2006年12月31日
ワクワクさせてくれ:松井清員
私が子どものころ、遊びといえば野球が一番だった。サッカーもはやっていなかったし、テレビゲームもない。学校帰り、近所の空き地に集まって、ボールが見えなくなるまで野球をしている時間が、とにかく楽しかった。「将来の夢はプロ野球選手」。小学校の卒業文集には堂々とそう書いたし、野球帽をかぶった友達がほとんどだった。
野球に興味を持ち、面白さを教えてくれたきっかけは王さんのホームランだった。ベーブ・ルースを抜き、ハンク・アーロンを抜き、世界の王になったことは、子供心に衝撃的だった。右利きだから右打席だったが、1本足打法はしょっちゅうまねた。大阪から1度だけ神宮球場に観戦に行った時、目の前で王さんが本当に右足を上げた姿には心底感激したものだ。
実際、プロになった選手たちも少年時代はそんなカリスマ選手にあこがれ、夢を抱いて志し、スタープレーヤーになっていったことだろう。野球を観戦する楽しみ。それは見ているファンを「ワクワクさせてくれること」。これが原点だと思う。
残念ながら、今の日本球界に「ワクワク感」は減ってきた。先発松坂・井川、抑え大塚・斎藤、捕手城島、二塁井口、三塁岩村、遊撃松井稼、左翼松井秀、中堅田口、右翼イチロー。野茂や大家もいる。あと一塁手がいれば、メジャー移籍組で“日本代表”と言えるドリームチームができるほど、スター選手の海外流出はとどまるところをしらない。ただでさえ人気が低迷する中で、来季は松坂と新庄が抜ける。個性的な選手が減り続ける現在、ファンも誰を応援していいか分からなくなってきているのではないだろうか。
かつてプロ野球が高い人気を誇れたのは、ファンが好きな選手、チームに感情移入しながら観戦できたからだろう。あるいは自分の人生を重ね合わせていたかもしれない。ファンはひいきの選手、チームを応援しながら「自分物語」に酔うことができた。だが、スター不在だけでなく、巨人のように何でもかんでも補強では、G党ですら「勝って当たり前、負けたら情けない」と拒否反応を起こし、結局どっちつかずになっている。感情移入したくても、できないプロ野球になってきているように思う。
「すべては歓声のために」。今年のプロ野球のキャッチフレーズだ。だが、果たして、球団も選手も「歓声のために」ベストを尽くしたと言えようか。試合、ファンサービス、FA、ポスティング、ドラフト、プロアマ問題…。自分たちの権利ばかり主張して、ファンを置き去りにしていないだろうか。球団は経営努力して魅力あるチーム、球場をつくり、選手はプレーだけでなく、ファンをひき込むショーマンシップを持って戦ってきたのだろうか。
オリックスの清原は自戒を込めて言っていた。「勝てばいいだけの時代は終わった。球団も選手も危機感を持って、もっとファンを意識して“また見たいな”って思わせるボールパークをつくっていかんと」。プロ野球は今後ますます、厳しい状況に置かれるだろう。だが今こそみんなでエゴを捨て、もう1度原点に返って、少年たちが心からあこがれることのできる場所にして欲しいと思う。活気あふれる野球界への発展を願って「見た聞いた思った」の最後の提言としたい。
December 31, 2006 12:04 PM
