記者コラム「見た 聞いた 思った」

2006年11月16日

理想と現実に苦しみ:藤中栄二

 カラオケに行った。最初に、1度歌ってみたかった曲を入力した。「約束の場所」。自分の歌唱力がいまいちなことを除き、人気男性デュオ「ケミストリー」の最新曲は、詞も曲も心地よいナンバーだった。鉄棒のあった小学校のグラウンドの風景や少年時代の思い出が頭に浮かんだ。

 ★「夢は時間を裏切らない 時間も夢を決して裏切らない」。

 このサビ部分が、きっかけだった。ご存じの通りの「盗作騒動」。漫画家の松本零士氏が自身の漫画「銀河鉄道999」で登場する以下のセリフと合致すると主張した。

 ☆「時間は夢を裏切らない、夢も時間を裏切ってはならない」。

 松本氏は「創作家同士のプライドの問題。男同士なら分かってほしい」と本人の謝罪を要求している。

 一方の「約束の場所」の作詞・作曲者となるシンガー・ソングライター槙原敬之も反撃する。「松本氏の作品『銀河鉄道999』について、私の個人的な好みから、1度も読んだことがありません」と完全否定。逆に「約束の場所」が起用されたCM放送休止のダメージから謝罪を要求している。松本さんの発言通り、2人はプライドを懸けて「オリジナル」であることを主張し続けている。

 スポーツ新聞の記者は創作家ではない。ライターやリポーターとも違う。ジャーナリストという言葉が的確だろうと思っている。現場で感じ取った雰囲気、取材を通じて得た情報を記者自身のフィルターを通して整理。記事のイメージを考え、紙面を編集する上司に伝える。主観や独自の視点、主張をぶつけあって記事が完成する。記者が妊婦ならば、直属の上司は助産婦といったところだろうか。特に自分自身の腹を痛めて生んだ記事には一層の愛着がわくものだ。

 読者の皆さんは、仕事で必ず理想と現実に苦しむことがありませんか? スポーツ新聞の記者も頭の中には理想の文章の流れが浮かんでいるにもかかわらず、いざパソコンに向かって打ち出した原稿がイメージと違う場合が数多くある。記者でさえ、記事に対して思い悩む。創作家であるならば、想像以上のプレッシャーであろうと推測できる。

 松本氏の作品も、槙原の作詞も、身を削る思いで生み出した作品に間違いない。DNAが入っていると言ってもおかしくない。作品=子供である以上、愛着も強いし、執念深くなる。自分は創作家のレベルには遠く到達することはできないが、主張をぶつけ合う、譲れない気持ちに強く共感してしまう。

 カラオケで「約束の場所」を歌った後、仲間が次に入力したのはゴダイゴの「銀河鉄道999」だった。創作家2人の意思とは関係なく、今回の盗作騒動を通じて、できてしまった曲と漫画の接点。当の2人はお互いのプライドが傷つけられ、盗作騒動は収束に向かったとしても「しこり」として残るだろう。しかし、マイナスだけではない。「約束の場所」で「銀河鉄道999」を連想する。その逆もある。2つの作品が最高のものだからこそ、その先には相乗効果もある。

November 16, 2006 10:22 AM