記者コラム「見た 聞いた 思った」

2006年11月19日

同じ目線で叱咤激励:浜崎孝宏

 高校野球の強豪校で不祥事が相次いでいる。今夏の甲子園で準優勝した駒大苫小牧(北海道)、昨春のセンバツ準Vの神村学園(鹿児島)、常総学院(茨城)池田(徳島)など…。グラウンド外でも模範となってほしいチームだけに残念だった。

 先日、行われた秋季九州大会では、そんな心の痛手を受けて再出発しようとする監督がいた。自由ケ丘(福岡)の末次秀樹監督(48)だ。柳川の主軸選手として夏の甲子園に出場し、8打席連続安打をマーク。母校の監督に就任後、春夏通じて甲子園に6度出場した。ところが05年夏の甲子園後に、部員による不祥事の責任を取る形で柳川のユニホームを脱いだ。心機一転、自由ケ丘の指揮官として今年の夏から再スタートを切った。

 柳川時代、不祥事が発覚した直後に取材に出向くと、丁寧に監督室で対応してくれた。ショックの色は隠せなかったが、名門校ならではの悩みも打ち明けてくれた。「いろんな土地の子が集まると、なかなかまとめるのに苦労するんだよ」(末次監督)。柳川はプロ選手を多数、輩出する強豪校とあり、県内はもとより県外からの生徒も集まる。県外の“野球留学生”は育った風土、文化、気質などが若干、異なるため、なかなか部内で意思の疎通が図りにくいそうだ。

 取材した不祥事は、先輩から後輩への暴力が原因だった。被害者は、ファウルボールを拾う係だったが、試合中に居眠りして上級生にカツを入れられたとか、寮生活で輪番制になっている掃除当番を何度もサボって叱(しか)られたり、といった内容だった。頭に裂傷を負うなど「行き過ぎた愛のムチ」だった。

 最近、不祥事が発覚している高校をながめてみると、県外からの野球留学生を受け入れている強豪校が少なくない。有力選手が毎年加入する強豪校は、弱小チームからすればうらやましい限りだが、常に甲子園を目指すように“常勝”を義務づけられる。それだけに、チームを結束させる作業の中で、苦労している様子もまたうかがえる。

 自由ケ丘は、九州大会準々決勝で敗退した。「今は選手とひとときも離れたくないね。ハードルを2段下げて接することができるようになった」。新天地で末次監督は、野球が楽しくて仕方ない様子だった。

 教育の現場では、体育の授業などで先生が、子供とともに腰を下ろして、同じ目線で指導する場面をよく見掛けるが、末次監督も、今まで以上に選手の目線で指導している様子。評判も上々で、同校の選手は「どんどん話しかけてこい、と言われるので接しやすい」と話していた。

 指導上、叱咤(しった)激励は当然、ある。「怒る」ことはアウトだが、「叱る」ことはセーフだと思う。体罰はいけないが、相手との信頼=絆(きずな)がなければ、「叱ってやる」ことはできないと思う。

November 19, 2006 10:31 AM