記者コラム「見た 聞いた 思った」

2006年11月18日

ファンあっての野球:鳥谷越直子

 欽ちゃんが時代を読み取ったのか、時代が欽ちゃんを求めたのか。新庄が日本ハムを変えたように、欽ちゃんは社会人球界を変えた。

 12日、茨城ゴールデンゴールズ萩本欽一監督(65)プロデュースの「つくばゴールデンチャレンジ」が、全日程を終了した。全国のクラブチームと14試合を行い、観客は3万5000人を動員。2年前までクラブチームの試合は関係者数十人しかスタンドにいなかったことを思うと、シンジラレナ~イ現象である。

 2年前の冬。四谷の飲食店で萩本氏と初めて会った。「どぉも、萩本です」と愛嬌(あいきょう)たっぷりにあいさつすると、自らが立ち上げる野球チームの構想を熱く語り出した。「試合中にマイクを使ってプレー解説や選手紹介したり、選手名にスポンサー名と両親の名前を付けてジュゲムジュゲムみたいに長い登録名にしたいの…」。聞いた瞬間、不可能だと思った。

 ところが1年目から次々と実現させ、話題をさらった。とりわけ地域密着の姿勢はファン獲得につながった。今年7月の廃部騒動の際、存続を求める署名が3日で約5万件も集まったのは、その証しだ。行政も巻き込んで地域振興の核にチームの位置付けを上げた。

 驚くのは自身の報酬がゼロという点だ。愛する野球界のてこ入れがいかに純粋な気持ちかが分かる。いわばライフワーク。スポンサーが現在6社付いているが、すべて球団の運営経費に充てている。

 「だって野球がなくなったら寂しいじゃない。野球を盛り上げるにはお客さんの熱い気持ちが一番大切なの。その思いに選手が応える。最初からメジャーリーグを目指すといったらあきらめる子もいるけど、欽ちゃんのところなら楽しそうって、興味持つ子が増えればいいなと思っている。底辺が広がらないとダメだよ」。

 「欽ちゃんショー」だけではファンが離れると読み、チーム強化にも本腰を入れた。「試合が選手を育てる」と、日本野球連盟に公式戦拡大を直談判。それを受けて、今年から同連盟が「つくばゴールデンチャレンジ」の後援に踏み切ったのは、異例のことだった。毎試合後、欽ちゃんがファン1人1人に名前入りのサインをする姿を見て、これぞ「ファンあっての野球」の原点と感じた。

 「芸能界も野球界もお客さんが育ててくれるの。だから見に来てくれた人には何かオマケをつけてあげたいんだよね」(欽ちゃん)「(派手なパフォーマンスに批判の声もあったが)その1人の声を気にするのか、10万人のあったかい言葉を聞くのかって言ったら10万人。オレが怒られたらいい。ファンはみんな喜んでくれた。オレの勝ちなんですよ」(新庄)。かつて長嶋監督がオーバーなスローイングやリップサービスでファンを楽しませたように、2人に共通するサービス精神がファンの心をつかんでいる。邪道かもしれない“エンターテインメント野球”。だが、少なくとも、ふだん球場に足を運ばない人たちに野球の面白さを伝えることができたのなら、大きな功績だと思う。

November 18, 2006 01:56 PM