記者コラム「見た 聞いた 思った」

2006年12月02日

弱いから分かる痛み:村上久美子

 来年のNHK大河ドラマは井上靖原作の「風林火山」。武田晴信(信玄)に仕えた名軍師、山本勘助が主人公だ。勘助を演じるのは、舞台でも活躍する俳優内野聖陽。内野は、勘助役にあたり「この男は不遇の人。おれには力がある、と思いながらも、若いころは仕官もかなわず、持て余していた。そういう人だからこそ、信玄に出会い、成功したのだと思う」と、強いこだわりを語っている。

 勘助はそもそも、実在したかどうかさえ不明。軍師ではなく、伝令将校だったとする説もある。ただ、井上靖原作の「風林火山」では、目と足の片方が不自由で「背は低く顔は浅黒い異形の相」だったと記され、それが一般的な勘助像になった。姿形からして、コンプレックスの塊。内野は、それをバネに名を上げた男っぷりにひかれた。

 そういう意味で「風林火山」には、深い傷を自分の手でふさいだ女性も登場する。俳優柴俊夫、女優真野響子の1人娘で、大河で女優デビューする柴本幸が演じる由布姫だ。血縁の晴信に滅ぼされた諏訪頼重の娘。あえて自決せず、晴信の側室になり、男児を出産。後に家督争いを制して武田家を継ぐ勝頼だ。結果的に、諏訪家の血を武田家に残し、本懐を遂げている。

 内野が、柴本が、語る演者像を聞きながら、コンプレックスを乗り越えようとした直後、病に倒れた故若井小づえさんの姿が脳裏をよぎった。

 緑の帽子をかぶって「嫁にもうて~」。決して、ルックスはイケていなかった女性同士のコンビ、若井小づえ・みどりの小づえさんだ。大阪で生まれ育った記者は、子供のころから、よくコンビを見ていた。誤解を恐れず言えば、絶対に結婚できそうにない2人が、ひたすらけなし合い、最後は誰でもええから嫁にもろてくれ、と叫ぶ妙。典型的な関西風の自虐的な漫才だと思っていた。

 女性コンビのトップに君臨したが、あっけなく崩壊する。みどりの結婚。「モテない」ことが売りの両者に走った溝だけが原因ではない。片方が結婚すれば、もう1人に同情が集まる。お笑い芸に同情が入った時点で、客はもう笑えない。

 コンビは解散した。せっかく、ルックスを逆手にとって成功していたのに…。それでも、小づえさんはたくましかった。趣味だったヨガを生かして、兵庫・尼崎にヨガ教室を開校。マンツーマンで、ヨガを教えてもらったこともある。

 甲殻類のように体が硬い記者に、手取り足取り、3時間ほど根気よく付き合ってくれた。「できる人に教えてもしゃあない。できひんから、できるようになりたい思う。性格かてそう。ひねくれた人は素直になりたい思うし。でも、ひねてるから分かる気持ちいうのもあんねん」。

 弱者だから分かる痛みがある-。そう言っているように聞こえてきた。誰よりも弱いから、立ち止まろうとせずに前へ歩を進めてきたんだろうな-などと、あったかい心に包まれた気がしていた。その直後だった。舞台後の打ち上げで小づえさんは倒れ、そのまま亡くなった。手が震えてワープロが打てなかった。

 でも、勘助の、由布姫の生きざまが語り継がれるように、ささやかだけど、小づえさんのハートも記者の中にまだまだ生きている。

December 2, 2006 01:09 PM