記者コラム「見た 聞いた 思った」

2006年12月04日

クリーンなドラフト:沢畠功二

 先日の大学・社会人ドラフトで、ある選手が指名されるまでを追った。

 この選手は、当初から予想されたA球団から指名を受けた。終わってみれば順当だったが、実力ゆえに途中で争奪戦になりかけた。A球団の担当スカウトの目に留まったのは2年前で、足しげく通ってもらった。チーム監督の胸の内も固まっていた。しかし夏以降になり、実力を認めた数球団のスカウトのあいさつを受けた。「A球団は何巡目でいきそうなんですか?」などと探りを入れてきた。

 監督の言い分は、単純明快だった。「早くから意思表示をしてくれた球団に行かせたい。結局、スカウトの(眼)力じゃないの。探りを入れてくるってのは、それまでに狙っていた選手が断られたという状況もあったんだろうけども」。残念ながら、断られたスカウトから陰口もささやかれ、かなり嫌な思いをしたと憤慨していた。

 選手は希望球団名を口にしていない。しかし監督が先に声をかけてくれた球団を優先させたい意向を持っていたために、他球団は事実上の逆指名と受け取った。本当に欲しいのなら、堂々と指名すればいい。希望枠以外はウエーバー順が決まっており、ルール上で何の問題もないからだ。しかしプロ側としては、後々の付き合いを考えて、強行までして気まずい思いはしたくない。だから、横やりは入らなかった。

 指名過程としては、ありふれた一例ではなかろうか。希望枠であろうとなかろうと、指名候補は複数球団から注目される。選手は公式戦が終了するまで、プロとの接触は禁じられている。送り出す側としては、いち早く才能に目を付け、誠意を持って足を運んでくれた球団を優先したい。人と人との交渉だけに、これは自然の流れだ。ただでさえ義理人情が重視される業界。どれだけ早くからスカウトが才能を見いだしてくれたか。選手を預かる監督にとって、大きな判断材料となる。

 「妥協の産物」と皮肉られ、2年の暫定期間を終えたドラフト制度の改革は、今後本格的な議論に入る。自由競争を主張する球団、完全ウエーバーを理想とする他球団。クリーンなドラフトを目指す選手会は、希望枠の撤廃を主張し続けている。FA取得の短縮もリンクする。9月中に行われる高校生ドラフトは、進路選択が早まると高野連は歓迎している。それらは再びたたき台の材料となる。

 反映されるかは別として、実際に指名される現場もクリーンな制度を求めている。この監督は、最後にこう付け加えた。「他球団から指名されていても行ったと思うよ。それがドラフト制度だからね。選手が希望球団を口にするから、おかしくなる。今回も何人かがもめたでしょう。いっそのこと希望枠をなくしてしまえばいい。それか希望枠の選手はもっと早めに決めてしまう。そうすれば他が動きやすいでしょう。それが分かりやすくていいんじゃないの」。政治もそうだが、分かりやすく、クリーンな制度は万人が求めるところ。理想を掲げるだけで、終わってはいけない。

December 4, 2006 09:27 AM