記者コラム「見た 聞いた 思った」

2006年12月15日

JRA職員も馬券を:岡山俊明

 JRA(日本中央競馬会)の役員、職員は中央競馬の馬券を買ってはいけない。競馬法29条で「勝ち馬投票券を購入し、または譲り受けてはいけない」と規定されている。だからギャンブルを愛好するJRA職員の多くは他の公営競技にはけ口を求める。「本心は馬券を買いたいんですけどね」と某職員。買えるようになるには定年を待つか外郭団体に移るしか方法はない。

 八百長防止の観点から調教師、騎手らの馬券購入禁止は当然としても、施行者まで及ぶのはいかがなものかと以前から思っていた。

 伊丹十三監督の映画「スーパーの女」で、パート勤めをする主婦が自分のスーパーで買い物をしないような店は信用できないという話が出てくる。飲料会社の社員は自社製品を愛飲する。新聞社の社員は出張先で自社の新聞を買う。商品に責任を持つからこそ自腹を切る。そうでないと売り物の良さを再認識したり改善すべき点が見えてこない。

 もしもJRA職員が馬券を買えれば、おそらく気付きにくかったさまざまなことが見えてくる。「ウインズに長い時間いると疲れるなあ。仕方ない、階段に座るか。もっといすがあればいいのに」「買いたいレースのオッズがなかなか見られないね。オッズプリンターは便利だけど、1枚10円って高くない?」「レースのリプレーを見られる画面がほしいな」「他場の発走が近づくと払戻金の発表が後回しにされるね。何とかならないのかな」「審議のアナウンスが紋切り型。妨害された馬の馬券を持っているんだから納得できる説明がほしいよ」。熱心なファンでこその不平不満を実感できるに違いない。

 法の趣旨はあらぬ嫌疑を避けるため。しかし、発走後の発券は不可能だし、株と違って競馬においてはインサイダー情報はほとんど意味を成さない。「おれの馬、やけに調子がいいんだよな」とか「体がガタガタで今回は使うだけ」といった有益と思える情報を得ても、しばしば逆の結果になる。現場から直接情報を入手できるメディアや馬主が馬券購入を認められているのも、インサイダー情報が馬券に結び付くとは限らないからだろう。

 10年、20年前を振り返れば、JRAのサービスは飛躍的に向上した。馬券の種類は豊富になったし、携帯やパソコンで手軽に買える。馬券は発走2分前まで買える。テレビモニターも多い(昔の場外売り場はラジオ音声のみ。オッズも手書きで1日に2度張り出されるだけだった)。マークカードの登場で窓口の列は短くなった。世界に胸を張れるマークカードは、JRAが公営ギャンブルを愛好する職員を集め、知恵を出し合った結果と聞く。職員も馬券が買えるようになれば、さらにファンとの距離が近づくだろう。

 競馬法は戦後すぐの48年に成立した。29条はそれから1度も見直されずに今日まで至った。法は常に時代の変化に遅れる。決勝審判員や裁決委員を除いて、職員の馬券購入を認める法改正を提案したい。

December 15, 2006 11:35 AM