、ウイナーズサークルで愛馬と関係者と記念撮影する快感は何物にも替え難いという。桜花賞に3頭出しする有力クラブ・サンデーサラブレッドクラブで、美浦トレセン所属馬の取材を担当している堤雄大氏(31)は「デビューまでのワクワク感や、競馬場で走った結果に一喜一憂するのは、馬主さんでもクラブの会員さんでも同じでしょう。個人で1頭すべて持つよりも当然リスクは少ないから、気軽に馬主気分を味わうことができる」とクラブ会員の魅力を語る。


 もちろん出資した馬が必ず走るという保証はない。デビューできなかったり、成績が伴わず黒字収支にならない馬も何頭もいる。ただ、それでも「夢」を買うと考えれば決して高い買い物にはならないと思う。一方で、寡占化が進む個人馬主をもっと保護すべきとも思うが、一般の方にも馬券だけでなくこんな競馬の楽しみ方もあることをぜひ知っていてもらいたい。

April 10, 2005 10:51 AM