記者コラム「見た 聞いた 思った」

2006年12月22日

柱1本で変わる組織:村上久美子

 阪神の金本知憲。来年開幕早々には39歳になる。まだ契約更改を終えていないが、来季年俸は5億円以上が確実とされている。日本球界最高年俸(外国人選手除く)は、横浜佐々木の6億5000万円。5億円以上でさえ過去6人しかおらず、金本も頂点に迫る勢いだ。

 高いか、安いか、妥当か-。記者は、長年の阪神ファンのひがみ根性を払しょくした男への謝礼の意味も込めて、妥当と思う。

 02年オフ、広島からFA移籍。2億4000万~2億9000万円の4年契約だった。年俸ほぼ据え置きの中、MVP(05年)打点王(04年)を獲得。2度の優勝に導いた。連続フルイニング出場1024試合の世界記録を更新している。

 数字だけではない。記者(38)が、35歳までに見た阪神Vは1回だけ。その間、最下位は…数えたくもない。いつも首の皮1枚、とか、踏ん張り時、とか、猛虎魂なんて絵空事のように、瀬戸際に弱かった。ダメ虎を金本が変えた。

 楽天野村監督は「自分で決めて、自分を殺せる理想の4番」と評したが、記者は、フルカウント率の高さに感心した。初球から振るタイプで追い込まれるのも早いが、そこからが真骨頂。ボール球を見極め、ファウルで粘り、高確率でカウント2-3まで持っていく。1打席、1打席の粘りの積み重ねが、起死回生の逆転弾、ケガを乗り越える強さにつながると思う。

 今季序盤、若手投手も台頭し、首位を快走していた巨人の原監督は「投手、打線の軸、バランスもとれた。ただ1つ、残念なのはジャイアンツに金本がいないことだ」とコメントしたことがあった。案の定、長丁場のペナント、歯車1つ狂うと失速。2年連続Bクラスに終わった。

 「阪神ファンで悪いかっ」と開き直らざるを得なかった苦汁の時代から、胸を張って「阪神ファンです」と言える今。金本の年俸には、阪神ファンの謝礼額も含まれていいと思う。

 組織を変えた大黒柱に感謝しつつ、同じようなことを、今年7月、吉本新喜劇のロス公演で見たことを思い出した。今田耕司、東野幸治、レイザーラモンHGら、タレントの比重が高い面々に、ベテラン池乃めだからを加えたメンバー。収拾のつかない構成を締めたのは、内場勝則だった。

 派手な立ち回りや目立つセリフ回しはないが、ストーリーの流れに乗った笑いのツボは外さない。役者魂を持った座長が、内場という男。ダウンタウンらと同じNSC1期生だったが、卒業2年後に新喜劇入り。横山エンタツの二男で、名物座長だった花紀京に師事した。岡八郎、間寛平らキャラクター路線とは一線を画し、あくまでも芝居の進行で笑わせたのが花紀で、ロスの内場には、その花紀が一瞬、重なって見えた。

 新喜劇のけいこといえば、短期集中型。当日の朝にけいこして本番というケースもある。その分、緊張感は相当なものがあるが、ロス公演前日のけいこも、息苦しい緊迫感があった。その空気の主は、やっぱり内場で、出番を待つHGが所在なげに、いすに座ることさえ遠慮して、けいこ場のすみにひざを抱えて座っていたのが印象的だった。

 見る者の背筋さえ伸ばす緊迫感。柱1本が組織を変える。逆に、腐ったみかん1つで、すべて腐ることもある。そんな原点を胸に抱きつつ、06年を締め、新しい07年を迎えたい。

December 22, 2006 12:18 PM