記者コラム「見た 聞いた 思った」

2006年11月11日

谷の穴埋まるのか:松井清員

 オリックスの谷放出には驚いた。私の中でも<賛否>両論が渦巻いている。

 谷は三菱自動車岡崎から96年にドラフト2位で入団して以来10年間、チームの顔だった。4年連続3割のほか盗塁王も獲得し、ベストナイン5回、ゴールデングラブ賞4回。イチロー、田口との外野は鉄壁トリオと称され、特に2人のメジャー移籍後は人気、実力ともにチームを引っ張ってきた。柔道五輪金メダリストの亮子夫人との2ショットは、国民的平和な家庭の象徴とも言われた。チームのイメージアップへの貢献も計り知れず大きかった。

 <賛>その谷を巨人の1軍未勝利投手と1軍無安打野手2人と交換した。どう考えても不釣合いだが、小泉球団社長は「5年後に評価されるトレード」と表現した。若手の将来性を求めたオリックスとベテランの実績を求めた巨人。ファンには複雑な思いもあろうが、オリックスも英断したもんだと感心した。実際、谷はここ2年、右ひじ痛の影響で満足な成績を残せず、若手の台頭もあってくすぶりかかていた。ただ環境さえ変われば働ける力はあると思う。谷個人には、もうひと花咲かせるチャンスをもらった、いい移籍だと思う。

 もちろんオリックスはそんな情よりも「商社」らしいビジネス感覚を優先させたことは間違いない。戦力としての不振に加え、清原や中村の加入によって人気面での後退も否めなかった。昨年までは谷1人に集中していた取材依頼やグッズの売り上げは大幅減。オリックスの名前を宣伝すべく「どれだけスポーツ新聞の大きな記事になったか」も査定の対象にしている球団では、著しくポイントが下がっていた。それはオリックスでの「賞味期限切れ」を意味していた。

 <否>そんな谷放出は経営戦略として妥当かもしれない。ただ1番疑問を感じるのは、目指すチームの方向性が見えないことだ。皆さんはオリックス選手の顔と名前がどれだけ分かりますか? 清原、中村、吉井、北川、村松、デイビー、セラフィニ…。現在の看板選手のほとんどは他球団からの移籍組。近鉄との合併があったにせよ、生え抜きの主力は川越、塩崎、日高ら少数しかいない。中でも谷は屈指の顔で、オリックス色を持った幹部候補生だったわけだ。そんな選手を簡単に出すなんて…。

 イチローと田口が去り、星野伸は阪神にFA移籍した。だがこの間、球団が次代のスター選手を作ることはなかった。人気の低さゆえ、ドラフト上位で有望選手を獲得できなかったことも一因。ドラフトそのものの失敗、育成の失敗もあるだろう。7年連続Bクラス、7年連続監督交代によって、チームの土台作りができなかったこともあるだろう。結果生え抜きの主力が育たず、他球団からの寄せ集めチームになった現状が放置されているのだ。

 オリックスと同じ現象は、今の巨人にも見て取れる。中日や西武のように生え抜きが主力を張っているチームは強く、その反対はもろい。オリックスも昨年のドラフトで平野佳や“なにわのゴジラ”岡田ら次代のエースや4番候補をようやく獲得したが、色が付いてくるのは数年先だろう。いずれ清原が去り、中村が去り、吉井が去った時、果たして誰がチームを引っ張っているのか。谷が抜けてぽっかり開いた穴から、現実が透けて見えた。

November 11, 2006 12:19 PM