記者コラム「見た 聞いた 思った」

2006年12月20日

ばんえい競馬はナマ:村上秀明

 「怪獣みたい」。率直な第一印象だ。その主役たちの荒々しい息遣い、「ガシャン、ガシャン」と激しく鉄がぶつかり合う音が響き、想像をはるかに上回る迫力があった。何げなく足を運んだが、とにかく興奮したことを覚えている。

 ばんえい競馬を初めて生で観戦したのは、10年前の入社間もないころだった。北海道・岩見沢競馬場で、サラブレッドの2倍近くの800キロ以上もあるばん馬を見た。鉄そりを引く姿は、新聞の写真やテレビの映像より大迫力。レースは、独走状態だった馬がゴール直前で力尽きてばったり止まるケースもあった。その馬の馬券を買っていた人にはたまったもんではないが、ハラハラドキドキ感は十分あった。

 そのばんえい競馬が存廃問題に揺れていたが、民間委託での来季の存続が正式に決まった。これまでは、北海道の4市(旭川、岩見沢、帯広、北見)で構成する市営競馬組合で運営し、昨年度まで約31億円の累積赤字を抱えて浮上した存廃問題は、帯広市の1市単独開催で決着した。具体的な開催案はこれからだろうが、活路が開かれたことには違いない。

 各地で行われた署名活動など関係者やファンの熱意が形となって表れた。世界唯一の競馬を守ろうと「救世主」に名乗りを上げたのが、ソフトバンク関連企業だった。新会社を設立し、馬券販売や払い戻し、入場料徴収などの業務を請け負うことになる。さらに、インターネット技術を活用した新たな販売戦略を推し進めるという。

 確かに当面の存続で決着したが、あくまでも運営支援のソフトバンク・プレイヤーズとは単年度契約。08年度以降の保証はどこにもないのが現状だ。ある調教師が漏らした「民間会社はもうけがなければすぐに手を引くだろう」という不安も分かる。携わる企業も、決してボランティア団体ではないからだ。単年契約はプロスポーツ界でいうとベテラン選手に多い。先を見ながらでも、とにかく目の前の1年が勝負だ。

 今回決まった民間委託によって、今までになかった発想、販売戦略が可能になるケースが増加することは十分期待できる。関係者は特に、ソフトバンクの知名度とインターネット技術に期待する部分も大きい。楽観視はできないが、赤字体質から脱出するための売り上げ増の起爆剤になるのか注目したい。

 馬券販売額のアップと並行し、生で見る魅力の発信も不可欠に思う。北海道民でも、なかなか生観戦したという経験者が少ないように感じる。地元だけではなく、道外や海外向けにツアーを提案するのもいいだろう。96年に岩見沢競馬場で行った現役馬とインドゾウの競走が話題を集めたように、競馬場にファンを集める意外性のあるアイデアがほしい。

 関係者には不本意な形だろうが、今、ばんえい競馬は注目を集めている。永久的な存続が不透明でピンチともいえる今こそ、逆に足を運んでもらうチャンスのはずだ。「1度見に行こうか」。売り上げ増も大事だが、そう思わせる取り組みに期待したい。10年前、初めて見たばんえい競馬は今でも鮮明な記憶に残っているからこそ、強く思う。

December 20, 2006 11:27 AM